テラーノベル
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春風が、桜の蕾を優しく揺らしていた。
卒業式。
厳かな音楽が体育館へ流れる。
三年生がゆっくりと歩いてくる。
その中には、冴と烈の姿もあった。
(卒業かぁ……。)
玲は胸の奥が少しだけ締め付けられるのを感じた。
いつも隣にいた二人。
それが今日で当たり前じゃなくなる。
そう思うだけで、胸が少し痛かった。
やがて式は終盤を迎える。
「送辞」
玲は静かに壇上へ上がった。
深く一礼する。
玲は卒業生たちを真っ直ぐ見つめた。
「卒業生の皆さん。」
玲は卒業生一人ひとりを見渡し、静かに言葉を紡いだ。
「私が生徒会長になったのは、この学園のみなさんを幸せにするためでした。でもそれは、私の奢りでした。」
その視線は、自然と冴と烈へ向く。
「誰か一人が幸せにするのではない。みんなで幸せになることが大切なのだと……先輩方はその背中を見せて教えてくれました。」
一呼吸。
「皆さんからいただいたものは、攻略本にも載っていない……大切な宝物です。」
玲は真っ直ぐ前を見る。
「本当に、ありがとうございました。」
深く一礼する。
「答辞」
冴は静かに壇上へ上がる。
マイクを握り、玲を見る。
「在校生代表、生徒会長・如月玲――」
ほんの少しだけ口元が緩んだ。
「……ありがとう。」
短いその一言だけで、体育館は静まり返る。
「先ほど、私たちは背中を見せてくれたと言われた。」
少しだけ苦笑する。
「そんなつもりはなかった。私は、ただ自分にできることをしていただけだ。」
視線を玲へ向ける。
「だが、もしその背中から何かを受け取ってくれたのなら……それ以上に嬉しいことはない。」
体育館全体を見渡す。
「卒業は終わりではない。次の道を、自分で選ぶ日だ。」
そして最後に、玲だけを真っ直ぐ見据える。
「玲。――お前なら大丈夫だ。」
その言葉に、玲は思わず唇を噛んだ。
泣かない。今日は、生徒会長だから。
体育館は大きな拍手で包まれた。
卒業式が終わる。
桜の木の下、冴が静かに空を見上げていた。
「冴先輩。」
「来たか。」
「卒業、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
風が桜を揺らす。
「東京へ行くんですね。」
「ああ。」
「寂しくなります。」
冴は少しだけ目を細めた。
「玲。」
「はい。」
「私の側へ来い。」
短いけれど、はっきりとした言葉。
玲が息を呑む。
「私が先に道を作る。だから来年、お前はその後を追ってこい。」
玲は何も言えない。
冴は続ける。
「お前となら、未来を共に歩みたい。」
静かな声。
春風が吹く。
玲の胸が熱くなる。
「……先輩。」
「今は答えなくていい。」
冴は優しく笑う。
「来年。その時、お前の答えを聞かせてくれ。」
そう言うと、冴は静かに門をくぐっていった。
玲はもう一人の先輩の姿を探した。
「烈……?」
姿が見えない。
玲は少し考え、ある場所へ向かった。
屋上。
(やっぱりいた。)
フェンスにもたれ、空を眺めている。
「烈……卒業おめでとう。」
「ありがとう。」
烈は振り返り、にこやかに笑う。
「会長、これ……」
そう言うと、何かを放り投げる。
慌ててキャッチすると、そこには鍵が一つ。
「ここの屋上の鍵……お前に渡しとく。」
「……うん、分かった。」
二人の間を風が吹き抜ける。
「俺さ……アメリカに行くことにしたんだ。」
「えっ!?」
「あの日、会長が背中押してくれて……好きな時間って何だろうって考えてみた。色んなことをして、見て……自分の力を試してみたいって思った。」
苦笑いする烈。
「親にはそんな簡単なもんじゃないって怒られたけど。」
「すごいなぁ、烈は。夢を見つけて行動にして……」
玲は目を輝かせて言った。
「何があっても、絶対に応援するから!!」
「ああ……ありがとう。」
烈は笑う。
「それとさ……ちょっと渡したい物があるんだ。」
烈が手招きする。
「こっち来て……」
(ん? なんだろう……?)
