ぴく、と背中が揺れた。
「…マジで?」
もそり、と向けてきた目は、キラっキラしてる。
漫画だったらピョコって犬耳が立っていそうな喜び方。
噴きそうになりながら、私はうなづいた。
「別にいいよ。美保(みほ)ちゃんもご飯はにぎやかに食べる方が好きだし」
「今日も部活あるんだけど」
「なるべく早く帰ってきて。美保ちゃんが先に帰ってきたら、待たないで食べてるからね」
「ケチ」
「あ、なに?いらないの?」
「いります」
「大丈夫だよきっと。美保ちゃん最近残業多いから、蒼が帰ってくる時間と重なるかもかもしれないし」
「ふぅん。おばさん忙しいんだ」
「うん。ご飯も食べてくることが多いから、最近は私も簡単に済ませてたんだけど…。今日はあんたが憐れだから、まともなもの作ってあげるわよ」
「なんかムカつくが…けどサンキュ。お言葉に甘えてほどこしに預かります」
と、蒼は本当にうれしそうに、柔らかく目を細めた。
「楽しみだな。蓮の料理、久しぶりだし」
なんて頬杖つきながら言うその微笑…ふん、かっこいいじゃない…
私はそっぽを向きながら続けた。
「…言っとくけど、今日だけなんだからね。明日からは他の女の子にでも作ってもらいなさいよ。あんたどうせモテるんだから、頼めばたくさん作ってきてくれるだろーし」
「まぁそうだけど…」
否定しないのか、そこっ。
「でもそういうのって、たいてい洋食とか菓子ばっかなんだよな。しかもたいして美味くないし」
「うわひっどーい。さいてー」
今の言葉、さっきの仲川さん含めて女の子たちに聞かせてやりたい。
そしたら、蒼に対するバカみたいな評判も、少しは減るだろうに!
と、ぐさっ、と最後の卵焼きをフォークに差して、頬張ろうとした、その時だった。
ぱしっ
フォークを持つ手が、突然蒼につかまれた。
「なぁ蓮。もしかして、妬いてる?」
え…
そのままグイっと顔が…。
『ヤバい』って有名の切れ長の目が、近づいてきて…
「心配するな。俺、おまえの味が一番好きだし」
あむって、ゆっくりと玉子焼きを頬張った…。
「…てゆーか、おまえ以外、美味いって思えないし。…ん。やっぱうめぇな、おまえの卵焼き」
なに…。
え、
なに…?
ぱっと手が離されて、やっと気づいた。
私、息が止まってた…。
その瞬間、ドキドキドキと胸の高鳴りを感じて、かぁああ、と身体全体が熱くなった。
ムカつく
ムカつく…
ムカつく…!
なによ今の…色気攻撃…っ。
蒼のくせに、生意気なんだけど…!!
そんな私を小バカにするように、立ち上がった蒼ははるか頭上から私を見降ろした。
「そうそう。ちなみに俺、今夜はから揚げがいいんだけど」
はぁ!?
ご馳走にあずかる身で注文!?
ますます生意気なんですけど…!
「今日はお魚の予定です!」
「魚ぁ?」
「じゃないっ! っとにあんたは…!」
「蓮―っ、ごめん待たせたーっ!」
そこへタイミングいいのか悪いのか…明姫奈が戻って来た。
「ま、いっか。じゃまた夜、な」
蒼はポケットに手を突っ込んで澄ました態度言い残すと、岳緒君たちの元へ戻っていく。
「あれ? 蒼くんとしゃべってたの? えへ、邪魔しちゃったね」
「そんなんじゃないって…!」
手早くお弁当をしまうと、私は次の時間の道具を出した。
「つぎ移動でしょ? 早く行って後ろ取ろうよ!」
「ちょ、待って蓮、私まだ全然用意できて…って、なにイライラしてるの??」
「してないよっ」
そう。
してない…。
してないんだから…!
蒼にドキドキした自分が悔しくてイライラなんて、絶対してないんだから…っ。
ムカつく!
あんなにカッコよくなって、あんなに調子に乗って、私をからかって…!
そうよ、からかってるんだ…!
自分がイケてるのをいいことに、私をからかって楽しんでるんだ…!
ホントにもう最近の蒼は、なにからなにまでムカつく…!
ムカつくのよ…。
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