「あら可愛い」
「あー、それ、京都の『|緑寿庵清水《りょくじゅあんしみず》』だろ」
「知ってるんですか?」
「日本で唯一の金平糖専門店だからな。京都のお土産と言えば……で、知ってる人には選ばれる」
「へぇ。お高級そう。心して大切に食べようっと」
金平糖をしまいつつ言うと、尊さんがジトリとした目で聞いてくる。
「金平糖の意味は?」
「ん? ……飴ちゃんと同じ位置づけじゃないでしょうか。……いや、でも出張のお土産って言ってましたし、センスのいい人だからあまり意味はないですって」
キャンディと同じ『好き』の意味を思いだし、私は誤魔化すために胸の前でパタパタと手を振る。
そう言ったんだけれど、尊さんは腕組みして無言になり、考え込んでしまった。
「んも~、気にしいだなぁ……」
私は尊さんの脇腹を指でクリクリとつついていじる。
するとギュッと手を握られ、ジロリと睨まれた。
――けど、彼は「あ」という顔をして尋ねてくる。
「神は?」
「んー、…………もらいました」
私は少し気まずいながらも答えて、お返しをもらった時の事を思い出す。
バレンタイン当日、私は仕事が終わったあとに神くんをビルの展望台に呼び出し、痴漢から助けてくれたお礼込みでチョコを渡した。
その時少し食い下がられたけど、『ごめんなさい』を言った。
でもさすが尊さんが目を掛けている神くんだけあって、『またいつも通りお願いします』と言ってくれて今に至る。
彼の気持ちを思うと、余計な事をしないほうが良かったのかもしれない。
でも痴漢から助けてもらったお礼を何もせずに済ますのは嫌だ。
けど、これは私のエゴかもしれない。
「時間を掛けて忘れていくしかないな」と思っていたらホワイトデーになり、神くんから一か月前と同じ場所に呼び出され、お返しのお菓子をもらった次第だ。
「……でも『これで最後です』って言ってました。私は助けてもらったお礼も込みで、ちょうど二月だったからチョコをあげたんです。だからお返しに……って事らしくて。来年からはお互い何もなしです」
「そうか……」
尊さんは溜め息をつき、少しの間、窓の外を見て何か考えていた。
「……まぁ、それでいいんじゃないか? 気まずさはあるだろうけどお互い大人だし、気持ちに折り合いをつけて次にいくもんだ」
「はい」
私は脚を組み、「ふー……」と溜め息をつく。
と、尊さんが私の手を握り、その甲にチュッとキスをしてきた。
「週末は俺とのデートだから、他の男の事考えるなよ?」
「……は、はい」
私は近づけられた顔の良さにポッと赤面しつつ、つい運転手さんの反応を気にしてバックミラーを見てしまう。
けれど運転手さんはこういうのには慣れているのか、まっすぐ前を見たままだった。
**
土曜日のデートの日、私はキャミソールの上にグレージュのシースルーニットを着て、春らしいラベンダーカラーのマーメイドスカートを穿いた。
髪は一本に纏めてくるりんぱをし、毛先を軽く巻くと、トレンチコートを羽織る。
「お待たせです」
リビングに行くと、尊さんはすでに支度を終えて待っていた。
「おう」
彼は白ニットに黒いジャケット、黒いテーパードパンツというモノトーンコーデだ。
(……この男、何を着てもさまになる……)
私はスッ……とスマホを出し、何も言わずにパシャッと彼を撮る。
「チェキ代とるぞ」
尊さんはクシャッと笑い、自分もスマホを出して私を撮影する。
「尊さんにファンサしてもらえるなら、課金しますよ」
「無課金でファンサするよ」
ソファから立った尊さんは、改めて上から下まで私を見て頷いた。
「今日も推しが可愛くてつらい」
「あははっ!」
尊さんがアイドルオタクみたいな事を言うからおかしくて、私はつい笑ってしまう。
コメント
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惚気合う ラブラブな二人....♥️♥️♥️( *´艸`)