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「ごほん、では気を取り直してだけど、天馬さん」
「リュシオルの話はもういいの?」
「だ――っ!天馬さん、性格遥輝に似てきてる。絶対ダメだって。そこ、遥輝の一番真似しちゃいけない所だぞ」
「今、私の恋人を侮辱した?」
「してない」
「ほんとかなあ」
そんな風に言えば、灯華さんは「勘弁して」と、少し涙ながらに訴えてきた。もしかしたら、灯華さんは人に強く出れるタイプじゃないのかも知れない。そう思うと、可愛く思えてくるのだが、そんなパシリみたいな人間をリースが好きになる訳無いし、もしかしたら、女性限定で強く出れないタイプなのかも知れない。
まあ、灯華さんの性格は置いておいて、話していて、嫌なタイプではないなあと感じていた。
「天馬さんってそんな性格だったっけ」
「うーんどうだろう。まあ、私も変わっていっているとは思ってるよ。悪いかいいかは置いておいてだけど」
「……遥輝の影響か」
「それも、どうだろうね」
と、返せば、灯華さんは、何か考えるように黙ってしまった。
良い感じに会話が続いていたから途切れてしまうのは悲しかったけれど、このよく聞かれる「変わったね」という言葉を、最近は自分でも感じられるようになってきた。大きくかわったわけじゃないけれど、確かな変化がそこにあるような気がして、それは、多分いい意味で変わったんだと思う。強くなったっていったら、言葉が大きいけれど。
「皆から言われるから、変わったのかも知れないけど」
「……そう、思う。だって、天馬さん、自分から話しかけに行くタイプじゃないというか。ああ、悪い意味じゃなくて。どう、言えば良いか分かんないけど。まあ、そう」
なんて、灯華さんは言葉が探せないというように口を閉じてしまった。
まあ、このはなしは置いておいて、私は聞きたいことをずばりとぶつけてみる。
「灯華さん」
「何?天馬さん」
「灯華さんと、遥輝って親友だって聞いたけど、灯華さんにとって遥輝ってどんな存在だったのかなあ……って。変な意味じゃなくて、私の知らない遥輝を知っていそうだし、この世界にきてから、どんな風に彼と接してきたのか、知りたい」
私の知らないリースを知ってそれで何が、とまではあれだけど。でも、恋人のことを知りたい気持ちは確かにあるわけで。男の視線から見て、リースってどんなのだったかなあ、とは気になる。
灯華さんは、面白い事なんて何もないぞ、と前置きした後、ポツリポツリと話し始めた。
「俺と、遥輝は幼馴染みだった。まあ、家が近いとか、そういうベタな。それで、幼稚園も小学校も一緒で、大学も頑張っておんなじ所行ったんだよ。彼奴の家は、天馬さんも知っての通り、教育家庭で。父親とは別居していたみたいだけどな。俺もまあ、それに近くて。兄が、芸能事務所の人にスカウトされてから、母親がおかしくなっちまったんだよ。知ってるか分からないけどさ、相葉春夏秋冬って、今の名前はそうで」
「相葉春夏秋冬!?」
さすがの私でも聞いたことがあった。鮮明なオレンジ色の髪の毛が特徴的な俳優さんだった気がする。その人が、灯華さんの兄だなんて気付くはずもなかった。似ているかと聞かれたら、似ていないって答えちゃうだろうし。
でも、そんな人と家族だって周りが知ったら、色々せがまれそうではあるなあ、なんて、他人事のように思っていた。灯華さんは灯華さんなりの家庭環境を抱えていたんだと、その話から少し理解できた気がする。
「それで、父親ともめてさ。結局俺達は離婚することになって。母親が、兄貴のこと連れてって、俺は父親と、って感じで。それが結構前の話で、ずっとモヤモヤしてたことなんだけど」
「そう、だったんだ」
「くらいはなしばっかりになるけど、聞く?」
と、灯華さんは、何故か話をそこで区切った。
もしかしたら、離したくないのかも知れない、と思いながらも、私は、聞きたい、と灯華さんのことも知りたかった。こういう性格とか、家庭環境だからこそ、遥輝も何かしら思うところがあったんだろう。
遥輝の家庭環境については、こっちの世界にきてから分かったこともあるし。それで、似ているな、と感じて。でも、それぞれどう思っていたかは、別で。
リュシオル……蛍の所も、大概な家庭環境だったけど、皆転生者はそういう変わった家庭環境なのかな、とも思った。それが、転生のトリガーになっていたりするのだろうか。
