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## 第19話:紅き落雷
砂漠の夜明けは、鋭い冷気と共にやってくる。
焚き火の跡が白い灰となり、東の地平線が薄紫色の光に染まり始めた頃、ゼロ・ドラートは機体のハッチを開け、冷たい空気を大きく吸い込んだ。
「……ふわぁ。腰が痛ぇ。あんな狭いところで寝るもんじゃねえな」
ゼロが伸びをしながら地上に飛び降りると、既にそこには身支度を整えたセレスの姿があった。彼女はマゼンタ色のパイロットスーツを完璧に着こなし、愛機ヴィヴァーチェの脚部ユニットを厳しく点検している。
「あら、ようやく起きたの? 随分とお気楽なものね。寝首をかかれないように気をつけることね」
相変わらずのトゲのある言い草。だが、その瞳には昨夜の語らいで生まれた、わずかながらの信頼の色が宿っているのをゼロは見逃さなかった。
「へっ、心配ご無用だ。……おい、ミラ。準備はいいか?」
呼びかけに応え、ウイングエックスから這い出してきたミラは、まだ眠たげな目を擦りながら、空を見上げた。しかし、その瞬間、彼女の身体が凍りついたように硬直した。
「……ゼロ……逃げて……。大きな、黒い波が……すぐそこまで……!」
「ミラ!? どうしたんだ、また感応したのか!?」
ゼロが彼女の肩を掴んだ瞬間、周囲の静寂が、鼓膜を劈くような金属音によって引き裂かれた。
**ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!**
大気そのものが震えるような重低音。
三人が同時に視線を向けた北の地平線から、砂塵の壁を突き破って「それ」は姿を現した。
それは、通常のMSの三倍はあろうかという巨体を誇る、大型級の重装甲MS――『グランド・ゴライアス』。ルカス・ギルモアが放った、ゼスト殲滅用の先行独立部隊だった。
「な……なんだ、あのデカブツは!? 化け物かよ!」
「ルカスの『処刑人』……! まさか、こんなに早く……!」
セレスがヴィヴァーチェへと飛び乗るのと、グランド・ゴライアスの肩部に装備された四門の長射程ビーム砲が火を噴くのは同時だった。
**ドガァァァァァァァン!!**
オアシスの水場が一瞬にして蒸発し、凄まじい爆風がゼロたちを襲う。
「クソッ、来るぞ! ミラ、乗れぇっ!!」
ゼロはミラを抱きかかえるようにしてコクピットへと滑り込み、再起動シーケンスを叩いた。ガドルフの修繕のおかげで、ウイングエックスは即座に咆哮を上げ、双眸に黄緑色の光を宿す。
一方、セレスのヴィヴァーチェは、既にマゼンタ色の残光を引いて加速していた。
「ゼロ、ぼさっとしないで! 止まれば一撃で消し飛ばされるわよ!」
「わかってんだよ! 注文の多い女だぜ!」
ウイングエックスは背部の飛行バインダーを微調整し、低空を滑るように機動する。
だが、敵はゴライアス一機ではなかった。砂塵の中から、無数の無人随伴機『ポーン・ジェニス』が溢れ出し、圧倒的な物量で二機のガンダムを包囲していく。
「チッ……数が多い! ゼロシステム、予測ルートを出せ!」
ゼロの脳内に、無数の光線図と予測進路が直接流し込まれる。ガドルフの調整により、情報の「ノイズ」は以前より格段に抑えられているが、それでも敵のあまりの密度に、ゼロの精神は急速に摩耗し始めた。
「ハッ、あんなデカい的なら、外しようがねえな!」
ゼロはライフルを乱射しながら肉薄するが、ゴライアスの重装甲はビームの直撃を物ともせず、逆にその巨大なマニュピレーターでウイングエックスを叩き潰そうと迫る。
「危ないわ!」
セレスのヴィヴァーチェが、超高速の旋回でゴライアスの死角に割り込み、ビーム・レイピアで関節部を貫く。しかし、敵の装甲の下にはさらに積層化された盾があり、致命傷には至らない。
「駄目……あの機体、これまでのルカス軍のMSとは設計思想が違いすぎるわ!」
「黙ってろ! 壊せねえ壁なんて、この世にはねえんだよ!!」
ゼロは叫び、ウイングエックスを限界まで加速させる。
だが、その時。ゴライアスの胸部ハッチが開き、禍々しい紅い輝きが収束を始めた。
「……まさか……あれは!?」
「逃げて、ゼロ! あれは……全部を飲み込む火……!」
ミラの警告と重なるように、広域殲滅用の大出力プラズマ砲が放たれた。
紅い落雷のような熱線が、砂漠の朝を赤黒く染め上げる。
爆煙の中、ウイングエックスとヴィヴァーチェの運命は――。
**次回予告**
紅き熱線に焼かれる大地。
絶体絶命の危機に立たされたゼロとセレスの前に、砂塵を裂いて現れた巨大な影。
それは、帰る場所を失った者たちの希望、移動要塞『ゼスト』。
ガンダムの共鳴が、新たな力を呼び覚ます。
次回、『鋼のゆりかご』