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明がトボトボ家に帰ってくると、草刈りをしていたアリスが明るい笑顔を向けて、足取り軽く明に向かってきた
その時険しい顔をしてる自分に気づく、なので無理やり笑顔を作る
ああ・・・彼女の笑顔は好きだ、アリスが来てから彼女の笑顔は、いつも明に希望をもたらしてくれる
でも今日はそれも効き目がなさそうだ
それはずっと孤独だった明を癒す笑顔だった
アリスがこんなに陽気なのは残念だ、明はもうそんな明るい気分にはなれなかった
「アキ君?どうしたの?学校で何かあった?」
「え?何もないよ、今日もすっごく楽しかった」
「そう~~!よかったわねぇ~~~」
アリスに心配をかけてはいけない、アリスに知られると当然のように、北斗にも・・・ナオにも・・・
明は自分の足が石になったように感じつつ、家の中に入った
「アリス僕先に部屋で宿題するね」
「わかったわ~♪
じゃぁおやつ後にするね~」
パタンッと扉を閉めた、今朝家を出てから初めて部屋に一人になってホッとする、今まで無意識にずっと緊張していたんだ
途端に明は自分が情けなくなった、学校では友達が沢山出来たらいいなと思っていた
特に明はクラスで一番仲良くなりたいと思ったのは、「桐谷レオ」だった
レオはとてもサッカーが上手だった、なんでも幼稚園からサッカー教室のエースだったらしい、実際サッカーボールを自由に操って、グランドを駆けまわる彼はとてもカッコ良かった
入学式の時初めてレオに話しかけられた時は、明は喜びに心が弾んだ、でもいつものいまいましい緊張から吃音症が発症した
明は下を向いて数字を数えた、相手を見れば緊張が増す、下を向けば落ち着くからだ
そしてようやく落ち着いて話せると思った時には、レオは愛想をつかせてどこかへ行ってしまっていた
いつものパターンだ
明にかかったら誰でも同じ態度を取る、最初は期待して寄ってくるものの、明はいつもその期待を裏切ってしまうのだ
女の子達は明が話さなくても、そこにいるだけでなぜだか楽しく過ごせた
どういうわけか彼女達だけで、勝手に盛り上がってくれる、明はそれを見て笑っていればそれでいい
ベッドにどさりと仰向けになる、窓から差し込む日光に視線を向ける
ランドセルには入学式から帰ってきて、すぐに書いたレオへの手紙が眠っている、もうおそらく一生渡せる感じがしない
ショックだったのは、今日机に落書きしたあの三人グループの一人に、レオがいたことだ
本当にショックだった・・・・
寒気がする、これまでずっとそうだったように、深い部分に寒気がある
いやになる・・・・こんな自分がいやになる・・・
明はブンブンと頭を振る、大したことじゃない、こんなこと問題ない
アイツらとは二度と関わらなければいい、決然と孤高を保つ、友達なんかいらない
下の階から今夜の炒め物の具財をめぐって、直哉とアリスが言い合っているのがここまで聞こえる
ナオはブロッコリーはニンニクと、ベーコンと炒り卵で炒めると主張する
アリスはブロッコリーは、サラダにしか使わないと言っている
それでも北斗が来たらこの二人の、小さなイザコザは丸く収まる、なぜなら北斗が二つのメニューを作るからだ
北斗は全てに対して平等だ、でも二人っきりの時は特別扱いしてくれる、きっとナオにもアリスにも同じなのだろう
自分には家族がいる・・・
家族が大切だからこそ、北斗やアリスには心配をかけたくない
何よりいじめにあっている自分を認めるのが、耐え難い
明はギュッと唇を噛んだ
学校の長い廊下を1年2組の担任、近藤が速や足で教室に向かって歩いていた
本当は駆けだしたい所だが、廊下は走っていはいけない、いつも生徒に言ってることを、先生が破ってはいけない
