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嘘じゃない。嘘じゃない、本当だ。
うん。
「そんな夢見たの」
「よく見る」
「何回、夢の中で私を殺すのよ」
「悪ぃ」
悪くないのに、悪ぃ、なんて謝ってきたアルベドに、私は何て声をかけられただろうか。彼が、私が死ぬのを恐れている、私には死んで欲しくないってそういってくれているのに、私は、まだあの恐怖が支配する身体で彼の頬を撫でることが出来なかった。触れる気力すらない指先がピクリと動く。
でも、アルベドがそんな悪夢に晒されているのかと思うと、私がこうして生きているだけで安心してくれるんじゃないかっても思ってしまう。そんなの、自意識過剰だって思われかねないけど。
「アルベド」
「何だよ。まだ、何か文句でもあんのか?」
「ううん。えっとでも、私が死んだら、アルベドってどうする……のとか思っちゃったり、して」
と、私が言えば、アルベドの顔に深い皺が寄った。
そんなこと言うな、と怒りそうな口はギュッと閉じられて、アルベドは全てをかみつぶしたように、吐き捨てた。
「んなことありえねえ。お前は、俺が死なせない」
「それ、分からないじゃん」
「冗談でも言うなよ。つか、もし、そうだったとしたら……お前がそうなるっつう未来があるとしたら俺は、禁忌の魔法を使うな」
「禁忌の魔法……」
時間を戻すのだろう。今、エトワール・ヴィアラッテアがやろうとしているように。
でも、ループなんてして、幸せになれないんじゃないかなとか思ったりする。ループ成功した、なんてものは稀だろうし。それに、時間を戻したら、禁忌としてアルベドが死んでしまうのではないかと思ってしまった。だから、そんなことはやめて欲しい。でも、冗談で言っているんじゃないって分かっていたから私は何も言えなかった。
嬉しくないわけじゃなかったから。
「そう」
「お前が幸せになれる未来のためなら、俺は何度だって死ねる。禁忌を犯そうがな」
「……何でそこまでしてくれるの?」
「好きだから」
「……」
「――って、理由いっても、お前の好きな奴は変わらねえと思うがな。惚れた女のために、死んでる哀れな男だと思ってくれよ」
と、アルベドはひらひらと手を振った。自笑気味にいうので、それが痛々しい。
だから、強がりで、心配させちゃいけないって思ってしまう。
ああ、また自分の悪い癖が出ているなって自覚しつつも、自分を押し殺すことしかW他市には出来なかった。
「大丈夫」
「何が」
「怖い夢見ちゃったけど、アルベドが起きたらいたから……さ、うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「っ……まあ、それなら良いけどよ」
「あ~デレたなあ。やっぱりツンデレじゃん」
「ツンデレって何だよ。つか、頬つつくな。いてえだろうが」
「つめ伸びてないけど?」
「そういう問題じゃねえし」
なんてツッコミを入れてくれるアルベドに、思わず笑ってしまった。あの怖い夢が無かったことにはならないし、見ていないって忘れられるわけじゃないけれど、こうやって日常に戻ってこれたから、安心してしまう。
あれは夢。現実じゃないし、現実にさせない。
きっと、私の魂と、エトワール・ヴィアラッテアの魂が二つ世界に存在しているから、きっと私の夢にも彼女は干渉できるんだと思う。度々、彼女の夢を見るのはそのせいなんじゃないかってそう分析した。でも、対処法は分からないから、こうやって悪夢を見せられて、精神疲労が凄いことになっちゃうかもだけど。
(うん、首ついているし、大丈夫)
痛かったのは本当だし、でも、アルベド曰くあとになっていないのなら大丈夫だろう。さすがに、自分で自分の首を絞めていたっていうオチじゃないだろうし。
(って信じたいけどね……)
洗脳魔法で、自分の首を絞めるように指示されていたら、それはそれでまずいかも知れないけれど。もし、そうだったとしたら、魔力の痕跡に、アルベドが気づくだろうし。
やっぱり、ただの悪夢だったんだと。
(考えても仕方ないことだから……)
