テラーノベル
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「てめぇの嫉妬だろ!」「何だよ!」
宮舘が、渡辺の胸ぐらを掴み返そうとした、まさにその時だった。
ガチャリ。
今までで一番静かに、しかし、有無を言わさぬ絶対的な圧力を持って、楽屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは、マネージャーでも、他のメンバーでもない。偶然、下の階のスタジオでの打ち合わせを終え、廊下を歩いていた、事務所の副社長、その人だった。
楽屋から漏れ聞こえるただならぬ怒声に、何事かと足を止めたのだろう。
その姿を認めた瞬間、楽屋の時が、止まった。
ヒートアップしていた渡辺も、感情的になりかけていた宮舘も、硬直していた康二も、顔面蒼白の目黒も、全員が、まるで石になったかのように、ピシリと固まる。さっきまでの怒声が嘘のように、水を打ったような静寂が、部屋を支配した。
副社長は、何も言わない。
ただ、その鋭い目で、部屋の中をゆっくりと見渡す。硬直する四人、散らかりかけたテーブル、そして、部屋に充満する、最悪の空気。その全てを、瞬時に把握したようだった。
そして、最後に、渡辺と宮舘の顔を、じっと見つめる。
その視線は、決して怒っているわけではない。だが、その静けさこそが、何よりも恐ろしかった。どれくらいの時間が経っただろうか。数秒が、数時間にも感じられた。
やがて、副社長は、静かに口を開いた。
「…後で、話を聞こうか」
それだけを、低い声で言い残すと、再び静かにドアを閉めて去っていった。
バタン、というドアの音が、まるで死刑宣告の鐘の音のように、四人の耳に響き渡った。
誰も、動けない。誰も、何も言えない。
さっきまでの喧嘩の熱など、とっくに消え去っている。残ったのは、絶望的な焦りと、これから何が起こるのかという、底知れぬ恐怖だけだった。
Snow Man、結成以来、最大のピンチ。その引き金を引いてしまったのは、他でもない、自分たち自身だった。
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