テラーノベル
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「…え?あ、もしかして俺、なんかまずいこと言いました…?」
目黒が、オロオロと二人の顔色を窺い始めた、その時だった。
「めめ!」
ひょっこりと楽屋に顔を出したのは、向井康二だった。彼は、部屋に入った瞬間に、その場の異常な空気を察知する。そして、空気を読まずに質問を続けようとする目黒の腕を、背後からぐいっと力強く掴んだ。
「ストップ!ストップや、めめ!」
状況が飲み込めていない目黒に、康二は必死の形相で耳打ちする。そして、ソファに座る渡辺と、鏡の前の宮舘に向かって、へにゃりとした笑顔で、しかし必死に頭を下げた。
「ご、ごめん、二人とも…!あのさ、この前のMV、めめはおらへんかったやん?やから、この空気知らんねん!ほんまごめん、許したげてな?ほんまにごめんなさい…!」
場を和ませようと、何度も何度も頭を下げる康二。しかし、その必死さが、逆に神経がささくれ立っていた渡辺の癇に障ってしまった。
「…ちっ、うるせえな!!」
渡辺は、吐き捨てるようにそう言うと、ガンッ!と大きな音を立てて立ち上がった。
「関係ない奴はどっか行ってろよ!」
その怒声は、明らかに康二に向けられていた。突然の八つ当たりに、康二の顔から笑顔が消える。
「こら、翔太!人に対して、そういう言い方はやめろ!」
今まで冷静を保っていた宮舘が、ついに強い口調で渡辺を諌めた。しかし、それは火に油を注ぐだけだった。
「どの口が言ってんだよ!!」
渡辺が、宮舘に掴みかからんばかりの勢いで吼える。「お前が、俺のこと『浮かれてる』とか言うからだろうが!」
「俺は事実を言っただけだ!」
「事実じゃねぇ!てめぇの嫉妬だろ!」
ついに、売り言葉に買い言葉の応酬が、三度始まってしまった。
そのあまりの剣幕と、自分のせいで喧嘩をヒートアップさせてしまったという罪悪感に、康二はどうすることもできず、その場でカチンと硬直してしまった。隣では、目黒が「え…え…?」と事態の深刻さにようやく気づき、顔面蒼白になっている。
楽屋は、もう誰にも止められない、最悪の空気に包まれていた。
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