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すっかり模様替えをした大きな部屋の中。その端にはイケメン4人が立たされていた。
残りの2人は壁から下半身だけを出し、その上には爽やかな笑顔でプリントされた本人の顔が貼られている。当然、壁の向こうでは本人達がシクシクと泣いていたりする。
「うちのピアーニャちゃんがすみません」
「い、いえいえ……」
「おいこらオマエまでナニいってんだ」
爽やかイケメン2人を雲で殴り飛ばした本人は、心底不機嫌といった感じである。
目の前で起こった暴挙に、前回冷静に襲い掛かってきていたエンディアも、流石に怯えの色を隠せなくなっていた。
(いまこの子何したの? 手を使わずに2人同時にぶっ飛ばさなかった?)
(リーダーどうすんだよっ。このチビ意味がわかんねえよっ)
フーリエも全身から脂汗が止まらない。
そんな2人の様子を見て、ミューゼがニッコリと笑い、優しく語りかけた。
「ところでエンディアさんとやら」
「は、はいっ」
「こちらのピアーニャ様。いったい何歳でしょう?」
「………………」
(コイツ、わちであそびはじめやがった)
唐突な謎かけに、エンディアを中心としたツーサイドアップ派が沈黙した。
ピアーニャはさらに少しだけ不機嫌になったが、やりたい事を理解して大人しく黙る事にした。
(しかも今、ピアーニャ様って言ったよね? 絶対『自分より偉いんだぞこの子』っていう脅し入ってるよね?)
クォンも、そしてエンディアも、その意図には気が付いていた。そのせいで下手に間違える事が出来なくなったのである。フーリエなんかは小刻みに震えている。
(えっ何? この子の方が要人なの? 見たままの年齢じゃないって事? それとも罠? 間違えたらどうなっちゃうのわたくし……)
(間違えたら死ぬ! 間違えたら死ぬ間違えたら死ぬ間違えたら死ぬぅぅ!)
離れて見ているイケメン達も、困惑と脂汗にまみれている。先程ピアーニャにぶっ飛ばされた2人にも、こっそりとその事を教えると、そのスマートなお尻が震えだした。
(おぉ、なかなかの眼福。引き締まってていいですなぁ)
クォンが壁尻イケメンに気を取られる。その表情に気が付いたエンディアも同じ方向を見ると、一瞬だらしない表情になった。しかしそれどころではないと思い出し、真剣な顔でミューゼに向き直る。
「あ、あの、質問いいですか?」
「はいどうぞ」
「えーっとその……間違えた場合は?」
「………………」
「……あのぉ?」
「後悔しないですか?」
「はへ?」
にっこり笑顔のミューゼの言葉で、うっかり変な声を漏らすエンディア。
「聞いて後悔──」
「すみませんやっぱ今の無しで!」
慌てて質問を撤回するが、ミューゼの方は特に何も考えていなかったりする。つまり、完全なるハッタリだった。
もちろん相手の事が分からないエンディアにしてみれば、どうなるか分からない状況である。
そして遊び道具になっているご本人は、自分の置かれている立場に不満ではあったが、ツーサイドアップ派達が無駄に怯えているのを見て、ちょっと楽しくなっていた。
(うむ、コイツらがまちがえたら、どうしてやろうか)
なんとミューゼに合わせて罰を考え始める始末。そのニタリと動いた口元が、様子を伺っていたフーリエに恐怖を植え付けていた。振動がかなり激しくなっている。
「おいミューゼオラ」
「はい?」
「ついでにヨウジすませていいか?」
「いいですよー。終わったら教えてくださいね」
(いやオマエもシゴトしろよ……)
肝心の仕事は総長に任せっぱなしの部下であった。
ピアーニャは気を取り直し、ここに来た目的を果たすことにした。
「さて、わちのネンレイのまえに、すこしハナシをしよう」
「は、はいっ」
「お助けをっ!」
(コイツ、わちをなんだとおもってるんだ?)
