テラーノベル
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夏休みも明け、いよいよ文化祭当日となった。
「ねえ!如月くんやばいっ!!!執事喫茶だって!!」
「みんな如月くんを一目見ようと5組に押し寄せてるんだって」
「執事っ……アッ、やばい、死ぬ」
そして、もちろん如月律が主役である。
「まーた背後に薔薇咲いてるわ」
ふんっ、と悪態をつきながらも正直見とれていた自分もいた。
文化祭の執事喫茶、ホスト、コスプレ、ロミオとジュリエットは少女漫画のお約束である。ただ、衣装を着ただけで視線を集め称賛されている彼は痛いほど羨ましかった。
「皐月、軽音部の部長呼んでるよ」
タキシードを着こなした如月が宏斗を呼ぶ。
「あー、どうも」
大人げなく、目も合わせずに席を立ちあがると、グッと腕を引っ張られる。
その瞬間、シトラスの香りが宏斗の鼻筋に入り込む。
「皐月って、軽音部なの?」
「……は?」
腕を引っ張ってまで聞くほどの内容ではなかった。
しかし、如月は宏斗の目をジッと見つめ、そらさなかった。
「いや、文化祭の助っ人ってだけ…てか手離せよ」
宏斗も少しだけ挙動不審になりながら一歩下がった。
今更ながら、この如月律から絡まれるととてつもない迫力があった。
「先輩呼んでるから」
そう言って、宏斗は逃げるように教室を後にした。
“如月律”を見るたびに苦しくなる。自分がどれだけ平凡なのか思い知らされ、自分の持っていないものをすべて持っている彼が妬ましい。
ギターケースを抱えて、廊下を出ると部長が待っていた。
珍しく髪の毛をセットしていて、少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「最後の文化祭だから、気合い入れてみたんだ!」
嬉しかった。自分が作った曲で誰かの心に火が灯ること、誰かの思い出に自分が残ること、そしてそれが音楽っていうこと。
「今日は絶対成功させましょう」
宏斗は、部長の背中を軽く叩き、体育館へと向かった。
_____________
“軽音部13時からライブやるらしいよ”
“でも、ウチの軽音部ってなんか地味じゃん”
本番まであと30分前。ライブ前にあるお笑いライブのおかげで中々の人数は集まっているが、用が済んだら帰ってしまいそうな…そんな予感がした。
“ありがとうございましたーーーー!!”
コントが終わり、宏斗たちの心拍数が徐々に上がっていく。そして、案の定に生徒たちは席を立つ。
後ろを振り向くと、部長たちは張り付けたような笑顔で宏斗の背中を叩いた。ものすごく苦しい…と、そう叫んでいるようにも聞こえた。
ステージの上から、体育館の出口へ向かう生徒たちの背中を見つめた。
手が震える。悔しい。悲しい。
でも何より、曲を聞かずに“地味だから”という理由で見向きもされないことが、たまらなく苦しかった。
如月なら、嫌でも人が集まるだろう…如月なら…如月…
“ジャーーーーーーーッ”
突然、体育館中にギターの音が鳴り響く。その音に生徒たちは足を止め、ステージに目を向けた。その音の正体は、部長だった。
宏斗は、部長の横顔を眺めながら、流されるようにマイクを握った。
「聞いてください」
________レプリカ。
ドラムの合図と共に、曲が始まる。足を止めた生徒たちはこちらに体を向けステージへと近づく。それどころか、吸い寄せられるように人が集まってくる。
苦しい時ほど、いい音が出るんだって______。
怜…俺、苦しいよ。俺はヒーローにはなれないんだ。
募る感情がギターをかき鳴らす。サビに入る瞬間顔を上げた。
“き…さらぎ…”
如月は、見たこともない表情で宏斗を見つめていた。
_____初めて…如月律に勝った気がした。
曲が終わると、体育館は大盛況だった。拍手と歓声に包まれ、アンコールまで始まった。部長は泣きながら笑っていて、他の部員も泣いていた。
すごく気持ちがよかった。
_____________
“皐月くん!すごくかっこよかった!!”
“皐月くんって歌もギターも上手いんだね!!”
ライブが終わった直後、予想外の展開だった。今まで空気のような存在だった宏斗は、今日生まれて初めて女の子に囲まれる特大イベントが発生した。
「ま、まあ、大したことないよ」
いざ囲まれると、日頃の成果はまるで発揮できなかった。
ミステリアス(風)ヒーローキャラはどこかへ消え去り、そこにいたのはただの赤面ボーイである。
だが、これは千載一遇のチャンスだ。
「でも…ライブ来てくれてありがとう」
必殺の微笑みを繰り出した――その瞬間。
“ブワッ” タイミングよく風が吹き抜けた。
(来た……!!)
これは……とうとう俺の時代来たのでは……????
――そう思った瞬間。
“コツ、コツ、コツ”
足音が近づくたび、周囲がざわつき始める。
女子たちの視線が、一斉に宏斗の後ろへ向いた。
「きさらっ……」
こちらへ向かってくる如月と目が合う。力強い視線に、一歩後ずさった。
「皐月」
強引に宏斗の腕を引っ張り、如月のピンク色の唇が、
宏斗の唇を覆った。
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