考えすぎか、と自分の考えを否定しつつ、私は、続けて欲しいといった。灯華さんは、そうだよなあ、何て呟いて続ける。
「それで、その話は、すぐに遥輝が知ることになって。つか、バレた……話したんだったか、どうだったか。家も近いし、すぐバレるにはバレた。で、彼奴なりに気にしていてくれたんだろうな」
「そりゃ、親友のことだし、気にするんじゃない?」
「そう、だなあ。遥輝だし」
なんて、灯華さんも何故かそこは同じで、納得していた。
遥輝は淡泊に見えて、大切な人のことは、本当に、大切にするというか、気にかけるというか。それが、顔に出るかは別として。
「遥輝にバレた後は、彼奴、色々手を回してくれたみたいで。一番あれだったのは、俺の兄貴が遥輝の従兄弟、久遠夏目っていったら伝わるだろうけど、その人の恋人のこと好きになっちゃったみたいで。ストーカーまがいの事をしているって聞いた。俺も、久遠さんに滅茶苦茶睨まれたのはいい思い出かも」
「久遠夏目……」
もう、前世のことだからすっかり忘れてしまっていたが、私達のすんでいた世界には、三大財閥って国内で大きな財閥があって、それが空澄、華月、久遠なんだけど、その久遠財閥の御曹司の久遠夏目は、リースみたいな眩い黄金の髪の持ち主だった。今思えば、彼がモデルなんじゃないかと思うくらい、リースに……いや、リースが似せているのかも知れないけれど。
そんな人と、従兄弟だとリースは言うのだ。
本当に、前世のことは切り離してしまっていたからどうでもイイと思っていたけれど、そこと繋がっていたんだ、と今更ながらに情報を得た感じだった。
「で、遥輝が根回ししてくれたって言うか、相談してくれたから、俺は兄貴とのいざこざというか、色々解決して。まあ、親が再婚したとかそういうオチじゃないけどさ、それなりに、兄弟の関係はよくなったというか。だから、感謝してる。彼奴はそこまで気にしていないかも知れないけど、俺にとって兄貴は大切な家族だったから」
と、灯華さんは内に秘めた思いを話してくれた。
私からしたら、少し遠くの話に聞えるけれど、遥輝の話だ、という風に置き換えれば、近くでそんなことがあったんだ、と思うわけだし、実際に、それが高校時代、私がまだ遥輝と付合った頃ぐらいに起きたことと言うのだから、驚きだった。それでも、当初の灯華さんにとっては、大きな問題だったんだろう。それを親友の遥輝が解決したともなれば、彼が遥輝に寄せる信頼というのは大きいはずで。
(灯華さんからしたら他人の私に、今全然関係無いかこのはなしをしてくれるってことは、私のこと、信頼してくれているってことでいい……よね)
きっと、そうだと、自分を納得させながら、私は灯華さんの方を見た。普通、嫌なこととか、家庭の事とかは話したがらない。私から聞いちゃって何だけど、話してくれた灯華さんは本当に優しい人だと思う。解決したこととは言え、親の離婚とか、そう言う話しをべらべらと話したくはないだろう。
私も、家族の話、が出てきたとき少しだけ胸が痛かった。なんで家族が私に優しくしなかったのか、という理由が分かっても、未だにそれが傷とし残っているわけで。
「話してくれてありがとう。灯華さん」
「話したって、俺の過去の話だったけど。全然遥輝の話じゃなくて、あれ……いや、ごめん」
「ううん。灯華さんのこと知れて嬉しかった。遥輝が、そんな風に動いていたんだって知って、灯華さんにとって遥輝って、本当に大事な存在なんだなって改めて思った」
「……俺にとって遥輝は、うん、すげえ、大事な存在なんだ。だから、守らなきゃって思ってる。彼奴は、別にそんなこと思ってねえかも知れねえし、守られるほど弱くないっていってきそうだけどな」
「確かに」
遥輝は何となく行動したのかも知れない。灯華さんの話を聞いているとそう思うが、遥輝にとって灯華さんは、唯一信頼できる相手だったんじゃないかな、とも思う。だって、あれだけ人のこと信用しない彼が、他人のために動くってそう言うことだろうから。
遥輝が、こうやって灯華さんを私の護衛にってつけてくれた理由が何となく分かって、いや、完全に理解してにっこりしてしまった。それを見て、灯華さんは首を傾げていた。
「ここを出れたら、リースにありがとうって伝えておいて」
「いいけど……大丈夫そう?」
「何が?」
と、灯華さんは先ほどとは違って顔を暗くした。何が大丈夫なのだろうか、そう思っていると、灯華さんは気まずそうにこう口にした。
「……本当に、皇宮から出られるか。俺、ちょっと嫌な予感するんだよな」