テラーノベル
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「大変じゃ、蓮! 貴様、いつの間にこんな破廉恥な動画をネットに投稿しておったのだ!?」
ある日の午後、コマが社務所のパソコン画面を短い前足でバシバシと叩きながら、血相を変えて叫んだ。
「あ? 俺が動画なんて投稿するわけ……」
蓮が面倒くさそうに画面を覗き込むと、そこには自分と全く同じ顔、同じ声の神主が、怪しげな開運グッズを「今ならたったの5万円!」と満面の笑みで売りつけている動画が再生されていた。
「……は? 誰がこんな安物売るかよ。俺なら最低30万は取るわ」
「怒るポイントはそこではない! 偽物じゃ! 完全に貴様の顔と声が盗まれておる!」
蓮が目を細めて画面を凝視すると、動画の『蓮の顔』の表面に、デジタルノイズのような幾何学模様の「緑色の蜘蛛の巣」がべっとりと張り付いているのが見えた。それは最新の生成AIを悪用した、悪質なディープフェイクの怪異――『電子の生霊・なりすましボット』だ。
怪異の隙間からは、不快な電子合成音が漏れ聞こえる。
『この神主は詐欺師』『本物の烏丸蓮の正体』『拡散しろ』
「(なるほどな。俺の顔を使って詐欺を働き、同時にうちの神社の信用を地の底に落とそうって魂胆か。……営業妨害もいいところだな)」
その時、社務所の電話が鳴り響いた。出ると、案の定「動画を見て開運グッズを買ったのに届かない!」という被害者からの怒りのクレームだった。
「おのれ……! このままでは烏丸神社の名が汚れてしまうぞ! 蓮、今すぐこの偽物を消し去るのじゃ!」
「当たり前だ。俺の顔をタダで使って金儲けしようなんて、万死に値する」
蓮はいつになく冷徹な手つきで、ロゴ入りのタッチペンを懐から引き抜いた。
「お祓い代は……あー、今回は被害届の提出と、俺の精神的慰謝料を含めて、犯人の口座から直接毟り取るから依頼料はナシだ。……コマ、あのニセモノのデータを根こそぎ消去(バン)するぞ!」
「おうともさ! 本物のクズ神主の恐ろしさを思い知らせてやるわ!」
コマが怒りでパチパチと純白の神力を放ち、蓮のタッチペンへ注ぎ込む。ペン先には、データそのものを分解する「論理削除」の青いプラズマが激しく渦巻いた。
蓮はパソコンの画面に向かってタッチペンを構え、動画を生成している大元のサーバーIP――怪異の心臓部である「学習データ(コア)」を瞬時にロックオンした。
「どれだけ精巧に化けようが、ただのパターンの寄せ集めだ。――オリジナルを超えられると思うなよ」
蓮がタッチペンを画面のコアに向かって鋭く突き刺す。
「――著作権侵害・一斉データ削除(デジタル・デトックス)!!」
ズガァァァン!!!
画面の中から激しい電光が飛び散り、偽物の蓮の顔が「404エラー」の文字と共にドロドロと崩壊していった。怪異は「学習データが破損しました」という無機質なシステム音を上げながら、今度はシュレッダーにかけられた「大量のコードの紙屑」へと姿を変え、社務所の空気に溶けるように消滅した。
同時に、ネット上に転がっていたすべてのなりすまし動画が、一瞬にしてサーバーから強制削除された。
数日後。
事件の首謀者だった悪質な詐欺グループが、サーバーのデータ全損と、なぜか蓮の裏工作(?)によって口座から「烏丸神社への匿名の高額お布施(お祓い代)」が引き落とされたことで破産し、警察に逮捕されたというニュースが流れた。
夜。社務所で蓮は、新しく振り込まれた「お布施」の額面を見て、フッと悪魔のような笑みを浮かべていた。
「いやー、AIってのは便利だな。勝手に俺の顔で稼いで、最終的にその何倍もの金がうちに転がり込んでくるんだから」
「蓮……お前、今回は被害者を救った形にはなっておるが、やっていることは完全に闇の仕事人ではないか……」
コマが少し引きながらも、新しく買ってもらった高級おやつを幸せそうに頬張る。
「データのゴミを片付けただけさ。本物の価値ってのは、ネットの画面越しじゃ測れないってことだよ」
拝金主義のクズ神主。彼の冷徹なタッチペンは、現代のどんな精巧な偽物よりもリアルに、そして確実に悪意を葬り去っていくのだった。
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