網の上で肉が焼ける音と、ビールの泡の弾ける音。翔太は終始「うまっ」「最高!」を繰り返していた。
「さっくんと深澤、連絡先交換しないんすか?」
唐突に翔太がそう言った瞬間、俺は箸を止めた。
佐久間は片方だけ口角を上げて返す。
「深澤くん? まだお試し期間だから、ね。翔太、仲介よろしくね」
「はーい!了解っす!」
翔太は何の疑いもなく頷いて、ビールをあおる。
俺も何か言おうとしたけど、言葉が喉にひっかかって咳き込みそうになる。
今の俺はスタッフでもない。
ふっか、とも呼ばれなかった。
当たり前のように距離を置かれて、笑ってる顔の奥で、どこまでが本気なのか、何を考えているのか俺には分からなかった。
「翔太、明日から休みだろ?」
「はい!妹が結婚するらしくて、実家に顔出して来ます。ついでにばあちゃん連れて旅行してきます。」
「いいね!親孝行しときなぁ!じゃあ1週間くらい休みなよ。深澤くんもいるし、ね?」
「あざっす!」
「深澤くん、そういう訳で明日の午前10時スタジオ来てね?」
佐久間は気前よく翔太に現金を渡してから俺を見た。
はしゃいでる翔太の声と肉を焼くパチパチという音が遠くに感じる。
これだ、この感じ。
俺は無意識に頷いていた。
翌日スタジオに着くと、すでに佐久間はいて
「おはよう、深澤くん」
と、気のない声が飛んできた。
昨日の今日で呼ばれたことが、妙に緊張を誘う。
「おはようございます……」
俺はつい小さく声を震わせた。
佐久間はPCから顔を上げることもなく、深澤に指示を出す。
「そっちの机の上にメモとカードあるから、買い出ししてきて。」
「あ、はい」
無駄のない指示
有無を言わさない圧
その仕草ひとつひとつが、昨日の記憶と重なって、胸の奥でざわめく。
静かなスタジオの空気に、ふと自分の呼吸だけが大きく響いた。
近所のホームセンターで買い物を終え、スタジオに戻るとシャワーを浴びたさっくんが髪を拭きながら出迎える。
色白の肌にピンクの髪、身につけてるものはパンツだけ。
彫刻のような腹筋がタオルの影から見えていた。
「おかえり。次こっちね」
促されるまま寝室奥のシャワールームに連れてかれる。
「準備、しておいで」
佐久間はそれだけ言うとシャワールームから出ていった。
ぶわっと顔に熱が集まるのを感じた。
これは、つまり、そういうことだ。
「座って」
待っていた佐久間に誘われるまま、ベッドに腰を下ろす。
「おいで、ふっか」
そう甘く囁かれると俺の胸は少しだけ緩む。
互いに距離を確かめるように、身体を寄せる。
佐久間の左手が俺の右手を捕まえ、反対の指先が背中をなぞった。
「ん……」
思わず体が反応する。
温かく包み込む手のひらに、素直に甘くなってしまう自分がいた。
佐久間は動きを急がさず、じっくりと反応を確かめるように触れてくる。
「怖がらないで。力、抜きな」
甘い囁きに自然に息が乱れる。
演技しようと思う間もなく、俺はただ、甘く絡み合う時間に溺れていた。
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