テラーノベル
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八月が終わり、蝉の声が遠のいた頃。遥は新学期を迎えていた。
湊が消えてから、窓辺はただの窓辺になったが、不思議と孤独ではなかった。
授業帰り、ふと川沿いを歩くと、あの夜の風の匂いがした。
湊と見た花火、彼の笑顔、朝焼けの中で消えた姿。
すべてが胸の奥で静かに息づいている。
「生きてくれてありがとう」
あの言葉が、遥の背中を押していた。
以前よりも人に優しくなった。
景色をよく見るようになった。
当たり前に思っていた日々を、大切に感じるようになった。
幽霊との短い夏は、遥の世界を変えてしまったのだ。
その日、川面に映る夕暮れの中、遥は小さく笑った。
「湊、ちゃんと生きてるよ」
答えは返らない。
でも、風が頬を撫でた気がした。
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