一覧ページ

【改訂版】純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む～

第32話 - 第32話.かたちにして

2025年05月18日

#大人のロマンス

#溺愛

#ハッピーエンド

#再会

#オフィスラブ

#パワハラ

芙月みひろ@恋愛小説

約束の日の数日前に宗輔からメッセージが届いた。そこにはこう書かれていた。

『レストランで食事をしてから、俺の部屋に行こう』

レストランならばと、いつもより少しだけおしゃれをしようと考えた。クローゼットを開けて、並ぶ洋服たちの中に、胸元と袖に透け感のあるベロアのワンピースを見つけた。一昨年前に友人の結婚式に参列するために買ったものだ。それに決める。

宗輔がプレゼントしてくれたリングを指に通しながら、ふと思い返す。こんな風にドレスアップした姿で彼に会うのは初めてだ。彼の目にこの姿はどう映るだろう。少しは綺麗だと思ってくれるだろうか。

仕事を終えて迎えに来た彼に連れられて行ったのは、県下でも上位ランクに入るホテルのレストランだった。最上階にあるそこは夜景が見られるとあって、特にカップルに人気の場所でもあった。

クロークでコートを預けてワンピース姿となった私を見て、宗輔は目を瞬かせた。

何も言わない彼に不安になってしまう。

「変、だった……？」

「いや、違う。綺麗だな、と思って見惚れた」

「あ、ありがとう……」

私は照れながら彼を見上げた。彼のスーツ姿は何度も見ているのに、今夜はいつも以上に凛々しく見えてどきどきする。

「宗輔さんも素敵よ」

「ありがとう」

互いに褒め合っていることが急に可笑しくなり、私たちは顔を見合わせて笑い合った。

レストランに向かいながら、私は彼に訊いた。

「ここのレストランって人気なんでしょ？よく予約が取れたわね」

「だめもとで電話してみたら、タイミング良くキャンセルが出ていたらしくてね。それで予約が取れたんだ」

「そうだったのね」

宗輔はふと視線を下ろし、私の指を見て嬉しそうな顔をした。

「今日は、指輪してくれてるんだな」

「だってデートだから。宗輔さんのは？」

「もちろん、ここに」

彼は微笑みながら自分の左手を私に見せた。

レストランに着いて名を告げてすぐに席に案内される。

「佳奈は飲んでいいんだからな」

私にはワインを勧めながら、彼は今夜も車だからと言ってノンアルコールドリンクを選んでいる。

私は首を横に振った。

「私もそれにするわ。お酒は宗輔さんの部屋に帰ってから一緒に飲みましょ」

「そうか」

彼は微笑みながら頷いた。

それからほとんど間を置くことなく、料理が運ばれてきた。すでにコース料理を予約していたらしい。言葉を交わしながらゆっくりと料理を味わう。

しかし、ふと宗輔の様子が気になった。気のせいでなければ、どこか落ち着かなげに見える。私はデザートを口に運びながらちらりと彼を見た。目が合う。

「このタルトも美味しいわね」

何か言わなければと思い、味の感想を口にしてしまう。

宗輔ははっとしたように目を軽く見開き、それからすぐに目元を緩めた。

「そうだな」

微笑みを浮かべたかと思うと、続けてふっと静かに息を吐き、居住まいを正した。

「佳奈」

「は、はい」

私の名を呼ぶ声に緊張が感じられ、私にまでそれが伝染する。ある予感を抱きながら、私は宗輔を見た。

私を見つめるまなざしは真剣だった。ひと呼吸ほど置いてから宗輔はおもむろに口を開いた。

「改めて言わせてほしい。早瀬佳奈さん、私と結婚してください」

「あ……」

予感は当たり、答えは一つしかない。それなのに、彼に返すための言葉が喉の奥に張り付いてなかなか出てこない。代わりに、こみ上げる想いが涙となって頬を伝い落ちた。

「どうして泣くんだ」

彼の目が焦ったように揺れている。

私は指先で涙を拭き、ふうっと息をついた。

「ごめんなさい。違うの、嬉し涙よ。急に色んなことが思い出されて、なんだか感動しちゃって」

「なんだよ、脅かさないでくれ。ここまで来て、嫌だとか言われるのかと思って焦ったじゃないか。佳奈、プロポーズの返事、もらえるか？」

今ここに人目がなかったら抱きつきたい衝動に駆られる。しかしそれを抑えて、私は宗輔に笑顔を見せた。

「はい。よろしくお願いします」

「ありがとう」

ようやくほっとした顔となった彼は、私の前に小さな箱を置いた。

「受け取ってほしい」

「これは……」

「婚約指輪だよ。近いうちに改めてプロポーズするつもりでいたから、この前ペアリングとは別に注文しておいたんだ。昨日、できあがったっていう連絡があってさ。一緒に受け取りに行けば良かったのかもしれないけど、驚かせたかった。今は大っぴらにつけてもらえないってことは分かっている。だけど、俺の気持ちや俺たちの関係を形にしたものとして、君に渡したかった。結婚指輪は二人で見に行こう。それともう一つ、これも受け取ってほしい」

宗輔は私の前に手を差し出した。

そこには鈍く光る銀色の鍵があった。

「これはこの前言っていた、部屋の鍵？本当にいいの？」

「約束しただろ？新しい部屋のじゃなくて悪いんだけど」

私は彼の手のひらの上からその鍵をそっとつまみ上げ、自分の手の中に握り込んだ。

「宗輔さん、本当にありがとう。嬉しいなんて言葉では足りないくらいに、嬉しいわ」

指輪にも鍵にも、彼の想いが集約されているのだと思うと胸がいっぱいになる。たまらなく幸せな気持ちを噛みしめながら、私は彼からの贈り物たちを胸に抱いた。ふと目を上げてどきりとする。宗輔の目が私を愛おしそうに見つめている。見つめ返したその瞳の奥には、私を求める熱が揺れていた。

「そろそろ帰ろうか」

私は頷いた。彼からのプレゼントをバッグの中に大切に仕舞いこむ。彼に寄り添いながらレストランを後にした。

部屋に着いてリビングの暖房を入れてすぐ、私は宗輔に抱き寄せられた。

それまで抑えていた気持ちを開放するかのように、宗輔は私に口づけ始める。

その激しいキスに力が入らなくなる。私は彼の首にしがみつくように腕を回した。キスの合間に囁く。