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「望叶さん……もう話してくれてもいいいんじゃないですか?」
「……」
望叶さんは物憂げであまり話をしたくなさそうな顔をしていたが、少しずつ話してくれた。それは宮籐家がこの村に引っ越してきてすぐ。引っ越した、というより戻ってきた、という方が正しい。4人ともここで生まれたが、私たちと同じところで育ってきた。羽菜ちゃんと同じパターンだ。そして戻って随分と経ったある日。事件は起きた。村にある冥界と現世を繋ぐ木が暴走を始めたのだ。類のないほどの呪いのエネルギーが現世に流れようとしていた。もうどうもこうもならないほどだ。どうもこうもならないことをどうにかこうにかするには手段を選んでいる暇はない。そして望夢さんは自らの血の花に呪いを封じ込めることを思いついた。自らの命と引き換えに現世から呪いを隔離したのだ。そして結局、望夢さんは自分ごと呪いを消すという強行手段に及んだのだ。しかし望叶さんは弟が呪いにまみれるのが許せなかった。何故なら愛していたから……いや。過去形は失礼だ。愛しているから。ずっと自分が何もできなかったことを悔やみ尽くしていた。来る日も、来る日も。綺麗にしてあげたかったのだ。そして死者を蘇らせる方法を調べ尽くし、例の秘密に辿り着いた。言い忘れていたがこの村は誰もが辿り着いて最初、特別大きい1本の木がつっ立っていることに気づく。村の中でも異様な気配を放っている。当時、花屋敷家の人たちはそこを探索していた。そこでこの村が冥界への入り口と血の花を見つけてしまった。あろうことかその秘密を暴こうとした。これが悲劇の引き金となったのだ。かつて何人かが、その墓地から愛する者を持ち帰り、血の花の禁術が生まれた。花屋敷家の血が流れている羽菜ちゃんが引っ越してきたこと、そして私たちが来たことをきっかけに今回の犯行に及んだ。しっちゃかめっちゃかになっているのも半分くらいは私たちのせいでもあったりする。いずれにしよ、気の毒な話である。理由は分からない。だが結果的に望叶さんは血の花に魅入られ、今回の事件に及んだ。
異能というものにすごく魅力を感じるようになってしまったという。異能者か、否かはそう重要でもないのに。こっちも理解のキャパシティが溢れそうだ。仕方がない。たった1人の弟だから。
「そうですよね。僕も羽菜がいなくなったらなんて考えたくもありません」
「大事な友達だからね」
「いいえ……羽菜は僕の妹なんです!」
「えー!」
何年か前に両親を亡くして別々の家に引き取られて。どちらの家も銀俄くんと羽菜ちゃんがお互いに会うことに関しては何も言っていなかったらしい。いいところで良かった。
「それと お父さん、韓国人なんです」
「あ、そうなんだ」
銀俄くんと羽菜ちゃんは半日半韓ということなのだ。突然、銀俄くんからも様々な真実が明かされた。出会い方さえ違えば、というやつなのだろうか。真に戦うべきものはどこにいたのか。理解されていたわけではない。罵倒され、非難されていた。全貌が明らかになろうとしていた。捜索を続けているとベッドの下に奇妙な手紙が落ちていた。すみっこに血がついている、一通の古い手紙。‘拝啓 この手紙を見つけてくれた誰か。悩みはしたけれどしばらくすれば取り返しのつかないことになるかもしれない。だからこそこれは壊しておこうと思う。もし見つけたら誰かが……’だから望夢さんはこれ……望夢さんの遺品のアレコレををわざと壊した。もう誰1人、禁術に触れないように。望夢さんは呪いを封印する為にあえて死んだのだ。この村に、家族に呪いが持ち込まれない為に。そう。望夢さんの自己犠牲によってこの村は救われていたのだ。だからこそ望叶さんは望夢さんを助けたかったのだろう。何だか取り返しのつかない深淵を覗いてしまった気がする。なんにせよ、秘密は暴かれた。歪みの根源を探しにいこう。間違いなく言えることは1つ。誰も間違ってはいなかった。何の言い訳にもならないが、救いようのない悪党が考えることではない。ならば、そびえ立つ不毛な答えを論じるより、ここにいる狂っている者同士仲良くする方が、よっぽど建設的といえる。何故なら、善人は作れないが、罪人なら掃いて捨てるほど作れる。殺人とあれば尚更だ。そういえばだが本来、事件を終えたら 望叶さんはどうするつもりだったのかというと……彼女のポケットの中から致死量であろう薬が発見された。そう。一緒にひっそりと自決するつもりだったのだ。そう。望夢さんが選んだ自己犠牲を望叶さんもまた選択しようとしていたのだ。死せる血の花を肉親の血と器で蘇生させる行為だ。罰当たりなのか。実際に罰が当たろうとしていた。あろうことか彼女は術にまで手を出そうとした。もうとっくに理解のキャパシティが溢れそうだ。脳がこれ以上の情報を理解することを拒んでいる。それでも事件はまだ終わっていない。そろそろ決着をつけよう。