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スタートヽ(*^ω^*)ノ
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、静かに部屋を照らしていた。
その眩しさに、キヨはゆっくりと目を覚ます。
ぼんやりとした意識の中で体を動かした瞬間、
腰に走る鈍い痛みが現実を引き戻した。
「……っ」
昨夜の記憶が一気に蘇る。
熱、触れた感触、交わした言葉——
思い出した途端、顔が一気に熱を帯びた。
「なんか…すごかったな…」
小さく呟きながら、そっと隣へ視線を向けると
そこには、穏やかな寝息を立てるレトルトの姿があった。
無防備に眠るその顔は、昨夜とはまるで違って、 どこまでも柔らかく、静かだった。
キヨは少しだけ体を寄せて、 そっとレトルトの頭に手を伸ばして優しく撫でた。
指の間をすり抜ける髪の感触が、
やけに愛おしい。
(……あぁ)
胸の奥がじんわりと満たされて
気づけば、視界が滲んでいた。
ぽろりと涙が落ちる。
その気配に気づいたのか、
レトルトのまぶたがゆっくりと開いた。
まだ眠たげな目でキヨを見つめ、
状況を理解したように、ふっと微笑む。
そして、そっと手を伸ばし、
キヨの頬に触れた。
指先で、涙を優しく拭う。
『……泣いてるキヨくんも、可愛いなぁ』
柔らかく、くすぐったい声。
その一言に、キヨは一瞬固まり——
「……バカ////」
照れ隠しのように顔を背けた。
けれどその耳は真っ赤で、
レトルトは小さく笑う。
レトルトは少しだけ身体を起こし、
優しくキヨを見上げた。
まだ寝起きの柔らかい表情のまま、
小さく口を開く。
『……Hug』
その言葉は、コマンドではない。
サブであるレトルトは、本来コマンドを出すことはできない。
それでも——
キヨの身体は、自然と動いていた。
まるで当たり前のように、
横たわるレトルトへと腕を伸ばし、
そっと抱きしめる。
強くなく、でも確かに包み込むように。
レトルトはその腕の中で、
嬉しそうに小さく笑った。
『へへ……』
ふにゃっと力の抜けた表情のまま、
キヨの胸に頬を寄せる。
そのまま、ぐりぐりと甘えるように
キヨに顔をすりつけた。
『俺もドムになれるかもなぁ』
冗談めかした声。
けれどその奥には、
くすぐったいような嬉しさが滲んでいる。
キヨは一瞬だけ驚いた顔をしたあと、
ふっと小さく笑った。
「……なれるわけないだろ」
そう言いながらも、
抱きしめる腕は少しだけ強くなる。
レトルトは腕の中で顔を上げ、 いたずらっぽく目を細めた。
『もし俺がドムならさぁ——』
にやにやと口元を緩める。
『キヨくんに、エッチなコマンドいっぱいしちゃうかもなぁ〜』
楽しそうに笑うその顔は、妄想に浸って緩み切っていた。
キヨは一瞬ぽかんとしたあと、 すぐに顔をしかめた。
「は?やめろって」
呆れたように言いながらも、 どこか笑いを含んだ声。
「絶対ろくでもないことしか言わないだろ」
レトルトはくすくす笑いながら、
さらに顔を近づける。
『え〜?優しくするやん』
そう言いながらも、
目は全然そんなことを言っていない。
キヨは思わず吹き出した。
「その顔で言われても信用できないんだよ」
軽く額を小突くと、
レトルトは「いたっ」と笑いながらも嬉しそうにしている。
さっきまでの甘さに、
少しだけおちゃらけた空気が混ざっていた。
レトルトは少しだけ体を起こし、
キヨの顔を覗き込むように見上げた。
『キヨくんのコマンド、凄く気持ちよかった』
その声は柔らかくて、
どこか余韻を含んでいる。
『ねぇ、また言ってね?』
上目遣いで見つめられた瞬間、
キヨの胸がドクンと大きく鳴った。
不意打ちみたいなその表情に、 思わず視線を逸らしてしまう。
(……ずるいだろ、その顔)
内心でそう思いながらも、
顔の熱を誤魔化すようにそっぽを向く。
「……当たり前だろ」
ぶっきらぼうに返す声。
けれどその言葉には、
確かな約束が滲んでいた。
レトルトはそれを聞いて、
満足そうにふふっと笑う。
その笑顔を横目で見ながら、 キヨは小さく息を吐いた。
バタバタと支度をしながら、
部屋の中は慌ただしい空気に包まれていた。
シャツに腕を通しながら、キヨが鏡の前でネクタイを整えていると、
後ろからレトルトの声が飛んでくる。
『ねぇ、キヨくん』
どこか含みのある声に、キヨは一瞬だけ動きを止めた。
『俺のためにさ、色々準備したって言ってたやん?』
振り返ると、