玲は言われるがままに烈に近づく。
瞬間――。
ぐいっと腕を引かれた。
視界が塞がる。
気づくと烈の腕の中だった。
(……え?)
玲の思考が止まる。
耳元にそっと唇が触れた。
熱い吐息が耳元をくすぐる――。
「……好きだ。」
ドクン。心臓が止まりそうになる。
「俺……会長が好きだ。」
呟くような小さい声。
「お前じゃなきゃ……駄目なんだ。」
はっきりと聞こえた。
「ずっと渡せなかったプレゼント。今、渡したい……。」
抱き締める腕に、少しだけ力がこもる。
そして――
「俺の心……お前に受け取ってほしい。」
涙が出そうなくらい真っ直ぐだった。
息ができない。
心臓だけが、壊れそうなくらい鳴っていた。
「ごめん、びっくりさせて……」
ゆっくり身体が離れる。
「返事はすぐじゃなくていい。今は俺の気持ちだけ、もらってくれたらいいから……。」
烈が扉に向かって歩き出す。
「俺さ、もっといい男になって……絶対お前を惚れさせてみせるから。」
烈は照れくさそうに笑った。
「だから――。返事はその時にちょーだい?」
玲の胸が熱くなる。
去り際、烈は振り返り玲を見つめた。
視線が交差する。
優しい笑みを残して、烈は扉の向こうへ消えていった。
翌日。
少し広く感じる生徒会室。
「寂しいですね。」
サクラがぽつりと呟く。
玲は窓の外を見る。
桜が少しずつ咲き始めていた。
「春は、別れと出会いの季節だから。」
優しく笑う。
「さあ!」
手を叩く。
「先輩たちが安心して卒業できるように! 私たちも頑張ろう!」
「おお!」
「もちろん!」
「支えます。」
「任せてくださいっ!」
笑顔が戻る。
こうして――
乙女ゲーム『恋する生徒会エグゼクティブ』での一年が過ぎた。
ゲームではここでエンディングが流れていく――。
結局、私たちが辿ったのは、用意された既存のエンディングじゃなかったけれど……
みんなが幸せそうに笑ってくれるなら、それでいい。
このトゥルーエンドは――
誰かを選んだり、選ばれたりすることだけが幸せではないのだと、私に教えてくれた。
ゲームは終わっても、玲たちの人生はこれからも続く。
(私は、これからもみんなと生きたい!!)
その願いは、もう誰にも『バグ』なんて呼ばせない。
True End『みんなと共に、生きる未来』
――――
笑い声が響く校舎を、校門の外から一人の少女が見つめていた。
二つに結ばれた銀色の髪が、春風に揺れる。
「もうすぐ、会える――」
新しい季節の始まりを、静かに見つめていた。
第二部 完
◇◇◇◇◇
▶恋エグメモ
【鬼塚 烈】=100/100(「好きだ」。もう想いは隠さない。必ずもっといい男になって迎えに行く。)
【黒崎 冴】=100/100(未来を共に歩みたい。その答えを、来年必ず聞かせてほしい。)
【白砂 律】=98/100(玲はもう、誰にも譲れない一番大切な存在。)
【千早 絢】=98/100(どんな未来でも、玲の隣を歩き続けたい。)
【神城 豪】=97/100(玲の笑顔を、これからも誰より近くで守りたい。)
【サクラ】=95/100(玲先輩のように、人を笑顔にできる人になりたい。一番尊敬する、大好きな先輩。)
#TS転生
高天原ヒロ
1,218
#魔法
東屋 朧
200
12
兎束作哉
5,492
コメント
1件
うわあああああっ!!!第34話、涙腺崩壊したわ……!!! 冴先輩の「私の側へ来い」も烈の「好きだ」も、もう尊すぎて心臓が持たない。 玲が自分で選んだトゥルーエンド「みんなと共に、生きる未来」、めちゃくちゃ好き。 ゲームの枠を超えた、本当のハッピーエンドだよね。最後の銀髪の少女のシーンも気になるー! 第二部完、お疲れさまです。続き、絶対読みます🔥