テラーノベル
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最終話です!
よろしくお願いしますヽ(*^ω^*)ノ
昼休み。
四人は屋上に集まっていた。
春のやわらかい風が吹き抜けて、
空はどこまでも青くて、
思わず深呼吸したくなるような心地よさ。
——なのに。
その空気とは裏腹に、
場の雰囲気は重かった。
腕を組み、あからさまに不機嫌な牛沢。
その隣で、なぜか楽しそうにニコニコしているガッチマン。
そして、間に挟まれて
オロオロと落ち着かないキヨ。
対照的に、
レトルトだけはまるで何も気にしていないように、
のんびりと空を見上げていた。
しばらくの沈黙。
風の音だけが流れる中——
「……うっしー、本当にごめん」
キヨが口を開いた。
深く、頭を下げる。
その姿は、朝よりもずっと真剣で。
けれど牛沢は、腕を組んだまま、
ちらりとも視線を向けない。
「……」
沈黙。
空気がまた、少しだけ重くなる。
キヨは顔を上げられないまま、
言葉を探す。
その様子を見ていたガッチマンが、
小さくため息をついた。
「うっしー、そのへんにしとけって」
軽く肩を叩きながら、
なだめるように声をかける。
「キヨもわざとじゃないしさ?
ちゃんと謝ってるだろ?」
穏やかな口調。
それでも牛沢は、
しばらく無言のままだったが——
やがて、ふっと息を吐いた。
腕を解き、
ようやくキヨへ視線を向ける。
その目はまだ少しだけ不機嫌そうで、
でも完全な怒りではなくなっていた。
「……次やったらマジで許さねぇからな」
そう言いながらも、
どこか力の抜けた声だった。
でも、 これ以上責める気もない。
そんな絶妙なライン。
《次やったら許さない》
牛沢のその一言に、
間髪入れずガッチマンが反応した。
「次はないよ?——ね?うっしー?」
にこやかな笑顔のまま、
意味ありげな視線を向ける。
その空気に、
牛沢の肩がぴくりと揺れた。
「……….////」
一瞬だけ固まったあと、
じわじわと顔が赤くなっていく。
「お、おま……そういうの今言うなよ……!」
さっきまでの不機嫌さはどこへやら、
露骨に動揺している。
その様子に、
キヨはきょとんと目を瞬かせた。
(……なんだこの流れ)
さっきまで怒っていたはずの牛沢が、
急に別の意味で慌てている。
理解が追いつかない。
そんなキヨをよそに、
ガッチマンは変わらず楽しそうに笑った。
「俺たちさ」
少しだけ肩をすくめて、
当たり前のことみたいに続ける。
「パートナーになったんだよ」
にこにことした笑顔。
あまりにもさらっとした報告に、
一瞬、時間が止まる。
「……え?」
キヨの声が、間抜けに漏れた。
隣では、
レトルトが「へぇ〜」と呑気に頷いている。
牛沢は顔を赤くしたまま、
視線を逸らして腕を組み直した。
「……だから次はねぇって言ってんだろ」
ぼそりと呟くその声は、どこか照れくさそうで…。
確かにあのとき居酒屋でガッチマンは言っていた。
「ここは大丈夫だから」——と。
あの場では、レトルトのことで頭がいっぱいで、
そんな言葉の意味なんて深く考える余裕はなかった。
けれど今になって、ふと繋がる。
あのあと、あの場に残っていたのは——
ガッチマンと、牛沢。
グレアをまともに受けて、
あんな状態だった牛沢をケアできるのは、誰か。
考えるまでもない。
(……あぁ、そっか)
点と点がゆっくりと線になっていく。
キヨは一度だけ目を伏せてから、
もう一度二人へ視線を向けた。
照れ隠しのようにそっぽを向く牛沢と、
相変わらず余裕の笑みを浮かべるガッチマン。
朝の光景が、ふと頭をよぎる。
朝、オフィスで机に突っ伏しながら、
腰をさすっていた牛沢のあの姿。
(……あの行動どっかで見た事あると思ったんだよな)
ぼんやりと考えていた違和感が、
今になってすとんと腑に落ちる。
——今朝の自分だ。
目を覚ましたときの、あの鈍い痛み。
思い出した瞬間に顔が熱くなった、あの感覚。
全部、同じだった。
全部、納得した。
「……なるほどね」
ぽつりと呟きながら、
キヨはにやりと口角を上げた。
さっきまでの戸惑いが、
一気に面白さへと変わっていく。
(そういうことかよ)
キヨはちらりと牛沢の方を見る。
まだ少し不機嫌そうにしながらも、
どこか落ち着いている様子。
(ちゃんとケアしてもらったんだな)
そう思うと、
ガッチマンへの妙な信頼感まで湧いてくる。
そんな事を考えながらニヤニヤと口元を緩めるキヨ。
その様子がよほど気に食わなかったのか、
牛沢のこめかみがぴくりと動いた。
「……お前、その顔やめろ」
低く呟いた次の瞬間、
今にも飛びかかりそうな勢いで一歩踏み出す。
「ちょ、うっしー——」
ガッチマンが止めに入ろうとした、そのとき。
それまでぼんやりと空を見上げていたレトルトが、
ふいに動いた。
『うっしー、キヨくんに触んないで!』
はっきりとした声。
次の瞬間には、
キヨの前に立ちふさがっていた。
牛沢の手が伸びるより先に、
その進路を遮るように。
普段の柔らかい雰囲気とは違う、
一歩も引かない姿勢。
キヨは思わず目を見開く。
(……レトさん?)
