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「ウチのハンマーがああああ!」
「ウチの盾がああああ!」
防具屋はその場にガクッと膝から崩れ落ち、武器屋の親父は少し前までハンマーだった金属の棒を見て涙する。
すっかり怯えてしまった子供たちは、ソフィアのスカートの中に隠れ、その膨らみはまるでドレス。
柵壁には人一人がすっぽりと通り抜けられそうな穴。その周りには、破壊された盾の破片がいくつも突き刺さっていた。
「お兄ちゃん、すごーい」
そんな中、ミアだけが嬉しそうに俺の周りを跳ねまわり、カイルは気分が悪いのか、壁に向かって嘔吐いていて体調悪化が深刻そうだ。
それからしばらくすると、集まってきたのは村人たち。
耳を劈くような轟音だ。何事かと集まってきてしまうのは当然の結果である。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「すいません! すいません!」
俺とソフィアは平謝り。壊したハンマーや盾の弁償ができればそうしたいが、カネがない。
多分、ソフィアも同じ理由だろう。必死に謝っているところを見ると、ギルドでは保証してくれなそう。
「新人さんは、まあ俺も思いっきりやれって言った手前、あまり責められないが……ソフィアちゃん」
「はひ……」
「新人さんの力量を測るのも、ギルドの仕事なんじゃないの?」
「すみません……。まさか防御魔法が破られるとは思ってなくて……」
「はあ……困るなあ、商売道具なんだよねえ……。これじゃカミさんに怒鳴られちまうよ……」
「でも……私も小突く程度でって、最初に言ったんですけど……」
「金貨三十枚……」
「うう……ごめんなさい! ごめんなさい!」
「あ、うちの盾は金貨十枚だから」
「あの、壊したのは俺なんで……。今は持ち合わせがありませんが、お金ができたら弁償しますので……」
「まあ……それなら……」
「私が払うよ。冒険者の責任は、担当の責任でもあるから」
「「えっ?」」
突然の横槍に一同がギョッとしたのは、その声の主がミアだったからだ。
「いや、待てミア。これは俺の責任だ。時間はかかるが、俺が払う」
「でも武器屋さんと防具屋さんは、早く払ってもらった方がいいでしょ?」
突然の申し出に、武器屋と防具屋は顔を見合わせ、拙い返事を返す。
「え? あ……ああ。まあ……」
子供から払ってもらうとなると気が引けるのか、二人とも返事は朧げだ。
さすがにミアに払わせるのは良心が許さなかったのか、ソフィアもポケットマネーからいくらか出すことを提案した。
「俺も出すよ。今回の講習内容を決めたのは俺だしな」
カイルも嘔吐が一段落ついたのか、よろよろと近づいてくる。
その申し出はとてもありがたい。ありがたいが、それ以上近づいては欲しくないというのが、正直なところ……。
そう思っていたのは俺だけではなかったようで、その場の誰もがカイルとの距離を一定以上開けていた。
最終的にミアが二十枚、ソフィアが十枚、カイルが十枚出すことで、話はまとまった。
もちろんミアの分は、俺が借りるという形でミアに返済していくことになる。
まさかの借金からのスタート。先が思いやられる……。
それからしばらくして、戦闘講習の後片付けを手伝い終わると、俺たちはギルドへの帰路に就く。
その足取りは、当然重い。
「ミア。今日はすまなかったな」
「ううん、大丈夫。気にしないで」
大の大人が子供にカネを借りるとは……。情けないこと、この上ない。
「ソフィアさんもすいません。思いっきりやってしまって……」
「いえいえ……。いいんですよ、九条さんの力量を測れなかった私も悪いですし……」
「それにしても、お兄ちゃん凄かったね。本当にカッパーなの?」
「そ……そうに決まってるじゃないですか!」
ミアの疑問に、俺の返答を待つことなく間髪入れずに答えたソフィア。
その声は若干上擦っていて、なんというかぎこちない。
「……そうなの? お兄ちゃん?」
「ん? ああ、検査したらこのプレートがもらえたんだ。そうなんじゃないか?」
「ふーん……」
ミアはソフィアの顔をじーっと見つめていた。疑いの目とも取れるねっとりとした視線。
結局ギルドに到着するまで、ソフィアとミアの視線が絡み合うことはなかった。
ギルドに着くと、レベッカが笑顔で迎えてくれる。
「よう、三人ともおかえり。おっさんは今日も夕飯はウチで食うのか?」
「ああ。お願いしたい」
「了解。二人は?」
「私はお仕事が残ってるので、今日は一人で……」
「私は、お兄ちゃんと食べるぅ!」
「おっけー。じゃあ二人分だな」
ひとまず部屋に戻ろうと階段に足をかけた時、俺はあることを思い出した。
「そうだ。レベッカさん」
「ん?」
「この店に生ハム原木ってありますか?」
「ん? あるけど……? それがどうした?」
レベッカは、カウンター下に保存してあった生ハム原木を持ち上げて見せてくれた。
それは先ほどの棍棒と瓜二つ。
俺とミアは、顔を見合わせケラケラと笑うも、ソフィアとレベッカは意味がわからず、首を傾げていた。
今日の夕飯も、昨日ほどではないが客は来た。来たのだが、宴会にまで発展しなかったのは、俺と楽しそうに話しているミアに配慮して……といったところか。
相も変わらず、たくさんの農作物を置いていった。
一応断ってはいるのだが、「保存できるから大丈夫」とか、「村を守ってくれるならこれくらい安いもんだ」などと言われて、断り切れない。
親切でよい人たちなのだが、なんというか圧が凄い。
この野菜を換金して、借金返済の足しに――とも考えたが、それは人としてダメな気がする……。
「そういえば、温泉が無料で使えると聞いたんだが……」
「あるよ! 私もお兄ちゃんと一緒に入る! 支部長に言ってくるから待ってて」
それから十分。待てど暮らせど一向に戻ってくる気配がないミア。
何かあったのかと思い迎えに行くと、ミアは残りの仕事を片付けていた。
「ミアはまだ仕事があるので、お風呂は一人で行ってきてください」
ソフィア曰くしばらくかかりそうとのこと。まあ、仕事なら仕方あるまい。
教えてもらった温泉は、ギルドに隣接する露天風呂だ。渡り廊下で繋がっているそれは、温泉旅館にも似た趣があり悪くない。
浴槽は家族風呂より少し大きいくらいのサイズ感。熱くもなく、温くもない湯加減は、控えめに言って俺好み。長く入っていられるため、ゆっくりできる気がするのだ。
村全体で源泉をシェアしているので、村人たちがギルドの浴場を使うこともなく、ほぼ貸し切り状態。
のんびりと湯舟に浸かり空を見上げると、夜空に浮かぶ星々がキラキラと輝いていた。
「東京では、こんな星空見られなかったな……」
すると、急に脱衣所の扉がスパーンと勢いよく開いた。
公衆浴場なのだから、誰が入ってきてもおかしくはないのだが、尋常ではない勢い。
マナーのなってない奴が来たのかと振り返ると、そこには素っ裸のミアが立っていた。