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#5等分の美男子
#しょしんしゃ🔰
りと。
1,506
第1話:微睡みの中で
朝7時半。頭の芯を抉るようなアラーム音で意識が浮上する。こじ開けた瞼の裏で視界が重く揺れ、鏡の中の自分がどす黒いクマを覗かせていた。
冷えた朝食を機械的に口へ流し込み、静まり返るリビングに「行ってきます」とだけ残して家を飛び出す。
登校中の路上でも、教室の扉をくぐってからも。視界の端でざわめく「それ」が、神経をじわじわと削り取っていく。
クラスメイトの背中や肩口でうごめく、煤のような黒い影。
隣で小テストの用紙を睨む男子の背後で、影が不快に揺らめく。愛想笑いを浮かべる女子の肩には、粘りつくモヤが重く垂れ下がっていた。
視線を合わせず、見えないフリで意識を閉ざす。壊れそうな日常を繋ぎ止める術は、それしかなかった。
「おい凪、なんだその酷い顔。昨日は徹夜でゲームでもしたのか?」
肩を叩かれ、「……いや、マジでちょっと眠れなかっただけだ」と生返事で応じる。乾いた喉を潤そうと立ち上がった瞬間、猛烈な眩暈に世界が傾いた。
「っと、すみません……!」
「ひ、ひゃいっ!? ……あ、ご、ごめなさっ……!」
衝突しかけた白石琴音の手から、プリントの束が揺れ落ちる。小動物のように肩をすくめ、おそるおそるこちらの顔色を覗き込んできた。
「あの……顔色が、すごく悪いですけど……大、大丈夫ですか……?」
「あ、いや、俺がぼーっとしてただけだから。大丈夫……ただの睡眠不足」
「そ、そうですか……? びっくりした……気をつけてくださいね……っ」
彼女は何度も小さく頭を下げると、逃げるように廊下の奥へ去っていった。
一人取り残された胸の奥で、昨日の光景が嫌に鮮明な熱を持って蘇る 。
暗い路地裏。膝をつき、悲鳴すら上げられずに苦悶する男。その身体を脈打ちながら喰らい尽くしていく、濃密で巨大な影。
助けを求める男の瞳。恐怖に背を向け、走って逃げ出した自分の足音。あの男は今どうなったのか。次は自分の番ではないのか。冷たい汗が背筋を伝い落ちる。
放課後。ネオンと雑音に追われるように辿り着いたのは、繁華街の隙間にぽっかりと口を開けた薄暗い小道だった。
突き当たりに佇むレトロな建物。『喫茶 微睡(まどろみ)』と彫られた真鍮プレートが、重厚な扉の脇で静かに光っている。
カラン、と控えめな鈴の音。
店内の空気は、芳醇な珈琲の香りと異質な静寂で満ちていた。カウンターの隅に、短く切り揃えた黒髪の少女がひとり。
彼女は湯気立つカップへ、砂糖とミルクを際限なく注ぎ込んでいた。その白皙の輪郭を包み込む、透き通るような黒い気配。
少女が立ち上がり、足音もなく歩み寄ってくる。
「……あなた」
氷のように冷たく、澄んだ声。闇を煮詰めたような瞳が凪を捉える。
「最近、よく眠れていないでしょう。……逃げても、無駄なのに」
心臓を直に掴まれたような錯覚に呼吸が止まる。
「運命は選択で決まる。……次に会う時、あなたが何を選ぶか、少しだけ興味があるわ」
甘い香気だけを置き去りにし、少女は夜の中に溶けて消えた。
——そして翌朝。
重苦しい空気の漂う教室で、ガラガラと扉が開く。
「転校生を紹介する。入れー」
教壇の前に立ったのは、すらりとした体軀の少女。
「メアリ・モンローです。よろしく」
昨夜の暗闇と同じ、あの深い瞳がまっすぐに凪を見つめていた。
コメント
7件
おお、これはめっちゃ引き込まれたわ……! 第1話で見せられた「負の感情が見える」設定が、第2話でぐっと現実味と緊張感を帯びてきたね。主人公の逃げ出した罪悪感と、メアリの「運命は選択で決まる」って台詞が絶妙に絡んでて、転校生として現れたラストは思わず声出たよ。白石琴音も伏線っぽくて気になる存在だし、この先の選択がどう描かれるのか、めちゃくちゃ楽しみ🔥