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光は消え、闇だけが優しく包み込む。
意識の奥、底なしの暗闇の中。
レイは一人、どこまでも深く落ちていった。
呼吸も鼓動も、何も感じない。
ただ、遠くから誰かの声が聞こえる。
「レイ……目覚めるな。」
「お前が起きれば、世界が終わる。」
その声は、優しくて冷たい。
まるで愛を告げながら、同時に殺すような声。
レイが目を開けると、
そこは夜空でも地でもない、白と黒が混ざる無の空間。
そして、そこに立っていた。
黒衣の男。
髪は夜よりも深く、瞳は星のように光る。
その微笑みは、美しく、どこか悲しかった。
「……あなたは、誰?」
「我が名は“朧(ろう)”。」
男は静かに名乗る。
「この世界が生まれる前に存在した、原初の闇だ。」
レイは息を呑む。
「……じゃあ、あなたが私の中に?」
「そうだ。お前の魂は、かつて私の欠片を封じるために生まれた。
だからこそ、神々はお前を恐れる。」
レイの胸が痛む。
彼の言葉が、なぜか懐かしく響いた。
「じゃあ……青龍たちは敵なの?」
「敵、ではない。
だが、彼らは“光”だ。光は闇を滅ぼさねば存在できない。」
「……」
「そして、お前の中にある闇は、彼らをも焼くだろう。」
レイは拳を握る。
「でも、私は誰も傷つけたくない。」
「ならば、お前自身が傷つくしかない。」
朧の言葉に、レイの頬を一筋の涙が伝う。
その時、男が手を伸ばした。
「泣くな、レイ。お前の涙は神を狂わせる。」
「……どうして、そんなことを言うの?」
男の瞳が、微かに震えた。
「昔……お前と同じ魂を持つ者を、愛したことがある。」
「……え?」
「だが、彼女は神々の光に焼かれた。
私を封じるために。」
レイの胸が締めつけられる。
その瞬間、彼女の頭の奥で記憶が弾けた。
――炎の海。
――青龍の蒼い瞳。
――そして、少女の叫び。
『朧……私は、あなたを封じる。でも、愛してる――』
レイが叫ぶ。
「それ、私だ……! 私、見た……!」
朧は静かに微笑む。
「やはり、お前は“あの魂”の転生体だ。」
闇が波打つ。
レイの身体が淡く輝き、髪が宙に舞う。
「レイ。今なら、選べる。」
「……選ぶ?」
「このまま青龍たちの光に従い、再び私を封じるか。
それとも――光を拒み、闇と共に世界をやり直すか。」
レイは震える手で胸を押さえる。
青龍の笑顔。朱雀の茶化す声。白虎の真剣な眼差し。玄武の静かな優しさ。
全部、思い出す。
「……私は、誰かを犠牲にして生きるのはもう嫌。」
「ならば、どうする?」
レイは涙を拭い、真っ直ぐに朧を見た。
「私が全部背負う。
光も、闇も、世界も――誰も滅ぼさないために。」
朧の瞳が見開かれた。
次の瞬間、彼は微笑んでその額に指先を当てた。
「愚かで、愛しい魂よ。
だからこそ、お前を愛したのだ。」
闇が弾け、光が差し込む。
レイの身体が白と黒の光に包まれ、やがて現実の世界へと引き戻された。
神域。
雷鳴が轟き、青龍たちがレイのもとに集う。
「レイ! 戻れ!」
青龍の叫びに応えるように、レイの身体から闇が吹き出す。
白虎が牙を剥く。
「くそっ、完全に融合しかけてる!」
「下がれ!」青龍が叫ぶ。
彼は両手を広げ、蒼の光を放った。
「この光で、彼女を守る!」
しかし、朧の声がレイの口を通して響く。
「青龍……またお前か。
何度、私の愛を奪えば気が済む。」
「黙れ!」青龍が叫ぶ。
だがその瞳には、怒りよりも悲しみがあった。
「……レイ、帰ってこい。お前は闇なんかじゃない!」
レイの瞳が震える。
光と闇がせめぎ合い、やがて一粒の涙が頬を滑る。
その瞬間――
蒼と黒の光が弾け、世界が眩い閃光に包まれた。
――そして、静寂。
レイは倒れ、青龍がその身体を抱きとめた。
朱雀が息を呑み、白虎が拳を握りしめ、玄武が目を伏せる。
青龍の腕の中で、レイはかすかに微笑んだ。
「……ただいま、青龍。」
「……おかえり。」
彼の手がレイの頬に触れた瞬間、蒼い光が彼女を包む。
闇は消えず、光も消えなかった。
二つの力が、静かに共存していた。
――新しい“理”が生まれようとしていた。