テラーノベル
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最近自分が芥川推しであることを忘れそうになる。
夜の静寂は、もはや太宰にとって安らぎの場ではなかった。 意識が沈むたびに、あの銀色の光沢が脳裏をよぎる。
――悪夢を見る。 中也の姿をした巨大な影が、動けない自分をじっと見下ろしている。その手にはあの銀の首輪が握られ、中也が笑うたびに、首の皮が一枚ずつ剥がされるような圧迫感に襲われる。 「どこへ行くんだ、太宰」 「お前は一生、俺の腕の中で腐ってろ」 逃げようとしても足が動かない。叫ぼうとしても、幼い喉はひらがなの甘い悲鳴しか紡げない。
「……っ、……ぁ、……やだ、」
弾かれたように目を開けた。 視界に入ったのは、見慣れた中也の寝室の天井。けれど、胸を締め付ける恐怖は消えない。それどころか、現実は夢よりも残酷に自分を縛り付けていた。
「……太宰? おい、どうした」
隣で眠っていた中也が、太宰の異変に気づいて即座に身を起こした。 その逞しい腕が、迷いなく太宰の細い体を、背後から包み込むように抱き寄せる。
「……あ、……ぁ、……っ、」
太宰の呼吸が、急激に浅くなった。 背中に感じる中也の体温。首筋にかかる吐息。それが今は、自分を絞め殺そうとする真綿のようにしか感じられない。
(こわい。はなして。中也、こわいよ――)
心の中で叫んでいる言葉は、大人としての拒絶だ。けれど、中也の執着を知ってしまった今の太宰には、それを口にする勇気はなかった。もし今、大人の口調で「離せ」と拒絶すれば、あの引き出しの首輪が現実のものになる。
「……っ、ひゅ、……あ、……」
肺に空気が入ってこない。過呼吸気味に肩を揺らす太宰を、中也はさらに強く、逃げ場を奪うように抱きしめた。
「落ち着け、太宰。夢を見たのか? ……大丈夫だ、俺がここに居る」
中也の手が、太宰の胸元に置かれる。トクトクと暴れる心臓を確かめるようなその手つきに、太宰は絶望した。中也は、自分が怯えている原因が「自分自身」である可能性など微塵も疑っていない。あるいは――怯えていることさえ悦びに感じているのではないか。
「……ちゅう、や……。……あ、……っ、」
「よしよし。いい子だ。……ずっとこうしててやるからな」
中也は太宰の耳朶を甘く噛み、そのまま首筋に深く顔を埋めた。 太宰は酸欠で霞む視界の中で、必死に「子供」のフリを維持しようと、中也の腕を弱々しく掴み返した。
(たすけて。……いや、助けなんて来ない。私は、この男の腕の中で……壊れるまで飼われるんだ)
涙が枕を濡らす。中也はその涙を愛おしそうに指で拭い、逃がさないという意志を込めて、太宰の細い体をみしりと軋むほど強く、抱き込み直した。
コメント
2件

ぅぁぁあぁぁん、太宰さん、君はずぅっと壊れるまで飼われる運命なんだ(((((((