牛沢も一瞬だけ動きを止めたが、
それでも勢いは完全には消えない。
その手を、横からガッチマンがそっと掴んだ。
「はいはい、そのへんで」
落ち着いた声で、やんわりと制する。
力で抑えるというより、
静かに冷ますような手つき。
牛沢は舌打ちをひとつして、
ようやく動きを止めた。
けれど視線はまだ鋭いまま。
その前に立つレトルトも、
一歩も引かずに見返している。
一瞬だけ空気が張り詰めたが、仲裁に入ったガッチマンの宥める声と一歩も引かないレトルトの毅然とした態度に 不機嫌そうだった牛沢も、 ようやくキヨの謝罪を受け入れたのか、ふっと力を抜いた。
「……まあ、もういいわ」
ぶっきらぼうにそう言いながらも、
さっきまでの刺々しさは消えている。
その一言に、キヨはほっと胸をなで下ろした。
気がつけば、四人はいつものように言葉を交わし始めていた。
青空の下、
さっきまでの緊張が嘘みたいに、
空気はゆるやかにほどけていく。
他愛もない会話に笑いが混ざり、
それぞれが自然な距離で並んでいる。
そんな中、ガッチマンがふいに声を上げた。
「みんなさ、困ったときはちゃんと頼れよ?」
そう言いながら、軽く全員の肩に腕を回す。
「協力し合おうぜ」
明るくて、まっすぐな言葉。
牛沢は「はいはい」と軽く流しつつも、
どこかまんざらでもなさそうで、
レトルトは「ええやんそれ〜」と楽しそうに笑う。
キヨも思わず笑っていた。
和やかな会話が続く中で、
ふとキヨの脳裏に、以前医者に言われた言葉がよぎった。
——強いドムが、サブの意思を無視してコマンドを使ってしまうケースも実際にあります。
だからこそ、世間では少し怖いイメージで見られがちなんです。
でもね、と医者は続けた。
本来、選ぶ側にいるのはサブなんです。
自分の主導権を誰かに預けるって、
普通に考えたら怖いことでしょう?
たとえ支配されることを望む側だったとしても、 誰にでも許せるわけじゃない。
だからこそ——
その相手を選ぶ権利は、サブにあるんです。
——だからサブは、
「この人になら自分を預けてもいい」と思えたときに、 初めてドムへ主導権を委ねるんです。
逆に言えば、ドム側は、
そのコントロールを任せてもらえるだけの信頼を築かなければならない。
それができて、ようやくパートナーになれます。
つまり——
ドムとサブの関係は、
どちらか一方が支配するものじゃない。
見え方とは裏腹に、
互いが選び、許し、委ね合って成立する、
とても対等で、相互的な関係なんです。
あの言葉が、今になって妙に腑に落ちる。
キヨはふと隣のレトルトを見た。
無防備に笑っているその横顔。
(レトさんは最初から全力で俺に大事な手綱を渡していてくれたんだよな。)
そう思った瞬間、
胸の奥がじんわりと温かくなった。
——ドムとサブ。
抗えないダイナミクスに、
時に振り回される日々。
それでも。
隣にレトルトがいるだけで、
そのすべてが少しだけ特別に変わる。
戸惑いも、不安も、衝動も。
全部ひっくるめて、愛おしいと思える。
キヨはふと、隣にいるレトルトを見た。
何気ない笑顔。
それだけで、胸が満たされる。
(ドムも…..悪くないな)
そんな風に思えた自分に、
少しだけ驚きながら。
キヨは静かに、
その日常に胸を躍らせていた。
「弱くて曖昧だった俺の声の輪郭を、優しくなぞってくれたのはあなただった。——」
終わり
この後におまけエピソードがあります(^^)
是非読んでください!
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コメント
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わぁぁぁぁぁあ✨ 初コメ失礼します! ずっと作者さんの作品を見てて、コメント送ろうとずっと思ってました! もう全ての作品良すぎて一番が選べないほど大好きですෆ.*・゚ 今回の作品も孤独の中にある優しさが感じられてとても感動しました🥲 言葉の使い方もすごく素敵で、自分もこれくらい出せるようになりたいと思いました✨ おまけのお話楽しみにしてます🫶 長文失礼しました🙇♀️