夕方。
食材が少なくなってきたから、
俺とるかは一緒にスーパーに行った。
「今日、何食う?」
「別に。……冷凍パスタでいい」
「手抜きすぎだろ」
そんな、どうでもいい会話をしながら、
カゴに適当に物を放り込んでいく。
特に楽しくもないけど、
悪くもない。
そんな時間だった。
⸻
店を出たところで、
ふいに、るかがぴたっと立ち止まった。
「……?」
見ると、
向こうから、二人組の男女が歩いてきてた。
若い。たぶん二十歳そこそこ。
そのうちの女の子が、るかを見つけて、
ぱっと顔を明るくした。
「あれっ、るかちゃんじゃん!」
るかは一瞬だけ驚いた顔をしたあと、
めんどくさそうに口角を上げた。
「……あー、ひさ」
「めっちゃ久しぶり!元気してた?!」
ハイテンションな声。
俺は、横でなんとなく立ち尽くしてた。
「まあ、うん。……そっちは?」
「ぼちぼちー!つか、だれ?」
その子が、俺のほうをちらっと見た。
るかは、一瞬だけ黙ったあと、
無表情で言った。
「……同居人」
「へえー?そうなんだー!」
その場はそれで流れたけど、
なんとなく、空気はぎこちなかった。
少しだけ、
るかの顔がこわばっているのがわかった。
⸻
知り合いたちは、
「またねー!」って明るく手を振って、すぐにどこかへ行った。
るかはその間、
最後まで笑わなかった。
⸻
帰り道。
無言で歩きながら、
俺はなんとなく聞いてみた。
「あれ、友達?」
「元バイト先の。……うるさい女」
「……そっか」
それ以上、聞かなかった。
るかも、それ以上、何も言わなかった。
ただ、
普段よりほんの少しだけ、るかが歩くペースを早めた気がした。
俺はそれに合わせて、
黙って歩いた。
いつもの距離を、少しだけ詰めながら。
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