テラーノベル
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神崎は、屋上へ続く階段を駆け上がった。
一段。
また一段。
心臓が激しく鳴っている。
「母さん……。」
三十年前。
幼い神崎の前から突然消えた母親。
死んだと聞かされていた。
何度聞いても、父親は答えてくれなかった。
「母さんは、もういない。」
それだけだった。
だが今。
その母親が、この病院の屋上にいる。
扉の向こうに。
神崎は勢いよく扉を開けた。
バンッ!
冷たい風が吹き抜ける。
屋上の中央。
一人の女性が立っていた。
白いコート。
長い髪。
歳を重ねているはずなのに、神崎の記憶の中にある母親とほとんど変わらない。
女性は振り返る。
「……悠真。」
その声。
間違いない。
神崎の目から涙が落ちた。
「母さん……?」
女性は微笑んだ。
「久しぶりね。」
神崎は動けなかった。
「……どうして。」
「ずっと、あなたを待っていたの。」
「死んだって聞いた。」
「そうね。」
母親は空を見上げる。
「みんなには、そう伝えた。」
神崎は拳を握る。
「なぜ?」
「あなたを守るためよ。」
「誰から?」
母親は答えなかった。
その代わり、神崎の胸元へ視線を向ける。
「あなた、自分が何者なのか知りたい?」
「……ああ。」
「なら、これを。」
母親は小さなペンダントを取り出した。
銀色の古びたペンダント。
神崎が手に取る。
その瞬間。
頭の中に映像が流れ込んできた。
白い研究室。
たくさんのモニター。
ベッドに横たわる少年。
そして、その少年の隣に立つ母親。
「……俺?」
幼い神崎だった。
母親は泣いている。
その前に、白衣の男が立っている。
「これで記憶移植は成功します。」
「この子は、もう一度生きられる。」
神崎は息を呑む。
「もう一度……?」
映像が切り替わる。
少年の心拍が停止する。
ピーーーッ。
母親が叫ぶ。
「悠真!」
そして白衣の男が言う。
「成功です。」
神崎の頭痛が激しくなる。
「うっ……!」
ペンダントを落とす。
母親が駆け寄る。
「悠真!」
「俺は……。」
神崎は震えながら顔を上げる。
「俺は、子供の頃に一度死んでるのか?」
母親は答えない。
それが答えだった。
────────
屋上の扉が開く。
佐伯と少女が現れる。
その後ろには、もう一人の神崎。
「母さん……。」
もう一人の神崎が呟いた。
母親は彼を見る。
「あなたも来たのね。」
「はい。」
神崎は二人を見る。
「知り合いなのか?」
母親が頷く。
「彼を作ったのは、私です。」
神崎の表情が凍る。
「……母さんが?」
「ええ。」
もう一人の神崎が静かに言う。
「私は、あなたの記憶を保存するために作られました。」
「あなたが死んでも、あなたを失わないために。」
神崎は拳を握る。
「じゃあ、全部母さんが始めたのか?」
母親は首を横に振った。
「いいえ。」
「始めたのは、私じゃない。」
「じゃあ誰だ?」
母親は神崎を見つめる。
そして。
「あなたのお父さんよ。」
神崎の顔から血の気が引いた。
「……父さん?」
「あなたのお父さんは、この研究の責任者だった。」
「そして……。」
母親の声が震える。
「転生という言葉を最初に使った人でもある。」
神崎は何も言えない。
「でも、彼は途中で気づいた。」
「この研究が間違っていることに。」
「だから逃げようとした。」
佐伯が尋ねる。
「それで?」
母親は空を見上げる。
「殺されたわ。」
「教団に?」
「違う。」
母親が首を横に振る。
「教団より、もっと前。」
「研究そのものを作った人間に。」
神崎は尋ねる。
「誰なんだ?」
母親は答えた。
「……あなたよ。」
静寂。
「何を言ってる?」
「あなたのお父さんを殺したのは、あなた。」
「違う!」
神崎が叫ぶ。
「俺はそんなことしてない!」
母親は悲しそうに微笑む。
「今のあなたは、していない。」
「でも……。」
彼女は神崎の胸に手を当てる。
「最初のあなたが、したの。」
神崎の頭に、また記憶が流れ込む。
白い研究室。
父親。
そして幼い自分。
だが。
幼い神崎の目は、少年のものではなかった。
冷たい目。
大人のような表情。
その手には拳銃。
父親が叫ぶ。
「悠真! やめろ!」
銃声。
神崎は息を呑んだ。
「……俺が……父さんを?」
母親は涙を流している。
「あなたの中には、最初から別の人間の記憶が入っていた。」
「その記憶が、あなたを動かしていた。」
神崎は後ずさる。
「じゃあ、俺の人格は……。」
母親が答える。
**「あなた自身よ。」**
「でも、その始まりには……。」
彼女は言葉を止める。
その瞬間。
スマートフォンが鳴った。
画面には、またしても表示されている。
神崎悠真
今度は着信ではない。
動画が送られてきていた。
再生する。
画面に映ったのは、研究室。
そして。
カメラの前に座っている人物。
神崎は息を呑んだ。
そこに映っていたのは。
今まで見たどの神崎とも違う。
白髪になった男。
だが顔は同じ。
その男が、カメラへ向かって言う。
「もし、この映像を見ているなら……。」
「私は、まだ死んでいない。」
神崎の目が見開かれる。
映像の中の男は続けた。
**「私は、あなたの十四回目の人生を待っている。」**
動画が途切れる。
画面には最後に一文だけ残った。
**『次の転生者は、もう生まれている。』**
神崎はゆっくり顔を上げた。
母親が青ざめている。
「……そんな。」
「どうした?」
母親は震える声で言った。
**「十四回目は……あなたじゃない。」**
遠くで、サイレンが鳴り始めた。
そして病院の地下から。
再び、あの機械音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……
新しい実験が、始まろうとしていた。
るしゅ
1,021
九家
23
#●害事件
コメント
1件
第13話、読み終わりました……。 お母さん、生きてたんですね。それだけでも衝撃なのに、まさか神崎くん自身がお父さんを……ってところで心臓止まるかと思いました。 「あなた自身よ」って言われても、その始まりに別の誰かがいるって、自分って何なんだろうって考えちゃいますね。 最後の「十四回目の人生を待っている」も気になりすぎる……! 次の話が待ちきれないです、リユさん。ちゃんと受け止めました。