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(違う、見てたんじゃなくて多分〝眺めてた〟)
誰よりも先に真衣香は知っていなければいけなかったのにと。
自分自身。
何も不満はないよと言わんばかりに笑顔でいる、その時の心が笑顔だったことは?
(なかったじゃん、少なくとも会社では)
現状への葛藤や不満、そして不安を誤魔化すために笑顔を貼り付けてた。
それを、どうして当たり前のように自分だけだなんて悲劇ぶったことを思っていたのか。
真衣香は顔が熱くなるような恥、それと同時に胸の奥に重苦しい罪悪感を覚えた。
「凄いなんて、失礼なこと言っちゃった。ごめんなさい」
「……え。え? なんで謝んの。お前が」
ボーッと定まっていなかった視線が、パチリと真衣香を捉えたことに、ホッとして続ける。
「……うん、自分がされて嬉しくなかったこと坪井くんにしちゃったと思って。 今、一緒にいる坪井くんを見て話さなきゃダメなのにね」
頼りなく笑顔を作った真衣香を坪井はポカンと見つめている。
空気を掴めないと言わんばかりの、気が抜けたような表情。 珍しくて、不思議で、もっともっと見たいような気持ちになった。
「え、見て……、話すって、何を?」
「坪井くんを、だよ」
「俺?」と、聞き返す声は小さくて、聞こうとしなければ聞こえないような、そんな声。
いつもと違う雰囲気を、ただ見ていたいと嬉しく思っているわけではない。
実は、少しだけ手に汗をかいている。
こんな会話の流れを、嫌だとか重いとか面倒だとか。 そんなふうに思われるのではないか。
仕事終わりのデートに相応しい会話の流れではないんじゃないか。
頭の中に、いろんな可能性が浮かんで、浮かんで。
怯む。
(でも、私は嬉しかった)
『言えよな〜、せっかく2人きりの同期なのにさ』
坪井からの、その言葉が真衣香は嬉しかった。
付き合い始めたとか、そういうものを抜きにしても。
同期だと言って、笑ってくれた気持ちがどうしようもなく嬉しかった。
見ていてくれた人がいて、嬉しかった。
声や形には、することがどうしても難しい心の中のモヤモヤを聞き出して、噛み砕いて。
そして、坪井の中にある声を聞かせてくれたことが勇気になった。 自信にもなった。
だから、真衣香も声にしたかった。
もしかしたら、その考えは自惚れかもしれないのだけれど。
「……営業部のホープだとか、将来有望だとか、坪井は仕事ができるからとか私も聞くよ」
「うわ、マジか、総務にまで? もうそれ絶対アレ、持ち上げて面倒な事やらせとけってやつだから」
はぁー。と、長く深いため息をついて坪井がダルそうに言った。
(そうだよね。 さすがだとか凄いとかじゃなくて、わかってほしいよね)
真衣香の心にもある悶々としたもの。
形は違えど、坪井にだってあるんだろう。