どうでも良いけれど、アルベドがツンデレ属性だったことを、完全に忘れていた。さっきデレが見れたのは貴重だなあ……なんて、気を紛らわせるために考えていれば、アルベドが、スッと手を伸ばしてきた。思わず、目を閉じれば、頬をスルリと撫でる。
「な、何!?」
「お前も、魔力減ってんじゃねえの?顔色が悪い」
「いや、ここ薄暗い森の中だし、顔色悪く見えるだけよ」
「どんな、誤魔化し方だよ」
プッと笑われてしまったが、アルベドは「それならいいけどな」と深く突っ込んでこなかった。もっと深く突っ込まれるものだと思っていたから、何というか拍子抜けしてしまう。でも、確かに、魔力が少なくなってきている気がしたのだ。
(聖女っていっても、魔力の限界はあるのよねえ……)
まあ、エトワール・ヴィアラッテアっていう身体が魔力がわき出てくるものだったら、彼女を倒すことは出来ないし、厄介極まりないからこれでいいのかも知れないけど。
でも、魔力が無限に使えたら、無敵なのではないかと思った。
後は、想像力の問題で、何処までだって強くなれるわけだし。
イメージと、魔力があっていないから魔法がしょぼいっていうのはあるんだろうけど。元々、魔法のない世界で生きてきたんだから、分からなくたっていいとは思うんだけど。
「アルベドは、大丈夫……なの」
「ああ、彼奴に思った以上に魔力注がれたからなあ……恩を売ってどうするつもり何だか」
「アンタへの愛情じゃない」
「……」
「じゃなきゃ、魔力与えるような人じゃないと思うから……ラヴィってそう、だと思う」
多分、アルベドだって本気でさっきの言葉を言ったんじゃないだろうけれど、まだ、二人の間に壁はあると感じている。アルベドは、何も言わなかったけど信じていても、幼い頃に裏切られた心はそう簡単には埋まらないのだ。何処かでずっと疑っている……見たいな、そんな。
「そうだな、俺は彼奴からの好意をしっかり受け止めきれねえのかもな」
「アルベド」
「エトワールの件がいつ頃片付くか分からねえけど、片付いたら、一回、話し合ってみるのも良いかもしれねえな」
「うっ、いつ片付くか分からないなら、先にラヴィと話し合えば良いのに」
「兄弟の問題だ。時間かけてもいいだろうが」
「えー私より優先すべきなんじゃないの?」
優先順位がおかしい! といいたいけど、多分逃げているだけなんだろうなって言うのも分かるし、そこも突っ込まないでおこうとおもった。でも、兄弟と仲が悪いままって寂しいから、いつかアルベドとラヴァインがわかり合える日がこればいいなとは思う。
「それで、これからどうする?」
「どうするって、辺境伯の元に向かうんだろうが」
「そ、そうだった……」
「忘れてどうするんだよ。目的を……」
どうするの? って、大切な目的を忘れてしまったことに、顔が赤くなった。寝たら忘れるタイプだと思われたらどうしよう。何て思いながら、私は、アルベドの方をチラ見する。確か、ここから近いっていっていたから、明後日くらいにはつくだろう。
でも、話を聞いて貰えるか、そもそも、顔を合わせて貰えるかも分からない。完全に無駄足になるっていうリスクも考えつつ、身を隠して……
やることが多い! 気にしないといけない事が多い! と頭が痛くなってきた。何でここまで考えないといけないのか、とぐぬぬ……と唸る。唸っても仕方ないんだけど。
「じゃあ、行くか」
「へ、変身魔法使っていった方が良いよね」
「当たり前だろ、俺とお前は目立つからな」
と、アルベドは、自分の髪色を差した。そりゃ、その紅蓮は何処にいても目立つだろう。
(赤髪のポニーテールなんて、目立ってしかないじゃない)
自分でも理解しているけれど、髪を切るってことをしないアルベド。もしかしたら、自分の髪に執着でもあるのかも知れないなあと思いながら、黒髪に染めた彼を見て、勿体ない、と思ってしまったのは別の話。
(黒髪……)
「どうした?」
「ううん、何でもない」
漆黒に染まった彼の髪を見て、長さも身長も全部違うのに、遥輝の姿が重なったのは何故だろうか。やっぱり、恋しいのかな、と忘れられない恋人のことを思いながら、私も彼と同じ黒に染め上げた。