ようやく1年2組の廊下にたどり着くと、そこには6年生の成宮明君のファングループ、「アッキーズ」の面々がたむろしていた
その中でも一番強面の「アッキーズ」リーダーの、生徒会長の野々村さんが腕を組んで待っていた
「先生!!遅いですわよ!アキ君の上履きが朝から無くなっているんです!」
迫力ある生徒会長にギロリと睨まれる、彼女のランドセルには成宮君のトレーディングカードホルダーが、ぶら下がっているオタクの鏡のような子だ
恐れていることが起こってしまった。本当は自分は高学年を受け持ちたかった、なぜなら1年生は学校生活に慣れていない年頃で、何が起こるかわからないので未知数だからだ、自分の扱えるクラスなのか不安だった
近藤は胸ポケットから、胃薬を出して二錠口の中に放りこんだ、ガリッと噛む今回は水無しで飲めるタイプだ
「また胃薬ばかり飲んでる~~~」
心無い女性徒からヤジが飛ぶ
「え~~っと・・・・成宮君・・・昨日はちゃんと下駄箱に、上履きを入れて帰りましたか?」
コクンッと明が頷いた
その後ろで永原さんが無くなった明の、上履きのスペースがぽっかり空いているのを「パシャッ」と撮っている
「まぁ!!先生!!上履きが無くなったのが、アキ君のせいだとでも申しますの?これは完全にいじめですわよ!」
「いじめは許せないわ!」
「私達のアキ君が可哀そうよ!」
ドッとアッキーズに詰め寄られて、近藤が血の気が引いた顔でみんなをなだめる
「わ・・わかったよ・・・ちゃんと解決しようね・・・でもクラスのみんなを疑うのはちょっと・・・・」
どよめきが近藤への不満を告げている、近藤を見る「アッキーズ」のメンバーがことごとく冷たく鋭い
「え~っと・・・・まずもう一度先生と一緒に探して・・・それでも無かったらクラスのみんなと一緒に・・・」
近藤は額の汗を拭きながら、腕を組んでこちらを睨んでいるアッキーズの、視線の厳しさに気づかないふりをして明に説明する
ハァ~ッ・・
「最悪・・・ 」
「ほんとわかってない!」
「これだから新任は・・」
アッキーズが呆れて口々に囁く、いかにも近藤の処置に不満を感じている
今の近藤が明を見る目はとても複雑な、問題の塊のような目で見ている、途端に明は近藤に申し訳なくなった
「先生・・・・僕・・・大丈夫です。今日は上履きなしで授業を受けます」
「そんなっ!アキ君!」
「いけないわ!」
「可哀想~ 」
アッキーズがどよめいている、それを見た近藤がうろたえて目をしばたく
「ハイ!アキ君とりあえず、職員室からスリッパ借りて来たわ!」
同じクラスのアッキーズメンバー篠原さんが、明に気を利かせて来客用のスリッパを明に、差し出した
「ありがとう」
明が篠原さんからスリッパを受け取って微笑む、ポッと篠原さんが頬を染める
途端に抜けがけされた他のアッキーズメンバーが、嫉妬の炎を燃やし篠原さんを睨む、篠原さんはいかにもポイントを稼いだわ、とばかりにフフン♪と手で髪の毛を後ろに払った
「とにかく!誰がこんな事をしたのか、徹底的に調べてくださいね!」
「う・・うん・・・わかったよ」
詰め寄る野々村さんの迫力に、近藤がたじろいで額の汗を拭う
今日はどういうわけか胃薬の効き目が遅く、やっぱり水で流し込むタイプのものに、変えようと新任担任は考えた
「と・・・とにかく・・・・放課後・・・先生と一緒に上履きを探そうね」
「ハイ」
ペタペタとスリッパの音を鳴らしながら、明が自分の机に向かった
するといつものように教室の端で、ニヤニヤ笑って男子生徒団がこっちを見ている
「絶対アイツらよ!」
「最低ー!」
「アキ君気にしなくていいからね」
明が机に座ると、アッキーズメンバー篠原さん達が、明に同情して次々に囁く
その頃、外遊びから帰って来たレオがサッカーボールを、片手にその光景をじっと見ていた
「・・・・・・・ 」