・
・【25 予定】
・
今日も真澄と一緒に、来た依頼の謎を解くという予定があるんだけども、真澄がいくら時間になっても待ち合わせ場所の、現地に近い公園に来ない。
これならソーくんに勉強を教えることのほうがよっぽど有意義だと思っていると、真澄からLINEで連絡が入った。
『ゴメン! 今日は無理だ! これから電車で親戚の家へ行く!』
僕はすぐに『一人で?』と返信すると『だから不安なんだけども!』とか言っているので、それならばどうせもう暇だし、と思って『僕もついていこうか?』と言うとすぐさま『よろしく頼む!』と返ってきて、駅で落ち合うことにした。
駅に着き、数分後、真澄もやって来て、
「いやぁ! 電車ってあんま使わないから不安で不安で! アタシってすぐ寝ちゃうし!」
「すぐ寝ちゃまあダメだな、アラーム扱いも困るけども、そのために来たっぽい状態だからアラームしてやるよ」
僕と真澄は電車に乗って、ゆっくりと揺られ出した。
何で急に親戚の家へ行くのか、聞いていいか分からず、黙っていると、真澄が口を開いた。
「親戚のおばさん、一人暮らしで。今日足をケガしたらしくて、病院に連れてくって話で。でもみんな忙しくて、つって」
「そういう理由か。真澄が親族から頼られる人間で良かったな」
「うん……」
普通褒めるともっと喜ぶのに、今日は何故か静かに車窓を眺めるだけで。
まあ電車の中だから声を出さないようにしているのか。
でも純粋に元気が無いような気がしたので、
「大丈夫、本当に危険なケガなら救急車に運ばれているはずだから、そうじゃないということは軽いケガだと思うよ」
「うん……」
何か違う。いや勿論ケガを案じているとは思うんだけども、それ以外にも何か引っかかることがあるみたいで。
それ以上のことを聞こうと思ったけども、それよりはまずケガのこともあるしと思って聞くことはやめた。こういうことは順序があると思うし。
たいした会話もせず、二人で電車を降りて、真澄が半歩前を歩く。
真澄は別に電車で眠ることもなく、ずっと車窓を見て黄昏ていた。
そのくせ海が見えてくると、急に俯いて、自分の膝を見始めた。
海こそ見ろよ、と思ってしまった。
親戚のおばさんの家に着いてからが早かった。
「あぁ! 真澄ちゃん! お隣さんに病院へ連れてってもらったよ! 持つべきものは近くの親友ねぇ! 古傷がちょっと傷んだだけだから全然もう大丈夫!」
開口一番にそう言われて、もうやることが終了してしまった。
えっと、じゃあ、と戸惑っていると、親戚のおばさんが、
「って! 隣のイケメンは真澄ちゃんの彼氏ぃっ? こりゃ愛花も嫉妬するわぁ!」
と言ったところで真澄は大きな声で、
「やめて!」
と叫んだ。静まり返ったその場。
真澄がこんだけ彼氏ネタを拒絶することなんてなかったので、何だか挙動不審になってしまうと、真澄がおもむろに口を開き、
「もう愛花ちゃんの話はしないで……」
と言ってその場を走り去ろうとしたので、俺は真澄の肩を掴むと、
「離して! ちょっと涼んでくるだけだから!」
そう言って僕を振り切っていなくなってしまった。
いや、オマエの親戚のおばさんと二人きりにさせられても……と思って、とりあえず親戚のおばさんのほうへ会釈すると、親戚のおばさんは申し訳無さそうに頭を下げてから、こう言った。
「つい言っちゃうのよ、愛花のこと。真澄ちゃんを見ると特にねぇ」
まずこの”愛花”という人のことが分からないと、話が全く見えてこない。
だから、
「愛花、さん、という人は一体誰なんですか?」
すると親戚のおばさんは深呼吸をしてから、
「私の一人娘で、今は病院に入院しているの」
「そうなんですか」
どう返事すればいいか分からず、片言というか棒読みの台詞が出てしまった。
親戚のおばさんは続ける。
「負い目なんて感じる必要無いのにね、愛花と真澄ちゃんは本当に仲が良くて。でもその日はたまたま真澄ちゃんが疲れていたらしくて、愛花が一緒に海へ行こうと言った時、断ってね。愛花が一人で海へ行ったら、高波に巻き込まれて頭を石に打ち付けて……もし私が一緒に海へ行っていたらって真澄ちゃん、ずっと思ってるの」
