TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

〇数年前の大阪本社



大阪本社では多くの人が働いている。


N「滉星の不倫相手である石田唯は、大阪本社に勤めていた。

そのため、滉星は知らなかったのだ。石田唯という女のこれまでの所業を。

本社に知り合いのひとりでもいれば少しはその噂も耳に入っていたかもしれないし、

もしそれを知っていたならば唯とのお遊びに熱を上げることもなかったかもしれない」


新卒で入社した唯が社内で働いている。

周りの男性陣はついつい唯を目で追ってしまう。


N「新卒で入社して1年が経った頃、唯は他部署の大石直也と付き合うようになる。

部署は違えども、2人は同期入社で同い年だった。

付き合って3年目には結婚の話が出て、4年目の春頃には両家の顔合わせも済ませ、

婚約の運びとなっていた」


社内で唯が直也を見つけて声をかける。



唯「直也!」


直也「おー、唯。今日は昼どうする?」


唯「んー、直也の食べたいものでいいよ」


直也「じゃあ……とんかつ!」


唯「ふふふ、じゃあいつものとんかつ屋さん行こっか」


唯が直也の腕に自身の腕を絡めて、昼食へと向かう。


同僚A「石田さんと大石さん、ほんっと美男美女って感じ」

同僚B「大石もずるいよなぁ~。俺のほうが先に狙ってたのにさぁ~」

同僚C「馬っ鹿ねぇ。あんたみたいなの、石田さんが相手にするわけないじゃない」



N「綺麗な顔立ちにスタイル抜群の唯は入社当初から注目の的だった。

ただ、唯と直也が恋人同士であることを職場でもオープンにしていたからか、

2人の間に割り込もうとする無粋な輩はいなかった。

そして、何よりも唯自身が直也に対して一途だった。

……しかし、そんな唯の心にも知らず知らずのうちに隙ができていたのかもしれない。

ある日、唯の直属の上司が転勤することになった。

当然、新しい上司がやってくるわけだが、この上司……渡辺玄帥が一瞬にして

唯の心を奪ってしまったのだ」


着任の挨拶で、玄帥と握手を交わす唯。


玄帥「はじめまして。よろしくね」

唯「はじめまして。よろしくお願いします」

唯(手が……熱い……)


少し頬を染めている様子の唯を玄帥が見ている。


玄帥(社内でのつまみ食いってのもなかなかスリリングでいいかもな……)


N「玄帥はいわゆる『いい男』。既婚者だったが、だからこその色気と毒気があった。

唯はその色気と毒気にまんまとやられてしまったのだ」


誰もいない暗くなったオフィスで、唯と玄帥がキスをしている。

唯はそのキスにくらくらしてしまう。


唯(……これはただの遊び。結婚前にちょっと遊ぶだけだから……)


N「玄帥と唯は上司と部下の関係。適当な理由を作れば、社内ではいつでも

いくらでも2人っきりになれた。

LINEでやり取りをすることもなければ、休日にデートをすることもない。

証拠となるようなものは何も残らない。

だからこそ、誰にも知られずにこの関係を続けられる自信があった」


玄帥「石田さん、資料運ぶの手伝ってくれる?」

唯「はい」


玄帥はそうやって唯と一緒に資料室へ向かい、誰もいないことを確認して

内側から鍵をかける。

それを合図に濃厚なキスをして、そのまま資料室で互いを求め合った。


N「関係を持つようになって6か月が過ぎた頃のことだった。

玄帥は思わぬ形で唯に婚約者がいることを知った」


社内で玄帥が他部署の同僚に声をかけられる。


同僚「渡辺さん、渡辺さん」

玄帥「はいはい」

同僚「お宅の部署、お祝いどうする予定?」

玄帥「お祝い? 何のです?」

同僚「何って、石田さんのお祝いに決まってるじゃないの。

ほら、石田さんって大石くんと結婚するじゃない。向こうの部署の大石くんと。

向こうでもねぇ~……」


途中から同僚の話がろくに耳に入ってこない玄帥。

いつも通りの笑顔で接してはいるが、冷や汗が出ている。


玄帥(……婚約者? それも社内に? 聞いてないんだけど。

やばいやばい……こりゃまずいぞ。面倒なことになる前に切らないと……)


