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阿炎快空
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阿炎快空
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阿炎快空
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シートの上には、オーマが『森』から吐き出したあれこれがずらりと並べられていた。(この時、僕は初めてオーマがナハトと同様に、口内に様々な物を収納できることを知った)
オーマ曰く、それらは僕の世界を冒険して手に入れた戦利品とのことだった。
彼女にとって僕の世界は、面白いものや、興味深いもので溢れかえっているように見えるらしい。
正直、僕からすればこっちの世界の方がよっぽど奇天烈なのだが。
まあ、普段は都会で刺激的な娯楽に囲まれている人だって、たまに海に遊びに行けば、綺麗な貝殻に心動かされて家まで持ち帰ったりすることもある。
オーマにとっては、それと同じような感覚なのかもしれない。
「どうです、ちょっとしたもんでしょう?」
オーマが得意げに胸を反らす。
「私のコレクションの中でもとっておきのお宝の数々ですが、由宇さんの為とあらば手放すのも惜しくはありません!さあ、お受け取りください!」
自信満々なオーマとは対照的に、磯田さんは、
「う、うん……」
と困り顔で首を掻いた。
正直、その気持ちはよくわかる。
僕はいたたまれない思いで、並べられた〝お宝〟の数々を見下ろした。
マジックペンで落書きをされた地球儀、
閉まらなくなった蓋をガムテープで閉じている炊飯器、
数世代前の壊れた携帯ゲーム機、
水が薄茶色に濁りはじめたスノードーム、
あちこち塗装の剥げたロボットの模型、
やたらと年季の入ったホワイトボード消し、
電池の蓋が外れたピンクローター(!)、
コンビニで売っている分厚いコミック(昔の麻雀漫画の総集編らしい)
テープの伸び切ったVHS(手書きで『ホームアローン2』と書いてある)、
絡まってしまっているカラフルなスプリング状の玩具——等々。
ゴミ捨て場にあった物や不法投棄された物を、手あたり次第に飲み込んだのだろう。
オーマにとっては特別でも、大半の人にとってはそこまでの価値はないであろうものばかり。
とても薬との交換が成立するとは思えない。
と、その時だった。
「ん?これは——」
磯田さんが、ロボットの模型に手を伸ばした。
全体的に青いカラーリングのそれは、二足歩行の人型ながら顔は馬を模しており、背中には翼らしきパーツが付いていた。
「驚いたな……ペガサスブルーの乗る機体だ」
「ペガサス……?」
「知らないかい?『魔戒戦隊ゲンジュウファイブ』」
「えーと……すいません」
謝らなくてもいいけどね、と磯田さんが苦笑する。
「世代的に、知らなくて当然か。あったんだよ、そういう特撮番組が」
磯田さんは、懐かしそうにロボットを眺めた。
「みんなはリーダーのレッドに憧れてたけど、僕は断然ブルー派だったな……」
ぽつり、ぽつりと、磯田さんが呟く。
大切な記憶の欠片を、そっと拾い集めるかのように。
「そもそも、青は好きな色だけど……いや、違うな……彼のカラーだから、好きになったんだっけか……ブルーは五人の中で誰よりも優しくて、友情に厚かった……どんな時でも、決して仲間を見捨てないし……困っている人には、手を差し伸べて……」
そこまで言って、磯田さんは黙った。
手にしたロボットを暫く見つめた後、視線を肩に乗った青いリスへと移す。
リスもまた、じっと磯田さんを見つめていた。
やがて。
ふう、と息をつき、磯田さんは言った。
「わかったよ——僕の負けだ」
「そ、それじゃあ!」
息を飲む僕に、磯田さんがにっこりと微笑んだ。
「そうだね、このロボットに加えて——金貨七枚で手を打とうか」
「七枚?」
ナギが、信じられないといった口調で訊き返す。
「まだ高すぎるかい?」
「い、いや、そんなことはないが——本当にいいのか?さっきは、二十枚は必要だと——」
「僕個人にとって、このロボットにはそれだけの価値がある。それにあの〝宵闇〟の魔女と闘おうっていうんだ。他にもいろいろ準備はいるだろう?残ったお金は、そっちに回すといい」
リスの頭を指で優しく撫でながら、磯田さんは苦笑した。
「まあ、もしかしたら妻にはちょっとばかり——いや、だいぶ怒られるかもしれないけど——でも、きっとわかってくれるさ」
「やったあ!やりましたよ、修さん!」
嬉しそうに、オーマが声を弾ませる。
僕も思わず、オーマをギュッと抱きしめて叫んだ。
「うん!ありがとう、オーマ!——磯田さんも、本当にありがとうございます!」
「なあに、構わないさ。ほら、これが〝新月の秘薬〟だ」
磯田さんはシートの端によけてあった小瓶をナギに手渡した。
香水瓶のような見た目の容器の中に、黄金《こがね》色の液体が入っているのが見えた。
「これで確かに、商談成立だ。ああ、それから——これも持っていくといい」
磯田さんはこちらに一旦背を向けると、背後に投げ出していたリュックから、ゴソゴソと何かを取り出した。
「こいつに関しては、お代はいらないよ。僕から君達への、純粋なプレゼントだ」
そう言って差し出された手に握られているものを見て、僕はぎょっとして身を固くした。
それはこれまで、ゲームの中でしか扱ったことのない道具——リボルバー式の拳銃だった。
コメント
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第54話、読み終えました。オーマが集めてきた“お宝”の数々、一見ガラクタの山なのに、磯田さんがペガサスブルーのロボットを見つけた時、空気が一瞬で変わったのが伝わってきました。あの「負けだ」の一言に、子どもの頃の自分を思い出すような、胸がじんわりする温かさがありました。金貨七枚とロボット——納得の値段です。そして最後の拳銃、あの衝撃は心臓にきました。次が待ち遠しいです。