テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,402
82
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
黒木係長が建の人事異動を「自分が支店長に推薦した」と認めた瞬間、寿の情報網に引っかかった噂は、紛れもない事実になった。
ベッドに転がって天井を見つめていると、LINEの通知音が鳴った。
「建!?」
慌てて起き上がり、画面を開いた瞬間――白い丸に赤い文字で、バーーーーンと派手に表示されていたのは、寿の名前だった。
(寿か……なんだかなぁ、もう)
どうせ昨夜の合コンの愚痴だろうと思いながらメッセージを開くと、そこに並んでいた二文字に、指先が凍りついた。
《浮気》
寿の情報網によれば、富山支店では奈良建と佐川さなという年上の女性社員が付き合っているのではないか、という噂が広がっているらしい。
社内恋愛など珍しくないが、建が金沢支店の恋人を待受画面に堂々と設定していたせいで、「浮気」「二股交際」とまで囁かれているという。
今はもう、その待受画面は別の画像に変わっているとも書かれていた。
既読にしたからには返さなければならない。
私は震える指で「情報ありがとう。おやすみ」と短く打ち、おやすみのスタンプを一つ送った。
既読がつき、すぐに「明日また話そう」の返信とおやすみのスタンプが戻ってきた。
画面ではナイトキャップをかぶった枕を抱えたオタマジャクシが、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
思わず、くすっと吹き出してしまった。
「そうか……やっぱり、か」
そう呟いた途端、頰を伝う温かいものが、耳たぶで溢れた。
富山に行くのが億劫だとか、自分の気持ちが分からないとか、嘯いていたのは――
結局、自分が傷つかないための予防線だったのかもしれない。
「連休から返事が来なかったのは……その人と浮気してたから、か」
ベッドに横になると、涙が止まらなかった。
枕がじわりと湿っていく。
「あ〜あ……明日、寿とケンタッキーでも行こうかな」
でも、指は勝手に動いていた。
私はベッドの上で身を起こし、JRお出かけネットの画面を開いた。
北陸新幹線の往復切符を検索し、クレジットカードの番号を打ち込む。
富山に行こう。
有給を取って、建に内緒で。
瑠璃色の指輪を左手の薬指でそっと撫でながら、私は静かに決意した。