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「え、え、縁起でもない!」

「だって、考えてみてさあ、おかしいと思うだろ……」

「おかしいって、何が」

「魔法石が使えないっていう状況。俺は、万が一の時用にって、遥輝にいつも魔法石を持たせている。それも、転移魔法を使うための。でも、それが正常に動かないって言うのはあり得ないって言うか……」




まあ、灯華さん……ルーメンさんの言いたいことが分からないでもなかった。普通なら、ちゃんと動くものをリースに渡しているからだ。そんな使えないものをリースに渡すわけ無いし、そんなヘマをルーメンさんがするわけない。だから、小細工をした、という可能性より、転移魔法を使えなくしている、という方が考えられるのだ。何かの結界が張られているとか、そういう……




(皇宮全体に?)




皇宮は元々、魔力の結界がしてあるから、それが、転移魔法を使えなくしているものなのか不明だった。でも、何かしらの魔力、結果があることは確実で、それが今回なんやかの影響を与えて使えなくしていると。そういうことだろう。

ルーメンさんは、原因を考えているようだがきっと分からずじまいだと思う。魔力の解読が得意な人がいればいいんだけど……




(――って、それがリース何じゃん)




リースは元々、魔力や魔法を見極めるのが得意だった。グランツのユニーク魔法も彼は一瞬で見抜いたわけだし、そういうのが得意だって聞いたことがある。この場にリースがいれば聞けたのだろうけど、見抜けたところで、その魔法を解除する方法が分からないんじゃ意味がない。知ったところで私達にはどうしようも出来ないのだ。




「兎に角、魔法石が使えないって言うのは、かなりまずい状況だと思うから。その、天馬さん……エトワールさん?」

「え、なんで今言い換えたの?」

「誰かに監視されているような気がしたから、つい。かといって、聖女様って言うのも違うし……」




喧嘩を売っているわけではないんだろうけど、聖女じゃないし、みたいな言い方をされるのは何だか笏だった。もう聖女じゃないですよねってそう言われているような気がしてならない。勿論、そういう意味で言っていないって言うのは分かっているんだけど。

私も、ルーメンさんって呼んでいるし、それでいいじゃないかと、自分で自分を納得させ、私は、彼の言葉に首を傾げた。


誰かに監視されているような気がする。

魔力をあたりで感じたことないし、誰かに見られているっていう感じもなかった。さすがの私でも、警戒しているから、そこら辺は気にしているし、そこまで気を抜いていない。だから、誰も周りにはいないはずなのだが。


少し緊張しすぎなんじゃないかと、私はルーメンさんを見ていたが、ルーメンさんの顔は硬いままだった。本当に誰かが私達のことを見ているのだろうか。




「ルーメンさん、誰かが近くにいるっていうこと?」

「いや、誰か……じゃなくて、生き物……のような、気がする。獣臭」

「獣臭?」




魔物? と、嫌な予感が頭をよぎる。


リースのあの言葉がフラグになってしまったんじゃないかと、私はヒヤヒヤした。そんなはずないし、そんなのいやだと。

だって、皇宮の地下道に魔物がいるってかなり危険だし、それこそ、皇宮の守りはどうなっているんだっていいたくなる。

ルーメンさんがいったとおり、スンスンと匂いを確かめてみるが、獣臭なんてしない気がした。本当に、ルーメンさんの間違いじゃないかと思っていると、ちゅう、と足下で何かが鳴いた。




「ひゃあぁ!?」

「うわあああっ!ちょ、ちょっと、エトワール様!?」




私が驚いて、飛びつけば、ルーメンさんも一緒になって驚いて、二人抱きしめあい、その場で飛び跳ねた。こんな所見たら、リースが憤死しそうだと、冗談……を、思いながら、私は足の隙間を駆け抜けていった小さなネズミを見た。何だ、ネズミか、と私は思ったが、そう言えば、臭い、というのはあっているかもしれないなあ、と暗くどんよりした地下道を見渡した。私達の横には水道が走っており、その水もお世辞には綺麗と言えない。もしかしたら、排泄物とかそう言うのも流れているんじゃないかと。

