テラーノベル
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「失礼します。ステラ様!今日から、ステラ様のお世話をさせていただきます、アウローラっていいます」
「よ、よろしくお願いします」
「えーもう、ステラ様、敬語いらないですって!私が、ステラ様に使える側なんですから」
「は、はあ……」
ノリのいいメイド。いや、陽キャ! 圧倒的陽キャが来たと思った。眩しい。
黄金色のミディアムヘアで、ぴょこんと結ったサイドテール、レモン色の瞳に、八重歯。メイド服の丈が少し短いかなあ、って感じのメイド。アウローラさん……アウローラ。
フィーバス卿のことだから、もう少し大人しいメイドをよこすのかと思ったが、予想が外れた。まさか、こんな元気はつらつ! とした子がくるなんて。予想できないだろう。
私は、また頬がびっきびきに引きつって、アウローラに微笑みかけた。アウローラは、キラキラと目を輝かせて私を見ている。その頭に耳と、お尻から尻尾が生えているように見える。なんというか、犬系……グランツとはまた違う、なつっこい犬。
「ど、どうしたの。アウローラ」
「いえ!フランツ様が養子として迎え入れた方ってどんな方かなあと思ってわくわくしてきたんですよ!キレー!お人形さんみたいですね」
「に、人形。というか、アウローラは、ずっとここにいたんじゃないの?」
「違います!」
「そ、そうなんだあ……」
キレッキレの言葉。もう、本当に眩しかった。真っ暗な夜からいきなり顔を出した朝日みたいな、そんな感じ。目を細めていると、目にゴミが入ったんですか! なんて迫ってくるし、びっくりした。フィーバス卿って、もしかして変わっている人なんじゃないかって思えるくらい、その、センスが! いや、文句は言わないけど! と取り敢えず、心の中におさめて、アウローラを見る。確かに、物珍しいのかも知れない。ずっと、養子を取ってこなかった、フィーバス卿がとった養子のこと。私にここの屋敷の使用人たちは優しくしてくれるけど、私のこと気になっているはずなのだ。嫌な風に思われていなければいいけど、フィーバス卿があれだけ、私の部屋に来ていれば、変に思うかも知れない。私が、フィーバス卿を誑かした、なんて噂になってなければいいけれど。
(ほんと、何というか、リュシオルとも、ノチェとも違うんだよね……)
タイプが、タイプがニュータイプ過ぎて、追いつけなかった。人懐っこいのは悪いことじゃないんだけど、こう滲み出る陽キャ感が、どうしても眩しくて、陰キャの私には目の毒というか、よくもまあ、フィーバス卿が! とやっぱり文句言いたくなる。いいメイド、といっていたから、仕事は出来るんだろうけど。
(いやいや、決めつけはよくない!)
私は首を横に振って、自分の考えを取っ払った。人は見ためじゃない! と、心を持ち直し、ノチェの方を見る。ノチェは、わくわく、キラキラといった目で私を見てきている。だから、何でそんな目で見るかなあ、と私はやっぱり引きつってしまう。
「そ、それで、私のこと今日初めて知ったと」
「いえいえ!存在は……ああ、えっと、知ってたんですけど、フランツ様に頼まれて、ちょーとばかしお遣いに」
「お遣い?」
「帝都の方にいってまして!魔法石勿体ないので、走って戻ってきたんですけど」
「走って!?」
「はい。あ、あと、辺境伯領周辺の魔物も対峙しておきました。最近あれですもんねー災厄で、凶暴化して!辺境伯領の騎士団って、基本街の治安維持が仕事なので。ああ、いや弱くないですよ!戦闘になったら、そりゃ、もう一人で魔物と対峙できるぐらいには強くて!」
「ええ、待って。待って、追いつかない」
「何がですか?」
はて? みたいな、顔をされても困るのはこっちなんだけど、と私は、まくし立てるように情報を吐く、アウローラを一旦止めさせた。今の会話で、もの凄いことを言っているのは確かで、やっぱりただ者じゃないと言うことだけは分かった。