案の定、ニヤニヤとした顔。
『どんなことしてたん?』
——絶対わかってて聞いてる。
そう確信した瞬間、
キヨの顔が一気に赤くなる。
「……っ」
何も言わず、そのまま視線を逸らすと、
聞こえないふりを決め込んだ。
『え、ちょっと!』
レトルトがすぐに食いつく。
『ねー!なんで無視するのー!』
後ろでわざとらしく騒ぎ始める声を、
キヨは完全にシャットアウトするように、
淡々と準備を続けた。
『キヨくーん!ねぇってば!』
「……うるさい」
ぽつりと呟きながらも、
耳まで赤いのは隠せていない。
レトルトはそれを見て、
さらに楽しそうに笑っている。
『絶対なんかしてたやろ〜!』
「してねぇ!」
即答。
その反応の速さに、 レトルトは吹き出した。
『図星やん!』
「違うって言ってんだろ!」
ギャアギャアと騒ぐ声を背に、
キヨはカバンを手に取る。
そして振り返りざまに一言。
「ほら、そろそろ行くぞ!」
その声に、レトルトは「はーい」と軽く返事をしながらも、
まだどこか楽しそうに笑っている。
静かな夜とは打って変わって、
騒がしくて、でも心地いい朝。
そんな二人の日常が、
またひとつ動き出していた。
地獄のような満員電車をなんとか乗り越え、
ようやくオフィスにたどり着いたキヨは、大きく息を吐いた。
カバンを自分の机に置き、
ネクタイを緩めながら一息つく。
——と、すぐに顔を上げた。
ある人物を探していた。
(……うっしー)
昨日のことが頭をよぎる。
自分のグレアを真正面から浴びせてしまった相手。
謝らなければ、と思っていた。
キヨはキョロキョロとフロアを見渡す。
そして——見つけた。
牛沢は自分の机に突っ伏して 腰に手を当ててさすっている。
「……大丈夫か、あれ」
思わず小さく呟く。
その仕草に、既視感を覚えた。
(あの動き……どっかで見たような……)
一瞬だけ考え込む。
けれど、すぐにその思考を振り払うように
キヨは歩き出した。
少し気まずさを抱えながら、 牛沢の元へと近づいていく。
机に突っ伏している牛沢の背中を前にして、
キヨは一度だけ小さく息を吸って おそるおそる声をかける。
「あの……うっしー。おはよう」
思っていたよりも声が上ずる。
その瞬間、 牛沢の肩がぴくりと動いた。
ゆっくりと、
本当にゆっくりと振り返る。
そして——
にっこりと笑った。
妙に整った、
けれどどこか不気味な笑顔。
空気が一瞬で冷える。
「キヨ」
低い声。
「昨日はよくもやってくれたな」
その笑顔のまま、
言葉だけがじわじわと重く落ちてくる。
「覚悟はできてるんだろうな?」
にこやかなはずなのに、
背筋がぞくりとする。
キヨは思わず一歩後ろに下がった。
「え、いや、その……」
言い訳を探す頭が追いつかない。
視線を逸らしたいのに、
逸らしたら負けな気がして動けない。
牛沢はそんなキヨの反応を見て、
さらに口角を上げた。
——完全に、怒っている。
それも、静かに。
キヨの額に、じわりと冷や汗が滲んだ。
「うっしー、あの、その……昨日はご、ごめん」
焦りで言葉がうまく繋がらないまま、
キヨはとにかく頭を下げた。
けれど——
牛沢の表情は、ぴくりとも緩まない。
むしろ、にこやかな笑顔の奥にある圧が、
じわじわと増していく。
(やばい……本気で怒ってる)
空気が張り詰める。
次の瞬間には、
本当に飛びかかってきそうな気配すらあった。
そのとき——
「やー、2人ともおはよう!」
場違いなほど爽やかな声が、後ろから響いた。
キヨはハッと振り返る。
そこに立っていたのは、ガッチマン。
(救世主……!!)
心の中で思わず拝みそうになる。
ガッチマンは二人の空気を一瞬で察したのか、
軽く苦笑しながら牛沢の肩に手を置いた。
「はいはい、そのへんにしとけって」
やんわりと宥めるように押さえつつ、
そのまま自然な流れでキヨへ視線を向ける。
「キヨ〜」
いつも通りの落ち着いた声。
「今日のランチ、みんなで屋上で食べようよ」
何事もなかったかのような提案。
「レトさんにも伝えといて」
それだけ言うと、
ガッチマンはひらりと手を振り、
颯爽と自分のデスクへ戻っていった。
一瞬で嵐が過ぎ去ったような感覚。
キヨはその場に立ち尽くしたまま、
小さく息を吐く。
ちらりと牛沢の方を見ると——
さっきまでの圧は消えて、
再び机に突っ伏していた。
けれど、完全に許されたわけじゃないのは
なんとなく分かる。
(……あとでちゃんと謝ろ)
そう心の中で決意しながら、
キヨは自分の席へと戻っていった。
続く