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寂しい?
この俺が?
あの一歩間違えればストーカー並みにベタベタとうるさかった、年下の義弟に対して?
「……」
ゆっくりと仰向けになり、天井を見つめながら、これまでの日常を思い返す。
朝一番の、耳がとろけそうなほど甘い「兄さん」という声。
狂気を感じるほど真っ直ぐで、しつこいくらいの「好き」という告白。
体格差を物ともせず、俺の体温を奪うように抱きついてきた、あの距離ゼロのスキンシップ。
前はあれほど鬱陶しくて、恥ずかしくて
心臓に悪いと思っていたはずなのに。
いざそれが全部綺麗になくなってしまうと、ない方が、何十倍も嫌だ。
「……単純かよ、俺」
両手で顔を覆う。手の隙間から漏れる吐息が熱い。
認めたくはなかったが、完全に理解してしまった。
俺は、直哉のあの過剰すぎるほどの愛に、骨の髄まで慣らされていたのだ。
あいつがいないと、もう駄目になってる。
その時
コンコン、とドアを叩く静かな音が響いた。
「兄さん、入るよ」
「……っ」
ガチャリとドアが開き、入ってきた直哉は
やっぱり俺のベッドから2メートルほど離れた位置に、教科書通りに正しい距離を空けて立っていた。
「母さんたち、仕事が長引いて遅くなるから、先にご飯食べておいてだって」
「……そ。了解」
会話が続かない。
部屋を満たすのは、耳が痛くなるほどの気気まずい沈黙だ。
いや、直哉は至って普通で、冷静な大人の対応をしている。
変なのは、あいつの出方に怯えてガチガチになっている俺だけだ。
「じゃあ、俺、リビングにいるから」
直哉はそれ以上何も言わず、踵を返して部屋を出ていこうとした。
その、どこまでも事務的な態度が、俺の心の中の何かの堤防を完全に決壊させた。
「待てよ」
気がついた時には、思考を挟む前に声が飛び出していた。
直哉の足が止まり、ゆっくりと振り返る。
「……ん?どうしたの?」
その言い方。声のトーン。
どこまでも優しくて、けれど、ガラス一枚隔てた向こう側みたいに遠い。
それが、泣きたくなるほど嫌だった。
「お前…最近さ……」
喉がキュッと詰まる。
心臓がうるさいくらいに脈打って、全身が熱い。
こんな子供みたいなわがままを口にするなんて、死ぬほど恥ずかしすぎる。
でも、今言わなきゃ、こいつは本当に遠くへ行ってしまう気がした。
「……なんで、触ってこねぇんだよ」
「……え?」
直哉が、信じられないものを見たかのように、綺麗に目を丸くした。
(…言っちまった)
俺は一気に顔がカッと熱くなるのを自覚し、慌てて手を振って言葉をまくしたてた。
「 お前、前までめっちゃしつこいくらいベタベタしてただろ!なのに、最近急に普通になりすぎて……その、なんか調子狂うっていうか……!」