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リガルド帝国――西部モンドレイク
臨時会議施設、通称「円卓」。
そこには、五つの国家の代表者たちが一堂に会していた。
鉄と歯車の国・ギデオン代表、ジャガー。チンピラのような風貌の少年は、いつも通りだらしなく長椅子にもたれ、気怠げに脚を組んでいる。
魔法騎士国トリスタンの王女、ソニアは、金髪のロングヘアを揺らしながら、優雅な仕草で椅子に腰かけている。
その隣では、妹のロゼリアが愛想笑いを浮かべながら、内心では「早く帰りたい」と思っていた。
若き王女、アクアレムのセレーネは、少し前のようにオドオドとした仕草ではなく、落ち着き払った様子を見せている。
新興国ガレス共和国の代表、グローリーは爽やかな笑みをうかべたまま座り、傍らには騎士役としてピンク髪の少女プリシラが控えていた。
そんな各国の代表たちの視線を一身に浴びて、円卓の最奥に座っているのはリガルド帝国第2皇子、イヤミル・グランツだった。
黒銀の甲冑に、真紅のマント、腰には、装飾過多なロングソード。外見だけ見れば帝王そのもの。
しかしその顔には、まだ若さ特有の未熟さがにじんでいた。
無駄に豪奢なそれは、本人の見栄をはりたがる性格をよく表している。
「それでは第16回黒竜対策会議を開始する。議会進行は、リガルド帝国代表、イヤミル・グランツが務める」
「「「はぁ~~」」」
ギデオン代表ジャガー、トリスタン代表ソニア、ついでにロゼリアまで、深いため息をつく。
それを見たイヤミルは、眉をピクリと跳ねさせた。
「……不服そうだな、貴様ら」
ジャガーは、椅子にだらしなく座ったまま、イヤミルを心底うんざりした目で見返した。
「当たり前だろ。何回やってんだよ、この会議!」
「16回だ」
「多いんだよ! 普通、対策会議を二桁もやんねぇだろうが! いつまで対策してんだ! しかも一回の会議が毎度6時間もやりやがって。6時間も進まない会議をもう15回もやってんだぞ!?」
「時間だけかけて、会議した気になっている典型だな」
ジャガーは頭をかきむしり、ソニアも疲れの色を見せる。
「ふん。貴様らが非協力的だからだ」
イヤミルはふてぶてしく腕を組み、各国の代表を非難するような目で見る。
イヤミルの他責思考にイラっとしたジャガーが、勢いよく身を乗り出す。
「いけしゃあしゃあと! 口を開けば『お前らが囮になって黒竜の攻撃を受けろ』だの、『防衛費はリガルド以外が出せ』だの、ふざけたことばっか抜かしてやがって」
「それが弱小国の務めだろう? 何が不満なのだ。貴様らは、リガルドに協力することくらいしかできない」
「こんの野郎、言わせておけば」
「ふん。そんな口を叩いていられるのも今のうちだな。今日こそ、黒竜対策において完璧な策を用意した」
ジャガーは大きく肩をすくめ、うんざりと手をひらひらさせた。
「どうせまたロクでもねぇ策だろうが、聞いてやるよ」
イヤミルは大きく鼻から息を吸い込み、誇らしげな笑みを浮かべた。
「我がリガルド帝国は、黒竜討伐のため【大召喚】を行い、闘神オメガを呼び出す」
その一言で、場の空気が一変する。
「大召喚だと?」
「その通り。帝国に封じられていた秘術の一つだ。オメガは全長三十メートルを超える巨体に、天を射抜くサジタリウスの弓を備えた人型の闘神だ。黒竜を撃ち落とすに足る存在だろう」
ソニアが険しい顔つきで立ち上がる。
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいない。闘神は魔竜戦争時代、激化する魔竜たちの戦いから人々を守った存在。オメガを呼び出せば、人類の大きな力になり、様々な問題が解決する」
「闘神は、そんな便利な存在ではない!」
魔術に詳しいソニアは叫ぶ。
「闘神とは、古代賢人が生み出した人工の神! 神の召喚には膨大なエーテルを消費する……周囲一帯のエーテルを吸い尽くし、土地を荒野に変える」
「それがどうした? そんなことは元より承知している。黒竜に国を焼かれるより、荒野になったほうがまだマシだろう」