地下道だし、綺麗とはいえないんだろうけど、その下水と獣臭をかぎ分け違えたのかもと。まあ、ネズミが一匹二匹いても可笑しくはないんだけど。




「はあ、吃驚した」

「吃驚させないで下さいよ。エトワール様」

「アンタだって驚いてたじゃん!私のせいにしないで!てか、始めにビビらせたのは、ルーメンさんだと思いますけど!?」




ギャンギャンと騒げば、思い当たる節があったみたいで、ルーメンさんは何も言い返してこなかった。やっぱそっちが原因じゃん、と鼻を鳴らせば、またちゅうちゅう、とネズミが鳴く。これは何だか様子が可笑しいように感じた。

地下だし、下水が流れているし、ネズミがいても可笑しくはないんだけど、嫌な胸騒ぎがした。ルーメンさんに対して怒っちゃったけど、これはもしかしたら、ルーメンさんがあっているかも知れないと、反省する。




「ルーメンさん、まだ獣臭する?」

「え、ああ、する……と思う」

「何、それ曖昧じゃん。もっとはっきりしてよ」

「はっきりって……嗅覚いいわけじゃないし……」




と、ルーメンさんは少し疲れたように言う。じゃあ、どうして獣臭がしたのか。もしかして、第六感? なんて思いながら、ルーメンさんを見れば、彼は少しずつだが、顔が青くなっていった。まあ、こんな暗いところに長時間いれば、気も滅入るかも知れないと。


早くここを脱出しなければならない。でも、幾ら歩いても出口にたどり着ける気がしないのだ。ここが、リースは近道だといったけれど、明りも一切ないし。




(人がいないっていう意味では言いかもだけど)




地上から脱出しようとすればそれはもう大変だと思う。見つかるリスクもあるし、何より難易度が高い。皇宮も隅から隅まで知っているわけじゃないし、迷子になる事間違いなし。

色々あって、地下道を通って外に出ようという話しになったのだが。何か迷路みたいに感じてきた。そして、雲行きも怪しくなって……




「ルーメンさん、何か音、しない?」

「た、確かに、音……するかも」




足を止めれば、何かがこちらに向かって走ってくるような音が聞えた。でも、それは人間の足音ではなくてもっと別の何か。


ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅう。


ドドッドドドドドド……と、何かがこちらに向かって走ってくる。もしかして……と、嫌な予感は的中した。暗闇から足下が見えなくなるほどの小さなネズミが走っていく。足を取られその場に倒れてしまいそうなほどのスピードだ。触って振り払おうとしたが、このネズミ、病気を持っているかも知れないと、むやみに触れない。けれど、ネズミの波は押し寄せるばかり。このままじゃ、足下をすくわれて、それで……




「きゃあ、ほんと、何これ。気持ち悪い!」

「俺、ネズミだけはいや何だけど。いや、マジで、ネズミだけは無理」

「はあ!?役に立たないわね。男ならどうにかしなさいよ」

「女尊男卑!きゃあきゃあいってるくらいなら、聖女なんですし、エトワール様がどうにかして下さいよ。マジで、ネズミは無理!」




二人でギャンギャン、わあわあ、騒いでいるだけで全く役に立たないルーメンさん。いや、ルーメンさんが役に立たないとかいったらあれだから、訂正して、二人ともこの状況をどうにかする方法が分からないのだ。その間にも、ネズミたちは押し寄せてきて……




「と、兎に角振り払わなきゃ。何か、ヤバい気がする」




自分でも焦っているのがよく分かった。魔力がちっとも手に集まってこないのだ。それだけテンパっているってことだろう。

足下を鬱陶しく走って行くネズミたちは、一体何処に行くのだろう。何かから逃げている? そんなことを思っていると、ドシン、とまるで地震のように地面が揺れた。暗闇の中から、赤い瞳が見え、私達を捉えている。




「るるるる、ルーメンさん、あれ、あれ!」

「ま、魔物……それも、ネズミ、の!?」




暗闇から姿を現したのは、足下にいる小さなネズミとは違う、黒い大きなネズミだった。私達を見ると、雄叫びのようにちゅうぅうう! と鳴きだした。

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