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設楽理沙
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#不倫
設楽理沙
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芙月みひろ
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第五十四話 はじめまして
駅に着いた。
彼女は改札の近くで立ち止まり、
スマートフォンを握りしめる。
『着いたよ』
送信。
すぐに既読がついた。
『俺も』
その瞬間、心臓が少しだけ速くなった。
どこにいるんだろう。
周りを見渡す。
休日の駅は、人でいっぱいだった。
見覚えのない人たちが行き交っている。
その中に、彼がいる。
そう思うだけで、妙に落ち着かない。
『どこ?』
『改札出て右側』
彼女は顔を上げた。
右側を見る。
人の間から、一人の男の子がこちらを見ていた。
目が合う。
彼も気づいたらしい。
少しだけ戸惑ったように笑った。
彼女はゆっくり近づいた。
「……こんにちは」
「こんにちは」
画面越しに何度も聞いた声。
でも、実際に聞くと少し違って感じる。
「なんか……変な感じ」
彼女が笑う。
「分かる」
「本当にいるんだね」
「俺も同じこと思った」
二人とも少し笑った。
緊張していたはずなのに、
思ったより早く空気が柔らかくなった。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
駅を出る。
まず向かうのは、写真に写っていた交差点。
歩きながら、二人はいつものように話した。
学校のこと。
最近あったこと。
ネットで話していた内容。
直接会っても、
会話のテンポは不思議なくらい変わらなかった。
「なんか安心した」
彼女が言った。
「何が?」
「会ったら話せなくなるかと思ってた」
「俺も」
二人は笑った。
しばらく歩くと、
写真に写っていた交差点が見えてきた。
彼女が写真を取り出す。
「ここだ」
「うん」
写真と今の景色を見比べる。
建物は少し変わっている。
それでも、道の形は同じだった。
彼は写真を見つめた。
「……やっぱり変な感じする」
「思い出しそう?」
「少しだけ」
彼は目を閉じた。
でも、何も浮かばなかった。
無理に思い出そうとするのをやめる。
「今日はゆっくりでいいよ」
彼女が言った。
「ありがとう」
二人はまた歩き始めた。
写真に残っていた場所を、一つずつ確認していく。
店。
道。
ベンチ。
どこか懐かしい。
でも、まだ過去の記憶には届かない。
そして、ベンチの前に来たとき。
彼女がふと足を止めた。
「ここ……」
「どうした?」
彼女は答えなかった。
ただ、ベンチを見つめている。
何かを思い出したわけではない。
それでも、胸の奥に小さな違和感があった。
彼も同じだった。
「……ここ、来たことある気がする」
二人は顔を見合わせた。
それ以上は何も言わなかった。
ただ、その場所に少しだけ立っていた。
過去の二人がここにいたのか。
それはまだ分からない。
けれど――
今日初めて会った二人が、
同じ場所で同じ違和感を感じている。
それだけは、確かなことだった。
コメント
1件
第54話読みました…!「はじめまして」ってタイトルなのに、ベンチの前で二人が同時に「来たことある気がする」って感じるところ、すごく好きです。ネットで何度も話してた声が、実際に聞くと少し違って感じるって描写もリアルで。初めて会うのに、会話のテンポが変わらないっていう安心感と、まだ見えない過去の縁が重なって、すごく切なくて温かい気持ちになりました。続きが気になります🌙