コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ダダリ領の周りは森に囲まれた平坦な土地である。
このような平らな森では進軍が容易で、外敵は木陰に潜みながら近づけてしまう。
そこで土木技師に命じて『堀』を築いていたのだが……
その作業はまだ途中。
以下は領地の北西部の拡大図である。
――――――――――――――――――
ガゼット領 川
川
川
v□□□□□□川□□
v□□□□□□川□□
ライオネ領 v□◎◎□□□川□□
v□◎◎□□□川□□
v□墓□□□□川□□
――――――――――――――――――
□=ダダリ領
◎=館
V=堀
このように堀は西側しか完成していない。
これは周辺で最も勢力の大きなライオネを警戒して、西側の堀を優先的に築いたからである。
つまりガゼット領側の『北』はまだガラ空きということになるが……
裏を返せば、敵がどこから攻めてくるのか絞れるということでもあった。
「ケーッケッケッケ! あいかわらず攻めやすそうな領地だな!」
「本当ですねえ、父上……ケーッケッケッケ!」
そう思って待ち構えていると、北の森の茂みから二騎の敵が姿をあらわした。
この二騎は親子らしい。
変な笑い方がそっくりだ。
そして、父親らしき獣の毛皮をかぶった方が、待ち構えている俺に気付いた。
「おっと、そこにいるのはダダリの新領主じゃあないか?」
「……そうだけど?」
俺はあえてトボけたふうを装って尋ねる。
「あんたはガゼット領の領主だよな? なんか用?」
「ケーッケッケ! あいかわらず間の抜けた野郎だぜ。聞いて驚け? オレたちはなあ……なんと! このダダリの地を攻めに来たんだ!!」
「軍勢もこのとおり800連れてきたぞ。なあ! お前ら!」
森の中から軍勢のざわめきが響く。
「ケケケ、どうやらキサマらも兵をかき集めたようだが……」
「100にも満たない兵で何ができる! 降参するなら今のうちだぜええ! ケーッケッケッケ!」
笑い方がうざい親子だ。
俺はため息をついて返答する。
「やれやれ、それはこっちのセリフだな」
「なにィ?」
「ダダリを攻めるなんて愚かなことを考えたものだ。今ならまだ泣いて謝れば許してやるぜ」
「……まさかザコのくせに自分の立場もわからねえ阿呆だとはな! お前ら、やっちまえ!」
ケッケー!!
こうしてガゼット領の兵たちが森から出て来た。
が、その瞬間。
ウチの弓士たちの放つ矢が一斉に飛んでいく。
「ぎゃー!」
「矢だと!?」
ガゼットの歩兵たちがピタリと足を止めた。
そう。
敵の歩兵は近距離でしか攻撃の術を持っていない。
ほとんどが急ごしらえの木槍である。
「戦争は数だけじゃ決まらない。攻撃が届かなきゃいくら頭数があっても烏合の衆だぜ」
「ケッ……騙されるな! 敵の弓士は多くない。数で押せば潰せる!!」
うっ、敵もさすがに領主をやっているだけある。
弓士が少ないのはその通り。
数で押されれば矢の弾幕は破られてしまう。
そこで次だ。
「薙ぎ払え!!」
俺は魔法部隊に攻撃を命じた。
ゴオオオ……!!
矢をくぐり抜け中距離に達した敵兵たちは、魔法部隊の『ほのお』を浴びることとなる。
「そ、そんな……魔法なんて聞いてねえべ」
「こんなもんやってられるかッ!」
「んだんだ! 逃げるっぺ!!」
敵兵もこれには恐れをなすが、
「ケケ! 怯むな! 近寄ればどうってことない! 突破するんだ!!」
背後から叱咤するガゼット領主の声を浴びて、兵たちは鞭に打たれた馬のように突っ込んでくる。
あわよくば魔法を見て降参してくれればと思ったが……意外に敵の士気が高い。
ダダリのような弱小を攻めて失敗するわけにはいかないというワケだろう。
文字通り死に物狂いである。
「やった! たどり着いたぞ……ぐふッ」
しかし、矢と魔法をくぐり抜けた先に待っているのは、ウチの剣士、槍士、怪力といった接近部隊である。
うおおおお……!
彼らは『訓練所』で毎日訓練している職業軍人だ。
農民を寄せ集めただけの敵兵の、弓と炎でボロボロになったのなど相手にならない。
でも、いいのだろうか?
このまま続けても敵はいたずらに兵を減らすだけだけど……
そんなふうに思って見ていると、ガゼット領主の横にいる息子らしき男がなにやらコソコソと兵200ほどを連れて森に消えた。
「若ッ!」
で、しばらくすると忍者のリッキーが斥候から帰ってくる。
リッキーの報告によると、ガゼット領主の息子は別動隊を編成して西から攻め入ろうとしているらしい。
「どうするでやんす?」
「……ちょっと行ってくるよ。ここの戦線は任せた」
そう言って、俺は館へ向かった。
「ただいまー!」
家に帰ると、おふくろとナディアはあのまま仲良くお茶をすすっていた。
「おやおや、バタバタとあわただしいねえ」
「どうしたのだ? 息など切らせて」
そう言えば彼女らにはガゼット領が攻めて来ていると説明していなかった。
でも、今は説明しているヒマはない。
「別に。ちょっと水」
俺は台所の甕から水を汲んで飲んでから、
「ノンナ、リリア、ラム、ちょっと来てくれ!」
と、いざというときの館の守りにつかせていた三人を連れてまた家を出る。
こうして、こちらはこちらで別動隊(4名)を組織し、領地の西側に沿って探していると、堀の向こうで驚いている若い男が見えた。
ガゼット領主の息子だ。
「おーい!」
「ぬっ!? キサマはダダリ領主!」
「西側は堀を掘っているぞ! ライオネ対策でな!」
「ライオネ対策だと……」
深く掘り込まれた堀を見下ろすガゼット領主の息子。
「別動隊を作って挟み撃ちにしようという考えは悪くなかったけどな。200程度でこの堀を超えて来ても、俺らだけでやっちまうぜ!」
俺がそう言うと、リリアの放った矢が彼の足元に刺さり、ノンナの魔法がゴオオっと空を焦がした。
「あきらめて降参しろー!」
そう勧告すると、ガゼット領主の息子はがっくりとうなだれた。