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星崎視点
僕は小さい頃から、
レコードマニアの祖父の影響で音楽が好きだった。
でも当時の同世代には古臭く伝わるようで、
クラスメイトと音楽の話なんて出来なかった。
だって好みの世代が違いすぎて話が噛み合わないんだから。
例えば阿久悠さんが好き。
はあ?
誰それ?
それに対してクラスメイトはジャニーズの誰々が格好いい!
ジャニーズって誰?
外国人?
タレント事務所?
こんな感じで会話になんてならない。
おまけにこの声だ。
学生時代はよく性別を間違われたほどに酷い。
コンプレックの塊でしかなかった。
社会人になってたまたま入ったカラオケで、
友人から「もしかして両声類なんじゃない?」と指摘され、
ピコさんの動画を見せられた時は衝撃だった。
男性でありながら女性的な声を合わせ持つ唯一無二の歌い手として、
彼は精力的に活動していた。
(だから僕はよく女性に間違われたのか)
本当に無自覚で生きていたから、
自分が両声類だなんて偶然の産物で発覚した。
そのため特に専属のボイストレーナーがついて、
歌の指導を受けていたわけではない。
まして絶対音感なる才能なども持ち合わせていなかった。
ただ音楽を聴いて自分が表現したいように歌うと、
何故か高音パートと低音パートを織り交ぜた歌い方になっていた。
感覚的にそうなるだけで、
決して才能などではない。
スタスタスタ
僕はコミュ障のため、
睨みを利かせて人を寄せ付けないようにしながら歩く。
正直言って気心の知れた身内のスタッフであれば、
そんなことをしなくていいのだが、
よく知らない相手と関わる時は警戒しないと気が済まなかった。
睨みを利かせてみたところで、
どれほどの効果があるかはイマイチ不明だが、
何もしないよりは安心する気がした。
ん?
誰だろう。
モデルさんかな?
足音を探すとそこには、
見たことのない人物がこちらに向かって歩いてきた。
身長は多分170cm前半くらいだろうか。
すらっとした長身で人目を惹く人だった。
金髪にゆるくふわっとウエーブのかかった髪、
甘くやわらそうな雰囲気を纏うオーラ、
多分化粧なんかしなくても十分に綺麗だと分かる顔立ち、
美人というよりも愛らしい人という印象だった。
あまりジロジロと見すぎるのも失礼かと思い、
平静を装って通り過ぎようとした。
すれ違う瞬間に彼と目が合うーーーーー
ドキッ
え?
一瞬この現場に天使でもいたか?思うほど、
彼を見ているとすごくドキドキする。
「どちら様?」
しかも見ていたのは僕だけではなく、
彼自身の視線に気づいたため、
思わず立ち止まってしまう。
流石に初対面でこの聞き方はおかしいか?
とは思ったものの本当に知らない人だった。
でも同時に彼を知りたいと思い、
声をかけた。
声をかけて気付いた。
いきなり話しかけたら馴れ馴れしいか?
警戒されないだろうか?
僕は基本的に血筋は日本人でも、
マレーシア国籍を取得して、
仕事の拠点は主にマレーシアとアメリカだが、
それ以外でも世界各国を飛び回っていた。
国によってはTwitter・facebook・LINE等のSNSだけではとどまらず、
サブスク・TikTok・YouTube視聴が全く出来ない場所もあり、
なかなか日本の情報を手に入れるのが難しいことがよくあった。
彼は自分たちの存在が知られていないことに対して、
動揺しているような様子でうまく言葉が出てこないようだった。
パクパクと口が空振りするだけで、
声にならないところを見て、
僕はもう一度聞き返した。
「すいません、
僕⋯海外生活が長くて日本の情報に疎いんです。
それで何さんですか?」
彼が何故か僕の顔をじっと凝視した。
特に僕なんて精悍な顔つきをしているわけではないので、
これといって物珍しくないはずだ。
彼はそれなのに、
どうしてこんなにも熱っぽく、
心をかき乱すような視線を向けてくるのだろうか。
「ふ、
藤澤涼架です」
愛らしいのは顔だけではない。
声も穏やかで優しく包み込んでくれるような、
安心感と柔らかさのある落ち着いた声だった。
本当に可愛いらしい人だな。
一瞬で虜になるような聞き心地のいい声がした。
「僕はギタリストの星崎瑠璃夜です。
よろしくお願いします」
それが彼との出会いーーーー
僕の完全な一目惚れだった。
雫騎の雑談コーナー
はい!
なんとまあ、
二人とも一目惚れ同士だったんですね。
一目惚れって甘酸っぱくていいですな。
したことないから表現がメチャクチャですいません。
そいじゃー本編ね。
星崎のモデルはほぼ俺です。
お爺ちゃまがコの字型にカラーボックス並べて、
部屋の3方向が床から天井スレスレまでレコードがびっちりって人だったんですよ。
だから古い音楽はそれなりに詳しいのさ。
でも同世代の子はねー⋯⋯⋯まあ今は昭和レトロが流行ってるから、
若い子でもレコード世代くらいの音楽を聴くよーって人もいるけど、
当時はまだいなかったから話ができないのね。
あと両声類も本当にそう。
親の知り合いからね、
やれ忘年会やらクラス会・同窓会やらの電話対応をしていると、
地声が低いもんだから必ず「息子さんですか?」とか失礼なこと言われんの。
雫騎の性別が違うわ!
耳悪いのかこの人は!!
ってな感じでよく勘違いされてました。
でも低いからそんなもんか〜くらいで、
ただのコンプレックスでしかなかったんです。
でも友人に両声類を指摘されて自覚するに至ったわけです。
だからその子がいなかったら多分今は自分の声が嫌いで、
音楽の世界を目指そうだなんて思えなかっただろうな。
その子から両声類なるワードを初めて聞いたので、
ありがたかったです。
その言葉に救われました。
だから⋯雫騎の声はね『天然ものの両声類』なんですよ。
ってあれ、
これ自分語りじゃね?
本編⋯あんま関係ないな。
こういう所も雫騎ですので、
長々とお付き合いくださり恐縮です。
また次回もお楽しみに〜