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追憶の探偵

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追憶の探偵

2 - 1-case02 子ども扱い

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2025年01月01日

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「探偵さん。ポチ見つけてくれてありがとう」

「どういたしまして。今度はちゃんと逃げられないようにするんだぞ」



はーい。と依頼主である少女は返事をして、ポチという犬につけるみたいな名前の猫を大事そうに抱きかかえて事務所のドアを開けようとした。だが、両手が塞がっているため開けられず困っているようだった。俺は仕方ないと腰を上げ、開けてやろうとしたときスッと神津がドアを開けた。



「どうぞ、お嬢さん」

「は、はわ……あ、ありがとうございます」



と、少女はまるで恋に落ちた女の子のような反応をする。神津はにっこり微笑んで、手を差し伸べて彼女をエスコートしている。


俺はその様子を見て呆れた。



(ああいうところがモテる所以なのかねえ)



何の恥じらいもなくよくやるよと、海外で培ってきたレディーファースト精神なのか。全くモテない俺とは対照的に、あんな幼い少女の初恋を奪うような、初恋キラーが自分の恋人かと思うと、複雑な気持ちになる。モヤモヤというか、別に嫉妬しているわけではないのだが。

声もよくて身長も高くて、美形で、優しい。何においても非の打ち所がない、ハイスペックだからこそ、女性から人気なのだと思うけれど、それが少しだけ腹が立つ、いやかなり腹が立つ。

別に俺は嫉妬深いわけではないが、それでも神津が俺以外の女に優しくするのが嫌だとは思った。彼奴を狙っている女性なんて星の数ほどいるだろうし。そんなこと口にすれば「春ちゃんが嫉妬している」なんて彼奴は可笑しく笑うだろう。

まあ、彼奴が何処で何してようが基本的には不干渉でいたい。

そんなことを考えていると、少女を送り出した神津が戻ってき俺の方を見て首を傾げた。



「どしたの、春ちゃん」

「……いや、別に」

「僕に見惚れてたとか?」

「なわけねえだろ、ハッ倒すぞ」



つれないなあ。などと神津は言いながら俺の横に腰掛ける。ソファは依頼人と俺が座れるように二つあるのだが、神津はわざわざ俺の腰掛けているソファに腰を下ろした。大人二人が並ぶとかなり狭いソファな為、必然的に俺は神津と密着することになる。



「おい、なんで隣に座ってんだよ。向かい側に座れよ」

「えーだってこっちの方が話しやすいし。春ちゃんも嬉しいでしょ?」

「誰が喜ぶか!」



俺の否定の言葉など聞かずに神津は俺に肩を寄せてくる。それを払い除けようとすると、神津は俺の手を掴んできた。



「春ちゃんの手冷たいね。冷え性? それとも僕に触れられるのそんなにイヤだった?」



不安そうな表情で見つめられて俺は思わず言葉を飲み込んだ。

神津が俺のことを好きすぎることは知っている。彼が口を開けば、俺への好きが必ずと言って良いほど出てくるからだ。でも、その感情が本当に恋愛的な意味を持っているのか分からないから俺はいつも素直になれない。

神津がきっと誰よりも俺を特別扱いしてくれていることは知っている。彼が、ピアノをやめた理由が俺と一緒にいたいからなんて、彼奴こそプロポーズじゃねえかと思う言葉を吐いたんだ。少なからず、他の奴よりかは神津に特別視されているのだろうと。

本当はあいつが帰ってくる前に答えを出したかった。


何年も離れていたのに神津の事を考えない日はなかった。あれだけの年月離れていて、声すら聞いていない彼を俺は待ち続けていたことになる。女々しいというか、そんなタイプではないと自分では思っていたのに。

あのメールと、別れ際の神津の言葉に縛られて、なし崩しで恋人と幼馴染みの境界が曖昧なまま、形だけの恋人、名だけの恋人になっている気がする。だから、神津の過度なスキンシップも愛の囁きもどこか浮いているのだ。地に足がついていない感じでどうも苦手だ。



「……別にそういうんじゃねえけど」

「そっかあ」

「……子供扱いされるのはしゃくに障る。俺たちはもう子供じゃねえんだ」



嬉しそうに微笑む神津の手を俺は振り払う。

神津が帰ってきて二年ほど経つか。離れていた時間が長いため俺たちの時は止っているのかも知れない。此奴が俺を子供扱いする理由はそれなのかも知れないと。

すると、ふわりと俺の頭を撫でて神津は立ち上がる。



「何処行くんだ?」

「うん? コーヒー淹れようかと思って。飲む?」

「ココアが良い」

「そういう所が子供なんだよ」

「うっせぇ」



クスリと笑ってキッチンに向かう神津に俺は悪態をついた。

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