テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ありんす
2,024
棒人間ニキ
37
榎本くもり
12,202
耀聖(ようせい)
853
あれからナギが階段を上がって、二階からさらに酒を持ってきて、飲んで騒いで、気づいたら帰路にいる。
まどろみながらもギリギリで意識を保ちなんとか歩く。
榊さんが
『ちゃんと給料も出るから安心してね』
なんていうから、ナギに流されて千鳥足になるまで飲んでしまった。
その上でナギは俺の倍以上飲んでいたが。榊さんも少なくない量を飲んでたが全く酔った気配なかった。
しかもそのまま帰ろうとしたら榊さんが慌てて、完成した御守りを渡してくれた。
途中途中で水も出してくれたし、マジでカッコいい大人って感じよな。
そんでもってナギは横で俺より酷い千鳥足。手には酒瓶。もう何本目かはわからないけど五は超えたか?しかも小さくない瓶。それを最終的にラッパ飲みしてやがったんだよ、、、
- 妖怪じゃなくてウワバミだったか、、、
「失礼な!人間じゃい!わしゃぁ!!」
そもそもになぜナギが一緒かというと俺を心配してらしい。
- 酔っ払いに心配されてもな、、、
でも榊さんが許したんだよなぁ。ってかむしろ勧められたまである。
女に見送られる俺って、、、
いや、コイツを女に分類していいのか?
- まぁいいか
- ってか契約上だよな
- 俺を守るって恩恵だったし、、、
- いやコイツのことだから
- 純粋にか、、、
- 契約なんて頭にねぇな
「ははは!!」
笑えてきた。
すると横でナギも合わせて笑った。
「あははは!チバが笑ってる〜」
こんな調子で酔っ払い二人で夜道を歩いた。
肩が何度もぶつかりながら、離れたり近寄ったりして、お互いにギャーギャー喚きながら、笑いながら、いつも音楽を聴きながら独りで行く道を歩いた。
- 悪くないな
ナギが自己完結させてばっかになって会話が通じなくなってたから、俺は適当に笑い飛ばして、感慨に耽っていた。
すると、ナギが静かになった。
視線を向ければすぐ横で月を見上げて立ち止まってた。その灯りに照らされた瞳は微かな橙色が残る黎明の色。
そこに反射して写された月は満月。
思考に言葉は表出されず、
じんわりと染み込むように、
耽美な美しさが脳ではなく胸に響いた。
そのまま見惚れていると、ナギが囁くように口を開く。
「私ね、死にたいの」
今なんて言ったコイツ、、、『死にたい』だ?
- はぁ!、!?
「自殺願望なら勝手にやってろ!!!」
さっきまでの調子が崩れたような発言に、俺は反射でさっきまでの調子で、いやそれよりも強く返した。
でも後悔はない。
そういうことを言う奴は嫌いだから。
俺に生きろと言ったコイツが“それ”を言ったから。
無茶苦茶だけどそれでも憎めないコイツが、あんなに楽しげに笑ってたコイツが、あんな綺麗な瞳を持つコイツが、
その言葉を出したから
とてつもなく気に食わない。
そんなんに俺を巻き込んでんのか?
- もうどうでもいい!!
- 勝手にしろ!!
「ごめん千葉。違う。違うの。人間として生きて、普通の人生を送って、普通に死にたい。そういう人生を送ってみたい。そういう意味なの勘違いさせてごめん。」
返ってきたのは意味のわからない返事。俺の言葉の裏は、どこまで伝わっていたんだろうか。
俺が求めてたのはこんな返事じゃない。なんというか、理解して欲しかった、と思う。だからか俺はそのまま怒りに任せて返事になってない返事を返した。
「別に今のままでいいじゃねぇか!これ以上に何を望んでんだよ!」
「千葉、お願い。私を人間と信じて欲しい」
「どういうことだよそれ。ってか契約でそういう取り決めにしたのはお前だろうが」
「あー、、、あはは。いやぁー、、、なんていうか、アレだ!約束ってやつなのだよ!それならどうだい?」
- 契約の次は約束?
何を言っても意味のわからない返事。俺が酔ってんのか。コイツが酔ってんのか。もうわからない。
- どうでもいいか
- もう、、、
「俺になんの見返りもねぇ約束なんか誰がするかよ!」
会話をする気が失せて突っぱねた。
そしたらナギは拍子抜けするほどアッサリ引いた。さっきまでの切実さを隠すように。
「あははぁ〜、、、だよね!ごめん!なんでもない!気にしないで!!忘れて!!」
- めんどくさ、、、
- ほんとこういうのマジで嫌い
- 結局なにが言いてぇんだ?
- マジで意味わかんねぇよ、、、
- なんなんだよ、、、もう!ああ!!
「クッソ!!!」
- わかんねぇ、、、けど!!
