この作品はいかがでしたか?
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あの星が降る日、君が言った言葉
あたしはきっと忘れないだろう
毎日のように雨が降り、放課後になるとみんな足早に部活へ向かう。廊下を進むと美術部のものらしい、あたしには絶対描くことが出来ない作品が並んでいた。
「凄いなぁ…。あたしは絶対描けないや。」
一体どんな魔法を使っているんだろうか…。すると元気の良い運動部らしい声が聞こえてきた。やっぱり、部活って騒がしいものだよね…。あたしとは縁が程遠い。多くの人が人気のある部活に入っている。友達がいないあたしには、そんな部活には入る勇気がない。
「いいなぁ…。」
そんな言葉が、いつも自然に出てきてしまう。友達が居れば…きっと毎日が楽しいんだろうなぁ。
すっかり慣れてしまった古い部室へ入り、いつものようにあたしより早く来る先輩をみつけ気付かれないように小さなため息を着く。この先輩、苦手だ。
「こ、こんにちは…。」
いつまで経ってもぎこちなくなってしまう。あれ…。
いつもは返事があるのに、返事がない…。聞こえなかったのだろうか。よし。
「影山先輩!こんにちは!!!!!!」
ガタッと机が動く音が聞こえた。しまった、驚かせてしまっただろうか。でも聞こえていたことには間違いないだろう。先輩はあたしをチラリと横目で見たあと、直ぐに手元の本に視線を戻してしまった。はぁ。本当に苦手だ。
「…ちは。」
出た。いつもの素っ気ない返事。って言ってもあたしも人のことは言えないか。そしていつものようにロッカーから望遠鏡を取りだし特別に借り出している屋上の鍵を持って部室を出ようとする。
「塩野さん。」
突然呼ばれた名前に驚き、勢いよく振り向いた。
「痛った…。」
あ…。中途半端な位置で結んだポニーテールが先輩の顔に当たってしまった。焦ってオロオロしていると、
「…俺も行く。それ、貸して。」
と言ってあたしが握りしめていた鍵を取ってしまった。えー…。と思いながらも先輩について行く。
古くなり踏むとギジリという階段を登り屋上のドアを開ける。その瞬間太陽の光が差し込む。いつの間に雨が止んだのだろう。
「…早くきなよ…。」
驚いて立ち止まっていたあたしに冷たい声が届いた。
「すみません。」とだけ言ってあたしも外へ出る。太陽の光に照らされた水溜りには綺麗な虹が映り込んでいた。何年ぶりだろうか。虹を見たのは。
それにしても、先輩がこんなにも早くから屋上へ出てくるのは初めてではないだろうか。いつもなら日が沈み、暗くなる頃に出てくるのに。あぁ。とても気まずい。どうやって時間を潰そう。この天文部は暗くなってからが本番なのだ。それに部員はあたしと先輩の2人。こんなにも気まずい時間はこれ以外にはないだろう。いつもなら運動部の練習の様子を観察するのだが、あんな雨だったので今日は外で練習をする部活は無さそうだ。
「あーあ。日課だったのに…。」
ヤバっ。声に出てた。そう思って振り向くと、先輩は椅子に座ったまま眠ってしまっていた。
「なんなのよ。もう…。」
本当に読めない人だ。まったく、と先輩の顔をのぞき込む。すると、スゥっと爽やかな風が吹いた。先輩の少し長い前髪が浮かび上がり目元がちらりと見えた。
一瞬見えただけでもわかるような長く真っ直ぐなまつ毛。顔立ちも整っているし。本当にもったいない人だ。
「もっと性格が良ければなー…。」
空に向かってボソリと言う。
「それ、俺に言ってんの?」
思いもよらぬ言葉にドキリと心臓がなる。起きていたのか。それにしても、なんて答えたら…。
「あ、あの…。いやぁ〜…」
焦るあたしの目を真っ直ぐ見つめ、答えを待っている。さて、どうしたものか…。
「俺って性格悪いの?」
これまた意外な言葉だ。どうしようか。
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