帝都までお遣いに行ってきて、走って戻ってきた。かなり距離があるのに、走って戻ってくるっておかしすぎる。フィーバス卿なら、魔法石の一つや二つ、お遣いに行かせるなら持たせるだろうし、なかったとしても、女性が走って帰ってくるなんて! どれほどの距離だと! それこそ、馬車を使えばいいのに。
後は、魔物を退治した話とか。リュシオルは、魔法ではなく武力に優れているらしいメイドだったし、ノチェも魔法が滅茶苦茶上手いメイドで、二人ともクールで強かったんだけど、アウローラは何というか、その二人と見比べると異質というか。魔物が出たことが、まるで楽しいことが始まる! みたいなテンションでいうから。まあ、倒せたっていうことは、強いってことなんだろうけど。
「アウローラ、それはお父様が指示したことなのかなあって」
「お遣いは指示ですけど、魔物退治は趣味ですね」
「しゅ、趣味!?」
「はい。倒したら、たまーにフランツ様に誉められますし、それが嬉しくって。あと、ストレス発散ですかねえ。強い魔物に勝ったら、私強いって自信つきますし!」
「た、確かにそうかもだけど趣味って」
「ダメですか」
「い、いや!いいと思う、すごい、何か、それだけで、アウローラが強いって分かっちゃったから」
ずいっと距離を縮められたので、取り敢えず適当に誉めようと思って、言葉を並べた。一瞬、冷たい目になった気がしたけれど、彼女はにこりと笑って「誉めて貰えて嬉しいですー!」なんていってきた。それが本心なのかどうかも分からない。ただ、怒らせたら面倒くさそうなタイプだなあと言うことだけ分かった。
強いというステータスがあるだけで、フィーバス卿に好かれそうではあるが。
「ステラ様も、魔法が使えるんでしたよね」
「え、ええ、まあ……」
「それを見込まれて、養子に?」
「え、あ、多分……そう、だと思う」
「へえ」
「な、何?」
ギロリと睨まれた気がした。本当に、フィーバス卿みたいな、冷たい瞳で射貫かれた気がしたのだ。気のせいかと思いたかったが、その満面の笑みが、今では恐ろしく感じる。彼女から、何だか嫌なオーラが出ていたからだ。
「いえいえいえ!フランツ様に認められるって凄いなあと思いまして。私ももっと強かったら、養子になったのかなあ、なんて!」
「強いだけじゃ、養子になれないと思う……けど」
「へえ、じゃあ、なんでステラ様は養子になれたんですか?」
「え?」
圧。圧がかけられた気がした。声も顔も笑っているのに、その内に潜むものが、暗く、どす黒い……何だか、前にも同じようなものを向けられた気がする。ラヴァインとかも、この手の感じだ。
私は、怖くなって後ずさりすれば、アウローラはにんまりと笑った。
「ステラ様のこと調べさせて貰ったんですけど、何か何処にも記述なくって。平民だったんですよね?何処出身で?」
「え、いや、ええっと、そこ、記憶なくて……優しい人に拾われて、それで」
「へえ。じゃあ、そんなわけも分からない人をフランツ様が拾ったと」
「わけも分からないって、それ、お父様も侮辱してない!?」
思わず叫んでしまった。それが、彼女の琴線に触れたのか、はっきりと、そのレモン色の瞳で睨み付けられた。
「どんな手を使ったか知りませんけど、出自不明、それも記憶喪失?かも怪しい人を、屋敷に置いとくこと出来ないんですよねえ。ステラ様」
「……っ」
「魔法は得意ですか?」
彼女はにじみよって、私に問いかける。
完全に警戒されているというか、嫌われている。嫉妬の類いか、それともフィーバス卿への信仰心か。分からないけど、ここで私が背中でもみせたら刺されそうだと思った。ずっと突き刺さっている彼女の視線がそれだ。氷というより、硝子……のような。
私は、ここで、負けたら、馬鹿にされると思ってグッと拳を握った。それに、絶対さっきの言葉はおかしい。フィーバス卿まで侮辱していることになるから。
「訂正して」
「何をですか?」
「お父様を侮辱したこと。私への侮辱は許すけど……いや、許したくないけど、でも、お父様が私を選んでくれたの。それだけは、絶対に……っ!」