「ちょっと、いちかちゃん正気かい? タワー《狼煙》って…… 」
この店の部長と名乗る男は、厨房とホールを繋ぐ連絡路に身を隠し、まだ入店《ギルド登録》半年にも満たないキャスト《冒険者》『愛咲 いちか』と協議を重ねる。
タワー《狼煙》とはシャンパングラスを金《魔石》の数だけ積み上げ、そのグラス達を全て満たす様に最上部よりシャンパン《エリクサー》を注ぐ、金持ち達の権力を誇示する為だけのパフォーマンス《軍事パレード》である。
「タワー《狼煙》って何段まで種類あるんでしたっけ? ごめんなさい勉強不足で」
幼く可愛い顔が少し俯き、それでいて瞳は熱く決心が垣間見える。
「そんな事はない。入店して半年未満でタワー《狼煙》をやる子なんて初めてだからね、俺も少し戸惑っちゃったけど、そうだね、タワー《狼煙》は5段~15段あって其々金額が異なり、満たしていくシャンパン《エリクサー》の値段によっても変わって来る」
「5段から?…… 」
「そう、10段を越える物は前日から組み上げなくてはならないから、当日では当然無理になる。従って、いちかちゃんがタワー《狼煙》をするなら、5段~7段辺りが現実的だと思うよ」
「値段は? 」
「5段は2万で5掛けになるから設置料だけで10万。これに別途満たしていくシャンパン《エリクサー》の金額が掛かる。ヴーヴクリコ《中級ポーション》なら1本3万で、3本使うとして計算すると9万。合計19万だね。然しこれはキャバクラ《ダンジョン》における底辺のタワー《狼煙》だから、やる意味がないよ。逆に笑いものにされてしまう」
「そうですか…… 」
「大丈夫かい? 焦って無いかい? いちかちゃんが十分頑張ってるのは分かってるよ? 此処で無理をする必要は無いんじゃないかな」
「焦っている訳では無いんです…… これはその…… 対価なんです」
暫く慮《おもんばか》ると目線を横に流し、唇でその細い指を噛んで見せた……
「何か理由がありそうだね。其れならば7段からが現実的だよ。設置が4万×5で20万。ヴーヴクリコ《中級ポーション》5本で15万だから合計35万。突発的なお祝いなら十分な金額になるし、笑う者も居ないよ」
後はお客さんからオッケーが貰えれば問題無いかな。
―――すると後ろから楓が抱き付いてきた……
「私の可愛い子猫ちゃんが悪だくみしてるぅ」
「そうだね。後はその人に相談してみるといいよ、一応スタンバイ出来るように用意はしておくから」
「おっ、お姉さん酔ってるの? 」
「当たり前だろ!! 男といちゃこらしやがって!! 聞きたい事沢山あるわよ。うふふ、こっちにいらっしゃい子猫ちゃぁん。オラ早くしろ浮気者が!! 」