「さっきのは本音だっただろうが!!だったら貫き通せよ!!取り下げるくらいなら出すなよ!!それか上手くやれ!!本気でめんどくせぇよお前!!!」
そう面と向かって真正面から吐き捨てた。ナギはそれに小さく、でも強く言い返した。
「だから忘れてって!!!」
「お前のそういうところほんと嫌い!!!」
そう言って俺はナギから離れて歩こうとした。すると後ろからナギが大声で
「でも!!!!」
振り返る。ナギは泣きそうな顔で不器用に笑いながら言った。
「私はずっと待ってたよ。そして会えてよかったって思ってる」
俺は何を言えばいいかわからなくなった。でも無理矢理に言葉を吐いた。
「、、、なんだよ!それ!!マジでめんどくせぇ、、、本当にめんどくせぇよお前!!」
「よく言われるー!」
今度は満面の笑みを向けた。それが取り繕ったようにも見えて、よくわからなくて、、、
「うっせぇ!酔っ払い!!」
「それでいいの!それが気持ちいいの!だからお酒って大好き!」
「うざ」
「だって昔は酔えなかったから。酔ってられなかったし、酔っても酔いきれなかった」
「だから意味わかんねぇよ」
「こっちの話!気にしないで!」
- ああ、
- もう、、、
- まじでめんどくせぇ
正直言ってどうでもいい
なんて言えればよかったのに。
たった一日
それくらいしか関わってないのに。
なんで放っておけねぇんだよ、、、くそ。
こいつの言動が原因じゃない。
地獄を見せてもらったからとか契約を結んだ関係だからとかそういうんじゃない。
瞳が綺麗だったから、でもあるけど、それだけでもなくて、なんていうか、、、
- ああ!もう!めんどくせぇ!!!
- めんどくさすぎだろ
- 俺
「はぁーーーーーーーーーーー!!!!!!」
でっっかくため息をついた。
- どうせ思考バレてんだろ?
- 一回しか考えない
- それで受け取れ
- いや、やっぱり受け取んな
- ってか聞くな!覗くな!
- そもそも口に出したくもねぇんだよ
- 伝える気もねぇ
- これは俺の勝手だ
- だからお前も
- 勝手にやってろ
約束は気が向いてるうちだけ守っといてやる。
「 」
ナギは首を傾げて、ただ、こっちを見てる。
思考が伝わったかはわからない。
伝わってるようにも、そうでないようにも見える。
でも思った。たぶん顔に出てる。
それでの返事なのかわからないけれど一言だけ言葉を返してきた。
「ありがと。千葉」
今度は心からの笑みに見えた。
俺はなにも言わなかった。
しばらく無言のまま歩いて、家にようやく着いた。そしてこいつはそのまま家に入ってきそうだった。だから、しょうがなく口を開く。
「じゃあな」
「また明日!」
「おう」
それだけの返事でめちゃくちゃ嬉しそうな顔をして、そのまま千鳥足のスキップで帰っていった。
ナギが見えなくなるまで見届けたあとに、ドアを閉めて、壁にもたれかかる。
「また明日、か」
- 久々に言ったな
荷物を置いてベランダに出る。ポケットからタバコを取り出して、火をつける。
部屋の電気をつけ忘れたせいで、周りは真っ暗。満月しか見えない。
それでも夜風が涼しくて、鈴虫の鳴き声がささやかで気持ちよかった。
煙を吐いたら、少し白い。
月明かりか、少し低い気温のせいか。
- まぁいいや
そういえば明日は初仕事だったか?面白い景色をいっぱい見せるとかも言ってたな。
- “絵を描く仕事”か
好きに描かせてくれんなら文句はない。
そういえば榊さんも雇用契約や詳細な仕事内容の説明もするとか言ってた気がする。
あと連絡に対して返信もしないとか、、、
ほんと忙しいな。
「はぁ、、、」
タバコの煙に合わせてため息を吐く。
- めんどくせぇ、、、
ってか人と関わるのもめんどくせぇ。ああ、でも、って思ってしまう自分が一番めんどくせぇ、、、もう、酔ってる。そうだよ。酒のせいだ。酒のせい、、、さっきのも全部、、、
「ちっ!!!」
- ああ!もう!!
- わかってるよ!!!
- 認める!天邪鬼になってるだけだよ!!
ナギのせいで独り言みたいな思考すら、覗かれてるように感じて仕方がない。だから言い訳みたいな思考になってしまった。ああ、もう、、、
- ほんとめんどくせぇな
口角が勝手に上がってたような気もするが、気のせいだろう。
コメント
1件
もう…酔った帰り道で急にナギが「死にたい」って言い出した瞬間、心臓止まるかと思ったよ😭 千葉くんの「勝手にやってろ!!」は怒りだけど、ちゃんと本気で受け止めてるのが伝わってきて…すごく苦しかった。それでも最後の「ありがと」が、なんだかすごく温かくて、救われた気がした。めんどくさくて、まっすぐで、でもちゃんと届いてる感じがたまらない回でした…🥀🤍