テラーノベル
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時計塔の鐘が鳴り終わったあと、広場には重たい静寂が落ちた。 風が石畳をなで、どこか遠くの街の匂いを運んでくる。
「……リアル人狼ゲームって、どういうことだよ」
俺が呟くと、隣のサクラは相変わらずのテンションで肩をすくめた。
「知らんけど、ばいやー面白そうじゃん? ジーマー燃えてきた!」
「燃えなくていいから……」
そんなやり取りをしていたときだった。
――コツ、コツ、と靴音が響いた。
広場の奥、時計塔の影の中から、ひとりの影がゆっくりと歩み出てくる。 黒いパーカーのフードを深くかぶり、顔の半分が影に沈んでいる。 歩き方は静かで、どこか舞台に立つ役者のような存在感があった。
その人物は俺たちの前で立ち止まり、ゆっくりと顔を上げた。
「……目覚めし者たちよ。ようこそ、影の宴へ」
声は落ち着いているのに、どこか甘くて艶がある。 サクラは小声で「ばいやー厨二っぽい」と笑った。
フードの人物は胸に手を当て、堂々と名乗る。
「私の名は――根暗本 煌(ねくらもと きら)。 闇と光の狭間に生まれし、二つの性を宿す者……。 だが今は“少女”として扱ってくれて構わないわ」
その言い方は、恥じらいなど一切ない。 むしろ誇らしげで、どこか妖しい魅力すらあった。
「好きなものは……闇を感じるもの、辛味、そして眠り。 嫌いなものは朝と運動と……野菜。あれは敵よ」
「野菜嫌い仲間じゃん」 俺が言うと、煌はすぐに微笑んだ。
「ふふ、同志ね。心強いわ」
その笑顔は、厨二病の仮面の奥にある“素の女の子”を一瞬だけ覗かせた。
サクラはというと、煌の手を掴んでぶんぶん振っている。
「ねぇねぇ、煌ちゃん! ばいやーかわいい! ジーマー推せる!」
「ありがとう。あなたのその明るさ、嫌いじゃないわ」
煌はサクラの勢いにも動じず、むしろ楽しそうに受け止めていた。 恥ずかしがるどころか、堂々とした態度でサクラの手を握り返す。
「あなた、面白い子ね。気に入ったわ」
「え、やば! 煌ちゃんに気に入られた! ゴイスー!」
サクラは飛び跳ねるように喜んだ。
そんな二人を見ていると、少しだけ緊張が和らいだ気がした――が。
次の瞬間、広場の空気が急に冷たくなった。
まるで誰かに見られているような、背筋をなぞる感覚。
「……ねぇ、なんか今、空気変わらなかった?」 俺が言うと、煌はすぐに周囲へ視線を走らせた。
「感じたわ。影が揺れた。 この場所……ただのゲームじゃない。もっと深い“意図”がある」
「深いって……何が?」
「分からない。でも――」
煌は俺の方へ一歩近づき、真剣な瞳で見つめてくる。
「気を抜かないで。あなたは……狙われやすいタイプよ」
「え、俺?」
「え、俺?」と聞き返す俺に、煌は迷いなく頷いた。
「ええ。あなた、優しそうだもの。 こういうゲームでは、真っ先に利用されるタイプよ」
言い方はストレートなのに、どこか温かい。 まるで“守る対象”を見るような目だった。
サクラが横から割り込む。
「ねぇねぇ、煌ちゃん! 俺のことは?」
「あなたは……騒がしいから、逆に狙われにくいわね」
「ばいやー褒められた!」
「褒めてはいないわ」
煌はくすっと笑った。
そのとき、再び脳内に声が響いた。
――参加者、三名を確認。 ゲーム開始まで、残り五日。
203
不明ちゃん。
コメント
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最っ高!!