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野々さくら
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芙月みひろ
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それは迷うことなく伸びており、この表紙絵とキャッチコピーに強く惹かれたのだとよく分かる。 一冊の本を取ろうとし、他人と手が当たる。
そんなこと恋愛小説の世界だけだと思っていたから思わず笑ってしまうと、その手の先からも聞こえるのは小鳥がさえずるような美しい笑い声。
やはり相手は女性で、ベタな展開である「異性との運命の出会い」ではないようだ。
だけどなんだか嬉しくて、まるで本が出会いを運んで来てくれたみたいで。
「どうぞ」
残り一冊の単行本をそっと持ち上げて、相手に差し出した私の声は弾んでいた。
「いえいえ、そんな」
そう言う女性は、ラフな半袖Tシャツとジーパンをカッコよく着こなしており、そこから伸びる細腕と細く長い脚。
ストレートの黒髪に整った目鼻立ち、透き通った肌。
大人びた声や仕草をし、大人の魅力を持ち合わせた女性は、女の私でも見入ってしまうほどの美貌の持ち主だった。
「私は取り寄せてもらうので」
そう言い、気を遣わせないようにと立ち去る。
あの本を読みたいと思っている気持ちは、充分伝わってきた。
だったら譲るのが、本好きの美学じゃない?
まあ、私が勝手に今思ったことなんだけど。
……そうは言っても、やっぱりあの本が気になってしまい、ウズウズとしたものが胸の奥から立ちこめてくる。
あー、ダメだぁ! こんな気持ちで他の本を買うなんて、失礼過ぎる!
そう思い、店長さんがいるカウンターにあの本の予約をしに行くと、まさかのことが起きた。
「この本は予約は出来ないよ」
「ふぇ?」
店長さんの言葉に変な声が出てしまい、ポカーンとしてしまった私。
するとその返事だと言わんとばかりに、ラッピングされた手のひらサイズより少し大きな物を手渡された。
「文ちゃんのお友達から、渡して欲しいと頼まれてね。お代はもらっているから、持って帰りなさい」
「え? うそぉ! どんな人でしたか?」
その人の特徴を聞いた私は、店から飛び出していた。まだ彼女が居るような気がして。あの美しい声で笑っているような気がして。
だけど商店街を歩いているのは見知ったおじさんおばさんばかりで、止んだ雨と共に彼女の姿は消えてしまっていた。
……運命の出会いだったかもしれないのに。
出会いとは一期一会。
その時は運命だと気付かなくても、後になってやっぱり読みたいと思って探した結果、もう絶版になっていたと知ることがある。
人間関係ももしかして同じじゃないかと思えたのに、私は気付くのが遅かった。
初めて本以外に、運命を感じた人だったのに──。
呆然とする私に店長は追いかけてきてくれて、私は最後の綱だと彼女は常連かを聞いたけど、初めての入店とのことだった。
「大丈夫、きっと会えるよ。近いうちにね」
にっこり笑う店長さんに首を傾けつつ、本をお手製の本入れカバンに入れ、忘れそうになった傘を片手に歩き出すと、雲の切れ目から日が差していた。
「あっ」
空を見上げると七色の虹が大きく広がっており、彩りに輝いていた。
「キレイ」
だけど、この景色を一緒に見て喜んでくれる相手もおらず、私はまた俯きただ歩いていく。
あの人だったら、一緒にキレイだと笑ってくれたのかな?
小説だったら、どんな場面に虹を出してくるのだろう? 私だったら……。
そんなことを考えながら家に着いた私は、早速彼女がくれた物語を読み始める。
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