_お見通しの水晶玉__🥀𓈒 𓏸
ダレイがBARに入ると、カクテルがカウンターに置かれて居た
「いらっしゃいませ,お客様」
カウンターにいる男がいつもより楽しそうに気分でグラスを拭いている
首元はまだ傷が治りきってないのか、包帯が巻かれている
ダレイがまるで来ることが決まっていたかのように置かれているカクテルに思わず目を見開く
「……は?」
「ご心配せずとも、今できたてですよ」
「カクテルが置かれてることに驚いてんだ…」
男はグラスを拭いていた手を止める
ピタッと動きを止めた男にかなり警戒した様子でダレイが見つめる
「……実は」
真剣そうにダレイを見つめる
いつものへらへらと笑ってる顔が真顔だ
「実は…なんだ?」
「実は……占い師始めたんです」
「水晶玉だと?」
「はい.どうやら効果は本物みたいですね?」
見舞いの為にダレイが持ってきた紙袋から包帯が床に飛び散っているのを片付けながら、男は言った
「まさか盗んだのか…?」
「ダレイさん。私は刑事です、証拠は私たちが持っていなければなりません」
「俺を巻き込むなこんなこと知らん」
紫色の綺麗な水晶玉は,なんの変わりもなくカウンターに置かれている
男の方に視線を戻すと、俺が投げた包帯を黙々と紙袋に戻している
首元の包帯は、赤く滲んでいた
「……首の傷は大丈夫なのか?」
ダレイは男を見ながら聞く
入口付近で包帯紙袋に戻していた男の動きがピタリと止まる
表情は見えないが、間がある
「えぇ…お客様のお陰です」
止まっていた男が動き始めた
(……なんだ?今のは)
すると、水晶玉の中がグルグルと円を描き始めた
ダレイが水晶玉に視線を向け驚く
「動いてる…!?」
「…どうしました?」
BARの男がダレイを見る、ダレイの視線先の水晶玉に目を向けた
水晶玉の動きが止まり、ふわっと何かが映る
そこには先程、ダレイと男が会話していたであろう場面が映し出された
声は聞こえないが、ダレイが大丈夫か、聞いたであろう所でBARの男の動きが止まる
ダレイの言葉に、男の顔は驚き、そして照れてるように見えた
(……照れてる…だと!?)
何を考えてるか分からないこの男が……何の変哲もない言葉に照れる…だと?
チラッと横を見るとBARの男はいつの間にか隣に立っており、じっと水晶玉を見つめている
そしてダレイの方を見る
「……何を占ったんですか?」
「え……、いや…」
血の気の引いたような顔でまた不気味に笑うのが余計おぞましい
「お客様……刑事さんなのに…プライバシーの侵害ですよ」
「…水晶玉の力信じて無かったんだ…まさか本当に出てくるとは……すまない」
隣からフッ……と男が消え、床に置いてある紙袋を持ち上げカウンターに入る
(というか…意識して占った覚えはないが…)
ダレイが目を逸らすと、その視線がカクテルに向いた
「……そういえばアンタも…俺がこの店に来るか占った……だっけか?」
「……」
「自分の事は棚に上げるのか?」
「お客様,カクテルのお供は如何です?」
笑顔で小さなお皿を片手に机の上に置いた
ナッツが置かれている
(はぐらかしたな…)
ふと視線を水晶玉に戻す
まだあの映像のままだ
(コイツ…こんな顔も出来るのか…)
「いつまで見てるんですか?見せ物ではありませんよ」
男が水晶玉を細い指でなぞると,映像が消えた
再び薄暗いモヤが浮かぶ
「少し、忘れ物が…すぐ戻ります」
男はカウンターから出てくると、別の扉から何処かへ行ってしまった
(……アイツは……何者なんだ…?)
前に聞いたが、男は答えてくれなかった
答えないというのであれば…調べる方法はいくつかあるが、1番楽な方法がある
「ふん、たまにはいいだろう」
あいつに遊ばれるのはうんざりだ。たまには俺からやってやろう
(そうだな……初めに……)
いざやろうとすると、なんだか悪いことをしてる気分になる…気が進まない
「……うーん…」
そういえばあの男……どうやって事件を解決させたんだ…?占いの婆さんは関係無かったのに…
「……どうやってあの男は事件を解決させた?」
水晶玉がまたもグルグルと回り始める
そして、小瓶が浮かび上がった
「……小瓶?」
小瓶を懐から出した男は黒い何かに向かって中身を投げつける
「ここは……そしてこいつは?…なんだ?」
投げつけられたモヤは人間へと変化し、あのお婆さんへと変化を変える
そしてパッとその場から消えると紙切れとなりどこかへと動き始め、男はそれを追いかけた
「……」
映像を見ても何も分からなかった。
ただ事件を解決したのは、あの小瓶の中身のおかげだろう
(あの男…担当するのは死んだ人間のみ…とか言ってたな)
……という事はあの事件現場にいたのはお婆さんの念……?あの紙切れの力は犯人の動きを真似たのか…?
今更、非現実的なことを疑ったところだ…そう考える事にした
そうこう考えていると、映像は終わり元の水晶玉に戻っていた
「不思議な水晶玉だな……」
紙切れの動きは早かった
俺は追いかけるのが精一杯だった為、人混みに入った瞬間に見失ってしまったのだ
「……!どこだ……!」
あれを失えば、大切な何か、手がかりが失う気そんながした。
ダレイが、冷静に考えた時、電話で言われた男の言葉を思い出した
そんなの……関係ある訳が…
いや…ある、一つだけ_
ここらに占い屋があるはずだ
未来を知るのは、あそこだけ,確かここから近いはずだ
しかし男は何故あんな事を…?
(いや……今はもう考えるのを辞めておこう)
あの男について考えるとキリが無くなりそうだ
しばらくするとダレイはまたも水晶玉に向かって言葉を告げる
「……あの男は刑事か?」
水晶玉は同じ動きをし、そして__
あの男が刑事の資格を取り、ほっとして喜んでる姿が浮かび上がった
(本当らしいな…)
「BARで働くあいつの姿は?」
何気なく質問したものだった
男が画面に現れる
グラスを拭きながら、お客である人に笑顔で話しかける
そして……お客が消えていく
この瞬間.この男の仕事は解決されたのであろう。
1人になった男は居なくなったお客のカウンターを見つめる
顔は笑ってるはずなのに、奥底ではとてつもなく悲しそうに見えたのだ
(やっぱり分からない)
画面を手でなぞり,映像を消す。
あの顔が忘れられない
怪我を負い、非常事態なあの時に…
子供のように無邪気に笑った男の顔が真底嬉しそうで…普段のあの顔とは全く違う
なんて何考えてんだか…俺の仕事にはなんも関係ない男だ
あちらが刑事なら、もうここを調べる必要も無い
怪我が治れば、もう用は無いのだ
ただ…
一つだけ、ずっと気にもしてなかったことが、突然思い出した。
それは知っておかなければならない
「あいつの名前は?」
水晶玉がゆっくり動く…
が
横から出てきた指が画面をなぞり、中断させる
「うわ!?」
ガタッと椅子が揺れ倒れそうになる
「悪い……!調べるつもりは…」
男は見下ろす……無言で
「すまなかっ__」
「マイクです」
……?
男に視線を向ける
手元にコートが掛かっている
どこかへ出かけるそうだ
「マイク……?」
男__マイクはニッコリ微笑む
「すみません。これから仕事があります…BARはこの辺でお開きです」
予定よりも30分早く…今日のBARは営業が止まった
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