話を聞いたその日のうちに、玄帥は唯を呼び出した。


玄帥「……唯ちゃん。俺たち、もうそろそろ終わりにしよう」

唯「えっ、何でですかっ!?」


玄帥「唯ちゃん、何で婚約者がいるって教えてくれなかったかなぁ……」

唯「そ、それは……渡辺さんも知ってると思って……」


玄帥「……まぁ、どっちにせよさ。

唯ちゃんも俺が既婚者だってわかってたわけだし、お互いに最初から遊びでしょ?

婚約者が、それも同じ社内にいるってなると、さすがの俺も今まで通りにはいかないよ。

今がやめどきだって」


唯「嫌っ! 嫌ですっ! ……せめて、私が結婚するまでは……一緒にいたいです……」


泣きそうな唯を見て、玄帥は困ったように頭をかいた。


玄帥(まいったなぁ……。まずい子に手ぇ付けちゃったなぁ……)



N「玄帥にしてみれば、若くて綺麗な子をちょっとつまみ食いしただけ。

6か月も遊べたことだし、上々だ。

これ以上関係を続けて同じ会社にいる唯の婚約者、直也に知られれば面倒になる

ことは目に見えている。

それに、玄帥にはキャリアウーマンでしっかり者の妻がいる。

玄帥の目から見ても、とびきり美人な妻だ。

40手前にもなって浮気者のどうしようもない人間であることは玄帥自身も自覚していたが、

それでも妻と別れる気など毛頭なかった。だからこそ、先で揉めることはしたくない。

……ただ、今回の相手は自分の部下で、その婚約者も部署は違えど同じ会社の人間。

下手すれば首だ」


玄帥(……とにかく、今はどうにかしてこの子と別れないと)



N「一方で、唯は自分自身に驚いていた。最初は遊びのつもりだった。

危険な香りを漂わせる上司とのアバンチュール。

婚約も済ませ、直也との安定した関係に胡坐をかき、調子に乗っていた部分もあるだろう。

しかし、玄帥と体を重ねるうちにいつの間にか心まで持っていかれるようになっていた。

それに気づいたのは玄帥の『もうそろそろ終わりにしよう』の一言だった。

結婚を控えている自分こそが別れるタイミングを間違えないようにしなければならないというのに、

結婚するまで今の関係を続けたいと言ってしまった。

直也はもちろん、社内の人間にも2人の関係を知られないように万全を期してはいるが、

万が一のことが起こったときのリスクはすさまじく大きい。

それがわかっているのに、それでももう少しこのままでいたいと縋ってしまったのだ」


唯(……身も心も奪われるってほんとにあるんだ……)


N「唯が直也と婚約してからすでに8か月。3か月後には挙式を控えていた。

玄帥が今の妻と離婚する気がないのは最初からわかっていたし、

お互いに納得しての付き合いだったはず。

一方には妻がいて、もう一方には婚約者がいる。

そういう者同士が関係を持つということはそういうことだ。

つまり、唯と玄帥の未来には『結婚』というものは存在しない」


唯の中でイメージする玄帥との未来が黒く塗りつぶされていく。


N「それでも、唯は自分に婚約者がいることを玄帥に隠していた。

それは相手に本気になってしまいそうだったからなのだろうか。

そんなことになれば、困るのは自分なのに。

……いや、そんな面倒な女では玄帥が相手をしないのではないかと心のどこかで

思っていたからかもしれない。

唯はそうまでしても、玄帥と付き合いたかったのだ。

女性経験が豊富そうで危険な香りのする玄帥と」




唯(結婚するまでって言っちゃったけど、渡辺さんから「会おう」って言われたら

結婚した後でも会っちゃうんだろうなぁ……。

でも、たぶん……本当にほしい言葉はそれじゃない……)


N「『妻とは離婚するから待っていてほしい。

だから、大石くんとは別れてくれないか』……

今、唯が一番ほしいのはそんな言葉だったのかもしれない」

『✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 』

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

16

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