そんなことがあったなんて知らなかった。真澄からそんな話を聞いたことは無かったから。
「えっと、その真澄ちゃんの友達?」
「はい、幼馴染の加賀佐助です。佐助で大丈夫です」
「佐助くん、きっと真澄ちゃんはいつもの神社にいるはずだから、迎えに行ってくれる? 霞神社というところ。スマホ持ってるよね? それで行ってほしいの」
「分かりました」
僕はスマホに霞神社と入力して、その神社へ直行した。
道中に自販機があったので、そこで真澄が好きなスポーツドリンクの缶を二本買った。
霞神社に着くと、そこで神様に願っている真澄がいた。一体いつから願っているのだろうか。
「真澄、願いすぎると神様も大変だぞ。一旦休もう。というか飲んだら帰ろう」
そう言ってスポーツドリンクの缶を渡し、一緒に近くのベンチに座った。
真澄は元気無さそうに俯いている。
何か言わなきゃと思って、
「話は聞いたよ。真澄のせいじゃない。絶対に」
「でも!」
そう僕のほうを鬼気迫る瞳で見てきた真澄。
僕は優しく頷いてから、
「高波なんて予期できないものだ。真澄がいれば絶対助かったなんて保証はどこにもないぞ」
「でもかばえたかもしれないし」
「もしかしたらなんて存在しない。今ある事象しかない。ほら、親戚のおばさんのケガが軽くて助かったな」
「そうだね……」
スポーツドリンクも飲み干して、二人で親戚のおばさんの家へ。
着くなり、親戚のおばさんがこう言った。
「真澄ちゃん! 佐助くんってもしかすると真澄ちゃんが時たま言う、さがしもの探偵の子っ?」
「そうだけども」
と返事をした真澄。いや僕のこと親戚にも言うなよ。何か恥ずかしいというか、そうやって広げられていくの何か照れるだろ。
伝達は止まらないじゃぁないんだよ。
親戚のおばさんは嬉しそうに手を合わせながら、こう言った。
「じゃああれを頼もうかな! 愛花の得意料理をまた味わいたいの! 私!」
それに対して真澄は、
「まだ難しいんじゃないかなぁ……」
とポツリと呟いたので、僕はそのままオウム返ししてしまった。
「まだ難しい?」
「あっ! まあ、そうそう、ほぼほぼノーヒントだし」
「まだって何だよ、まだって言ったらいずれはしてもらおうと思っていたけどもみたいな感じじゃん」
「そう」
「いやそうなのかよ! どういうことだよ!」
とつい、ビックリついでに大きな声でツッコんでしまうと、真澄は頷いてからこう言った。
「アタシが何で佐助に探偵と料理をさせたいか知ってる?」
「それ真澄に聞くと犬のように逃げ出すヤツじゃん、知らないよ」
「彩花おばさんはずっと愛花ちゃんの得意料理を早く食べたいと言っているんだ。だからアタシが佐助を育てて、愛花ちゃんの得意料理が作れるようになるよう頑張ってたんだ」
「何そのまどろっこしい計画。真澄が俺を育てるの部分も何か怖いし。マッドな博士の最終計画じゃぁないんだよ。それならそうと早く言ったほうが料理の研究しやすいだろ」
「でもアタシ、その、愛花ちゃんとのエピソード話したくなくて……自分で言うと泣きそうになる……」
そう言って瞳を潤ませた真澄。
まあつらいエピソードをあまり言いたくなかったということか。そういう気持ちなら理解できる。
で、今回僕が直接、親戚のおばさん、というか彩花おばさんから聞いたから話しやすくなった、と。
それならば、
「彩花おばさん、で、よろしいですね?」
「はい、私が彩花おばさんです」
そんな変なおじさんライクで言われても、と思いつつも、今はふざけているタイミングじゃないので、真剣に、
「僕でよろしければ、やってみます」
「あらありがとう! 佐助くん! じゃあ早速どんな料理だったか説明するわね!」
と喜んでくださった。果たして再現なんてできるかどうか分からないけども、まずはやってみなければ何も変わらないから。
真澄は何だか少し微笑んでいるような気がした。
この真澄の表情を満面の笑みにするためにも、僕は頑張らなければ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!