フーリエは話にならなそうなので、エンディアに向かって語り掛ける事にしたようだ。
「ツーサイドアップはで、イチバンえらいやつはいるか?」
「はいっ、わたくしですっ!」
「オマエかよっ!」
「えぇ、この人なんだ……」
いきなり判明したトップ。クォンは驚くというより引き気味である。
以前フーリエがリーダーと呼んでいた通り、エンディアが派閥のトップだった。そしてここから頼んでもないのに怒涛の自己紹介が始まった。
「わわわたくしの名はエンディア・ネス。由緒正しきツーサイドアップ派の4代目領袖ですっ」
「そんなの代々続いてたんだ……」
ツーサイドアップとツインテールの抗争が、100年以上続いているかもしれないと考え、クォンはウンザリした。
ここでミューゼがふと考えて、質問してみる事にした。
「髪型の派閥は2つだけ? ショート派とかロング派とかは?」
「またどーでもいいシツモンを……」
「その2つは大きな勢力です。穏便な連中なので基本的に関わる事はありません」
「あるのか……」
サイロバクラムで活動している髪型の派閥は2つだけではなかった。しかしどこも活動的には大人しく、対立行動はしていないようだ。ツーサイドアップとツインテールが特別だという。
「なんでそんなのが沢山あるのに、クォンは今まで知らなかったんだろう」
「中には危険な内容もあるので、15歳までは伏せられるんです」
「危険!?」
「ああ、子供には確実に悪影響だからな」
「なにしてんの……」
「ちなみに、ハーガリアン総司令様は、ロング派です」
「なにやってんの!? あのおっさん!」
髪型の派閥はむしろ一般的なようで、大人でどこかに加入していない人は少ないという。サイロバクラム人の大人の娯楽という事だろうか。
おそらく家族もどこかの派閥に加入していると教えられ、クォンは落ち込んでしまった。
「クォン・パイラ。貴女の髪型を整えているのはどなた?」
「ママン……あっ」
「おそらく同志でしょうね」
それを聞いて、さらに落ち込んでしまった。クォンの髪型は母親のこだわりだったのだ。
クォンのそんな姿を見て、ちょっと満足気なエンディア。
「なぁ。なんでそんなに、うれしそうなんだ?」
「クォン・パイラは、今や裏切り者であり、我が宿敵だからです」
「そうなのか?」
「裏切るもなにも、こんな変な派閥がある事も知らなかったんですけど!?」
「それもそうか」
加入すらしていないのに裏切り者呼ばわりは流石に遺憾なようで、どういう事か問う事にした。
エンディアによると、小さい頃からツーサイドアップの英才教育を施されたクォンは、派閥にとって将来の希望そのものだったようだ。近所の集まりと称して、キャッキャと遊ぶクォンの姿を少し離れた場所からみんなで観察したり、クォンの絵を可能な限り鮮明にプリントし、グッズ化して愛でたりと、慎ましやかな活動をしていた。
ある日突然の失踪。母親にも泣きつかれ、ツーサイドアップ派総動員で捜索にあたった。あわよくば恩を売って派閥の中心人物になってもらおうと考えながら。しかし、クォンの失踪先は、異世界であるネマーチェオン。いくら世界中を探しても見つかるわけもなかった。
そして数日後、クォンがひょっこりと帰ってきた。驚くほど美人な恋人を連れて。それだけならよかったのだが、恋人の髪型がよりによってツインテールだった事が大問題となったのだ。
元々対立している両派閥の過激派達は愕然とし、これまでよりもさらに激しく争うようになったのである。そんな中に、「これだから異世界は信用ならない」という意識が芽生え、レジスタンスが生まれたのだった。
「えーっと、つまりは、ツインテールのこいびとをハハオヤにショウカイしたときから、ハバツにおおきなヘンカがうまれたのだな」
「はい。動機はそれぞれですが、利害が一致した者が組み、派閥内に抵抗派が生まれ、いつしか他派閥からも協力者が集まり、世界抵抗軍という集まりになったのです」
「……ちなみにそのドウキは?」
「わたくしは、裏切りに加え恋人を作ったのが羨ましくて、殺意が芽生えましたけど」
「えぇ……」
「知っている限りでは、単純に異世界を恐れている人、ツーサイドアップとツインテールが結ばれるなどあってはならないと考える人、美人の恋人が羨ましい人、クォン・パイラを狙っていた人などがいます」
「私情しかない……」
「シュミのハバツなんてそんなもんだろ……」
ピアーニャとミューゼがしっかりと話を聞いている間、横にいるクォンは死んだ目で明後日の方向を見ていた。完全なる拒絶反応である。
「キモイ……みんな死ねばいいのに……」
そんな呟きが聞こえてしまったピアーニャは、この話を打ち切って次の話題に入る事にした。
「ところでっ、あのあとテンイのトウにいったが、トウはブジ。ハンニンはにげたようだが、まだやるのか?」
「ええ、破壊工作は失敗。それなりの精鋭を送ったつもりなのですが……」
エンディアはあからさまにガッカリした様子で、素直に答えた。
「なんでも、バケモノが現れて、破壊工作を妨害したそうです。それはそれは恐ろしい筋肉の塊だったとか」
「ん?」
「あれ?」
ピアーニャとミューゼはその情報に違和感を覚えた。
「どういうコトだ?」
トランザ・クトゥンのとある場所、大きな男が太い腕を組んで立っていた。
「素晴らしい。これは是非とも手に入れねばな」
そう呟くと、足に力を込め、大きく跳躍。ビルの上へと昇り、屋上で満足気に頷いた。
向いた方向には、もう1人の大きな男が座っていた。その男は、少しだけ顔を上げ、ニヤリと笑みを浮かべていた。