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追憶の探偵

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追憶の探偵

1 - 1-case01 名探偵には相棒が必要だ

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2025年01月01日

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追憶___

それは、過ぎ去ったことに思いをはせること、亦は過去をしのぶことを指す。






―――名探偵には相棒が必要だ。



「この野郎、ちょこまかと!」



路地を駆けて、一匹の猫を追う。猫は塀から塀へと飛んでいき、とてもじゃないが追いつけそうになかった。

猫はにゃーと鳴き、まるで煽ってきているようにも思える。



「……ッチ、今月の依頼これだけなんだよ!」



俺は壁を蹴って塀の上へ上がる。猫はそれを見てさらに加速した。だが俺だって負けてはいない。



「今月の収入、今月の収入……カップラーメン生活はこりごりなんだよ!」



細い塀の上は不安定で一歩踏み外せば落ちてしまいそうだった。それでも体幹はまだいい方で、スニーカーを履いてきたのはアタリだった。スニーカーとスーツというバランスの悪い組み合わせだったが、スーツを着ると身が引き締まるため、俺は好んできている。

俺は必死に手を伸ばして猫を捕まえようとするが、その度にスルリと逃げられてしまった。



「おい、こら待て!」



もう一歩とつめられたところで、猫はひょいと塀から飛び降りた。俺は勢い余って塀の上から落ち、ゴミ袋が積まれた場所に落ちてしまった。

ガサガサと音を立てて、大量の生ごみやら古雑誌の中に埋もれてしまう。


最悪だ。



「随分まあー派手な着地」

「……おい、そいつは俺の」



スタッと軽そうな音を鳴らしながら俺の目の前に舞い降りた男に俺は悪態をつく。

白いジャケットに、エメラルドグリーンのハイネック、亜麻色の髪はたらんと三つ編みに編まれた美青年は俺の追っていた猫の首根っこを掴んでぶら下げていた。



「春ちゃん立てる?」



猫を掴んでいない方の手を差し出す美青年に、俺は舌打ちを鳴らす。

頑に俺が手を取らないでいると、男は苦笑して猫を下ろしてから俺に手を貸してくれた。猫は男に懐いているようで足下をぐるぐると回っていた。引っ張りあげられると、汚れを払うようにパンパンと叩いてくれた。

それがまた腹立たしい。

俺は立ち上がって彼の手を払いながら、服についた埃を払う。



「春ちゃんそのスーツ洗った方が良いよ。すごーく臭うから」

「春ちゃん言うな、神津《かみづ》」



嫌味を言う男の胸倉を掴むと、彼は困ったような顔をする。



「血の気が盛んなことで」



と、男、神津は肩をすくめた。



神津恭《かみづゆき》。俺の幼馴染みで一時期プロのピアニストとして活躍していた男。今は、顔が売りの名探偵。

そして、俺、明智春《あけちはる》の恋人。



「その猫渡せ、俺の依頼だ」

「ふーん、また猫探しねえ。春ちゃんぜんっぜん依頼こないもんね。せっかく探偵事務所立ち上げたのに」



神津は猫を抱き上げて頭を撫でる。

俺の仕事はこいつと同じ探偵。

事務所を立ち上げて半年か一年経つが、依頼は猫探しか人捜しぐらい。浮気調査もあるが、殆どは不発。だから収入なんて雀の涙ほどしかないし、食費を切り詰めている始末。

神津は俺なんかと違って大きな事件にかり出され、海外からも高い支持を集めている名探偵。頭も手先も顔も良い、全てが揃ったハイスペック人間。幼馴染みでどうしてこうも差が出るのかと泣きたくなってくる。まあ、中学高校と、神津は海外に行っていて英語も他言語もぺらぺらで、そりゃあ頭もいいわなという感じだ。

そんなことを思っていると、神津がにやっとした表情を浮かべて猫を抱いたまま近づいてきた。

思わず身構えるが、次の瞬間、神津は身を屈めて俺の頬にキスをした。俺は一瞬何が起きたかわからず、目を白黒させるが、すぐに理解した。

にゃーと猫が鳴く。

俺は慌てて神津を突き飛ばす。神津は楽しげに笑い声をあげて、猫を地面に下ろした。猫は毛繕いを始め、尻尾をゆらりと揺らす。



「おい、何すんだ!」

「何って、キスしただけだけど?」

「そんなキョトンとした顔で言うことか!?」

「酷いなあー春ちゃんは。僕達恋人同士なのに」



と、また神津は肩をすくめる。


こいつはいつもそうだ。俺のことを揶揄ってばかりいる。

俺達は一応付き合っているが、正直言って俺は今の曖昧な関係に納得していない。確かに好きだとは言われたが、本当に好きなのかどうか怪しいものだ。

俺と神津は幼馴染みで、家が隣同士で幼稚園、小学とは上手くやっていたつもりだったが、小学生最後の日、こいつの引っ越しを知らされた日に、俺は神津に告白された。今から離ればなれになるというのに、どうしてそんなことが言えるのかと、俺は感情にまかせて神津を殴った。

あの時はまだ恋愛としての好きとかそういうのをちゃんと理解していなかった気がする。だが、あの時から確かに神津に惹かれていたのは確かだ。目が離せない美しさと、危なっかしい儚さを併せ持っていたから。



『恭、なんで引っ越しのこと言わなかったんだよ』

『いったら、春ちゃん気にするでしょ?』

『……』

『春ちゃんそんな顔しないで』



殴られたにも関わらず神津は優しく俺の頭を撫でた。



『僕、春ちゃんに泣かれたらどうしたら良いか分かんないよ』

『恭……んっ』



俺があれこれ言う暇もなく、神津は俺のファーストキスを奪った。

涙でぐちゃぐちゃになってた視界の中はっきり見えた神津の顔は、本気で恋をしている男の顔だった。



『春ちゃんを泣かせない、いい男になって帰ってくるから。だからね、待ってて。大好きだよ、春ちゃん』



その待っていてが、俺を縛り付けた。

彼奴が海外に行ってから、スマホを買ったと聞きつけて電話番号とメールを教えてもらったその日に、俺はあの日の返事をうった。



【早く帰ってこい、俺の恋人】



すると、直ぐに返信が来た。



【――春ちゃん、それはプロポーズ? 】



ふざけた内容だったが、俺はあの日の告白の返事を肯定の意味で返した。彼奴から告白したんだろうと電話をしてやりたかったが、声を聞いたら会いたい気持ちが抑えられないだろうと思って俺はそこでスマホの電源を切った。

それから暫く音沙汰なくて、彼奴がプロのピアニストとして活躍しているという噂を耳にした数ヶ月後に彼奴は帰ってきた。噂を耳にしたのがかなり遅かったようで、俺の前に姿を現したか神津は帰国早々にいったのだ。



『ピアノやめてきた』



そんな衝撃の告白と、笑顔を向けて幼馴染みの神津恭は俺の元に帰ってきた。


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