テラーノベル
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世界が、光と闇に裂かれていた。
白虎と青龍の力がぶつかり、蒼と白の閃光が夜空を貫く。
湖面が砕け、風が唸る。
その中心で、レイの身体が青龍の腕に抱かれていた。
「やめろ、白虎! お前が触れれば、彼女は壊れる!」
青龍の叫びに、白虎は冷ややかな笑みを返す。
「壊れるかどうか、試してみるのも悪くない。」
次の瞬間、白虎が疾風のように間合いを詰めた。
黄金の瞳が獣のように光る。
だがその刹那――
「そこまでだ。」
低く、重い声が大地を震わせた。
玄武だった。
氷の鎧を纏い、亀甲の盾を構えながら二人の間に立つ。
「これ以上、神域を荒らす気か。」
「……玄武。」青龍が息を吐く。
玄武はレイを見つめ、静かに首を振った。
「この娘の中の力は、もはや“神の欠片”ではない。
完全な神性に目覚める寸前だ。」
白虎が眉をひそめる。
「だからこそ放っておけぬ。
その力を制御できなければ、この世界が滅ぶ。」
「それでも、奪う理由にはならない!」
青龍の声は怒りに震えていた。
その声音には、神の冷静さではなく――“人”の激情が混ざっていた。
玄武が目を細める。
「青龍……お前、まさかこの娘に――」
言葉を遮るように、風が止んだ。
レイの睫毛がわずかに震え、ゆっくりと目を開く。
「……ここ、は……?」
視界に映るのは、三柱の神々。
そして――その全員が、自分を見ていた。
「……戦わないで。」
その声はかすれていたが、確かな意志があった。
青龍が驚いたように彼女を見下ろす。
「俺たちは、お前を守るために――」
「違う……誰も傷つけないで。
もう、誰かが死ぬのを見たくないの。」
彼女の言葉に、風が静まった。
その瞳に宿る光は、まるで天の光。
朱雀がその光景を遠くから見つめ、口元に微笑を浮かべる。
「ふふ……優しいな、レイ。
でも優しさほど、神を狂わせる毒はない。」
数日後。
蒼の宮に戻ったレイは、静かに寝台で目を覚ました。
傍らには青龍が座っている。
彼は疲れたように、しかし優しく微笑んだ。
「……ずっと、見てたの?」
「当たり前だ。お前を一人にする理由がない。」
その声に、レイの胸が温かくなる。
けれど次の瞬間、青龍は小さく呟いた。
「……俺は、お前を救う資格などないのに。」
「どうして、そんなこと言うの?」
青龍は静かに立ち上がり、背を向けた。
「昔、俺は一度――“人”を滅ぼした。」
レイは息を呑む。
その声には、深い悔恨が滲んでいた。
「神々の間で戦が起きた時、俺は秩序を守るために人間の王都を焼いた。
彼らが“穢れ”を生み出していたからだ。
だがその中に、まだ幼い少女がいた。」
レイの胸が痛む。
「……その子の瞳が、お前と同じ色をしていた。」
青龍の手が震える。
「俺は、また同じ過ちを繰り返すのかもしれない。」
レイはそっと立ち上がり、青龍の背に手を伸ばした。
「違う。あなたはもう、誰も傷つけてない。」
「……」
「私を助けてくれた。あの日、あなたがいなければ、私は死んでた。」
青龍がゆっくりと振り返る。
その蒼い瞳に、わずかな涙が光った。
「……レイ。」
「うん?」
「もし、お前を救うためにこの世界が壊れるとしても――
俺は、迷わぬだろう。」
レイの心臓が跳ねる。
青龍の指先が頬に触れ、唇が触れそうな距離で止まる。
「それが、俺の“罪”であり、“誓い”だ。」
沈黙の中、二人の間にあるのは言葉ではなく、祈りにも似た想いだった。
しかし――その静けさを破るように、空が朱に染まった。
「青龍、レイ!」
扉を押し開け、朱雀が駆け込んでくる。
その表情はいつもの余裕ではなく、真剣そのものだった。
「闇の主は消えていなかった。
奴は――“レイの魂”の中に逃げ込んだ!」
青龍の瞳が凍りつく。
レイの胸が痛み、黒い紋様が皮膚に浮かび上がる。
「……う、あ……っ!」
「レイ!」
朱雀が手を伸ばそうとするが、青龍がその腕を掴んだ。
「触るな!」
「黙れ! 今助けられるのは俺だけだ!」
再び、神々の間に火花が散る。
その間で、レイの意識は闇に飲まれていった。
――そして、夢の中で彼女は出会う。
“神々より古いもの”、自らの魂の主に。
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