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坂を登るたびに、風が強くなっていく。潮の香り、鳥の声、そして遠くに聞こえる波の音……
そのすべてが、灯の心に沁み込んでいくようだった。
丘の上に建つ白い灯台。
その真下に、芝生の広場が広がっていた。
灯は、そこに立って、胸に手をあてた。
「晶哉……来たよ。ここ、晶哉が一番行きたがってた場所。」
トクン。
トクン。
心臓が、応えるように鳴っていた。
ふと、ベンチの上に何かが置かれていることに気づいた。
風で飛ばされそうな小さな缶と、紐でくくりつけられたカード。
缶のラベルには、見覚えのある文字があった。
『灯へ』
灯は、缶を両手で包み込むようにして、そっと開けた。
中には――
折りたたまれた手紙と、SDカード。
『灯へ
君がこの丘に来てくれること、ずっと信じてたよ。
たぶん今、君はひとりでここにいるんだよね。
でも、君の中には僕がいる。
その証拠に、君が感じてる心音は、僕のものでもある。
これを書いているとき、
僕はまだ手術のことを知らされてなかった。
でも、自分の体がもう長くないってことは、感じてた。
だから、準備をした。
君がひとりになっても、“本当にひとりにならないように”。
SDカードには、僕の声が入ってる。
照れくさいけど、録音したんだ。
君の眠る隣で、こっそり。
夜中に、君が微笑んでた顔、今でも目に焼きついてるよ。
君がこの先、どんな道を選んでも……
僕は、君の心の中で灯り続けたい。
灯台の光みたいに。
君の“進むべき方向”を、そっと照らす存在になれたら嬉しい。
君を愛しています。
心の底から。
これからも、ずっと。
晶哉より』
手紙を読み終えた灯は、SDカードをスマホに差し込んだ。
しばらくして、聞こえてきたのは……
『……灯。これを聞いてくれてるなら、ありがとう。
君が笑ってる顔が好きだった。君の声も、歩き方も、全部。でも一番好きだったのは……君が誰かを想って泣ける優しいところ。だから、これからは君自身のことも、大事にしてあげて。そして最後に恥ずかしくて前では言えなかったけど、灯の事が大好き。いや、愛してます。』
声が、まっすぐ届いてくる。
まるで、すぐ隣で話してくれているように。
灯の頬を、涙が静かに伝った。
でもその涙は、哀しみだけではなかった。
「ありがとう、晶哉。あなたは……今も私の中で、生きてるよ。私も晶哉のこと愛してる。」
心臓に手をあてた
その時……
灯台の上で、光が静かに回り始めていた。
遠くの海まで、やさしく照らしていた。