「違う!」
ソニアは、考えの甘いイヤミルに憤る。
「焼け野原ならいずれ再生する。だがエーテルの枯渇による風化現象は、数百年、あるいは数千年に及ぶ! そんな犠牲を払うほど、黒竜は絶望的な存在ではない! 大体そんな大出量のエーテルをどうやって集めるつもりだ!?」
「現在帝国都心で使われている、発電用エーテル魔力炉2基をここに運び、地中のエーテルを吸い上げる」
あまりの無茶な作戦に、ソニア達は空いた口が塞がらない。
「この星を死の星にしたいのか! エーテルが枯渇すれば、その地域では一切魔法が使えなくなるんだ。限りあるエネルギーを食い尽くす蛮行、トリスタンは断じて許せない!」
「黙れオメガ召喚は、すでに決定事項だ。これによって、リガルドの威光は世界に轟く」
セレーネが静かに口を開いた。
「……あなたの目的は、黒竜討伐ではなく、闘神を使った他国への威圧でしょう」
「闘神の政治利用とか終わってんぞお前……」
ジャガーは軽蔑した表情を向ける。
各国代表の冷ややかな反応を見て、イヤミルは薄く笑った。
「先に言っておこう。リガルドの傘下に入り忠誠を誓うのなら今のうちだ。黒竜を倒した後、オメガがどこに矛先を向けるか。それは俺の気分次第だ」
「ふざけんな!」
ジャガーが椅子を蹴る勢いで立ち上がる。
「そもそも、闘神を本当に制御できると思ってんのか!? 召喚されたら、言うことなんか聞かずに暴れる可能性だってあるんだぞ!」
「心配無用だ。リガルドに伝わる文献によれば、オメガは”王たる証がある者を体内に取り込み”、意志に従って動かす仕組みだ。つまり、俺自身がオメガを操ることができる」
円卓の空気が凍りつく。
各国代表たちは悟った。イヤミルが闘神を意のままに操る存在になれば、より一層世界情勢はリガルドに傾くと。
「テメェ、こんなイカれた話、メッサー王に許可取ってんだろうな?」
イヤミルの暴走に近い話に、ジャガーがにらみつける。
「黒竜対策は、父上から俺に一任されている。俺の言葉はメッサー王の言葉だと思え弱小が」
その日の会議は終了。
各国の代表は、議場を出ながら側近たちと今後を話し合っていた。
ギデオン代表ジャガーは、険しい表情で側近の機械鎧を纏った騎士に声を掛ける。
「ライノス、ギデオンの機械工に緊急で伝令だ。リガルドが大召喚を持ち出してきた。こっちも機械城アレクサンダーを出すしかねぇ」
『ギデオンがアレクサンダーを持ち出せば、確実に戦争になるぞ。あれは魔竜戦争の技術をいくつも採用している』
「向こうが仕掛けてきてるんだからしょうがねぇだろうが! 黙ってリガルドの犬になってろってことか!?」
『そうではない、お前は荒野のジャガーだ。犬になるな』
「その通り、オレはジャガーだ! 犬じゃねぇ!」
『やはりリガルドは敵に回るか』
「あーもう、あいつは何やってんだよ!? イヤミルに外交任せてたら、世界戦争が起きるぞ!」
トリスタンでも似たようなことが起きていた。
刺々しい雰囲気をまといながら、妹のロゼリアと共に議場を出るソニア。
「ロゼリア、こちらも大召喚の準備に入る」
「マジっすか? お姉様、意見するつもりじゃないんですけど、そんなことしたらトリスタンのエーテルが……」
「私とてわかっている! しかし、ここでイヤミルに主導権をとられたら、一生トリスタンはリガルドに跪くことになる」
「わかりました、女王に許可を取ります」
「くっ、あー↑もー!! こんなことになったのは全てラウル王子が出てこないせいだぞ!」
ソニアは普段からは考えられない叫びを、天に向かって上げていた。
ありんす
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コメント
1件
第87話読み終えたわ!イヤミルの「大召喚で闘神オメガ呼ぶぞ!ついでに他国威圧しちゃう☆」って発想が狂ってて笑った。ソニアの「ふざけるな!」連発とかジャガーの「6時間も進まない会議を15回」ってツッコミ最高。各国がそれぞれ切り札準備し始めた展開、次どうなるか俄然気になるわ🔥 イヤミルに外交任せたら世界戦争不可避なの草