テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
33
30
609
羽海汐遠
11,234
いけない戀を、してしまゐました。
輝いて見えるは、凛とした横顏。
呆氣なく、墮ちてしまゐました。
林檎のやうに熟した頬は、冷めることを知らぬやうで。
その瞳、その靡く髮、その唇、その全てに、心を奪われたのです。
それからとゐふもの、私の視界にはだうやつても貴方しか映らなゐやうで。
少しばかり自分でも、呆れてしまうことがあるのですが、口の端が貴方を見つめる度、だうにも下がることを忘れてゐるみたゐで。
ああ、まつたく、なんて酷ゐ人なのでせうか。
いけない戀だといふのは、最初から分かつていたのです。だつてほら、貴方の前に綺麗な女性がたゞ壹人。佇んでゐるではありませんか。
その人を見つめる貴方の瞳といつたら。まう。私があなたを見つめるやうに、貴方もその人を見つめるものだから、自ずと氣づいてしまゐました。
きつと私は、此窓から貴方を見つめるだけで拾分幸せだつたのです。
あれよあれよと日は過ぎて、貴方はあの女性と同じ白い服を着て、多くの人に見送られ、指輪をはめてゐました。
その日はわんわんと泣きました。日が暮れても、朝になつても、晝になつても、ゐつまでも。
貴方なんて、そのまゞ幸せになつてしまえばいい。私を知らず、私を置いて、私を殘して、幸せに暮らしてしまえばいい。それか、いつか窓邊から貴方を見ていた私に氣づいてはくれなゐでせうか。なんて、そんなことを願つても彼はこちらを見向きもしないやうで。にじむ視界と搖らぐ貴方の後ろ姿に、ほんの少しばかり、私の胸が痛むだけなのです。
コメント
1件
うわ、すごく美しい文体…!旧仮名遣いの柔らかなリズムに、最初から心掴まれました。「林檎のやうに熟した頬」とか、もう愛おしさが滲み出てる。窓辺から見つめるだけだった「私」の、あの日々の切なさがひしひしと伝わってきて胸が苦しい。結婚式の場面、自分を置いていけと願いながら泣き続けるラストが特に沁みました。続きが読みたい、でもこの一編で完結してる気もする…どちらにしろ、弔さんの世界観にどっぷり浸かれました🌷