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そういえば、今回の怪文書は英語でもなかったのだった。週ごとにわざと変えているのだろうか、今回は数字で構成されている。
「わざわざ変える必要なんてあったのか?」
「あら、直接そんなことを言ってくるなんて、製作者に文句でもあるのかしら」
文句ではないけれど、純粋に気になったのだ。俺はいつものように教室の入り口に立ち、奥出は黒板の前に立っていた。
「こんなの解きにくくなるだけじゃないか。解かせたいのか、解かせたくないのか、一体どっちなんだよ」
「さあ、それは私にも分からないわ。でも、伝えたいことがあるのは確かなことよ」
「数字で何を伝えたいことがある。というか、伝えたいことがあるなら直球で書けよな」
初めて怪文書を見てから、ずっと思っていることだ。どうしてこう回りくどい方法をとるのだろう。
「あなたは文句ばかりね。もう少しこの体験を楽しんだら?」
「楽しむも何も、やっていることは犯罪に近いじゃないか」
「それもそうね。でも、私は楽しいわよ」
「それは趣味の悪いこった」
やっぱり奥出はサイコパスなのだろう。もはや否定するところがなくなってきている。
「まあ、今週はこれでおしまいね」
「お前、先週は休日まで俺を登校させといて、今週はあっさり終わらせるのか?」
「物足りないのかしら。別に毎日やってあげてもいいのだけれど、いや、それは面倒くさそうだからやめておくわ。私にだって予定があるのよ」
「俺の予定はお構いなしかよ」
「止められなかったらあなたの負けになるだけよ。たったそれだけ」
自分勝手な奴だ。まあ、今週は休日登校がなさそうでよかったよ。もう少し会いたいなんて、口が裂けても言えないなあ。
「できれば負けは嫌だな。仕方ない、俺が頑張ればいいんだろう?」
「そうよ、あなたが頑張れば二度と事件は起きない。そうなるはずよ」
「はず、って確定じゃないのか」
「犯罪者が約束を守るとでも?」
「おいおい、それは話が違うぞ。奥出、お前はあくまで生徒会長だ。そんなこと、しないよな?」
「先生みたいなこと言うのね。そうやって、役職を押し付ける」
「別にそんなつもりじゃ……」
そんなつもりじゃないんだ。奥出も意外と、生徒会長という重荷から解放されたいのかもしれない。意外とと思うのも失礼か。
「まあ、別にいいのだけれど。部下が上司に頼るのは当たり前だもの。私たちって結局それに近い関係でしょう?」
「いや、全然違うと思うが。俺たちは対等だ、そう思っていたのは俺だけか? お前は俺といると面白いと言っていたのに、思い違いだったか」
「対等、ねえ。対等って何を指して言っているの?」
「そりゃ、この関係性さ。このゲームに参加している、ライバルとでも言うべきかな」
「それは違うわよ。私はゲームの参加者兼主催者だもの、ライバルだなんて、そんな熱血漫画みたいな立ち位置はやめにしましょうよ」
こいつの言うことはどんどん矛盾していきている。最初、俺は奥出が「普通になりたい」と言っていたのを覚えている。それなのに、今は「私が上」と言わんばかりに主張してくるじゃないか。
「結局お前は何になりたかったんだ」
「私は私、もう、何にもなれないのよ」
奥出は悲しそうな笑みを浮かべている。どこか寂しそうでもあった。俺に何か言いたいことがあるなら、直接言ってくれないと、俺には伝わらない。お前が言ったんだろう、俺は、凡人でも天才でもないと。
「そんなこと言うな。俺が止め続けてやるから、好きなようにすればいい」
「急に紳士ね、私を自由にさせると、痛い目見るわよ」
「もう見てるさ。この二週間、既にね」
「これぐらいでそんなこと言われたら困るわ。もっと頑張ってもらわないと」
「俺にこれ以上を求めるのか。わがままな生徒会長だ」
奥出はこのゲームを楽しんでいるのかと思っていた。でも多分それは違くて、舞い上がっているのかもしれないが、俺を楽しませようとしているんだ。
俺は二週間前、こんなのはきっと頭のおかしい、俺の知らないような誰かがいたずらで怪文書なんか作ったんだと、そう思っていた。でも、実際は俺より明らかに頭のいい、しかも生徒会長という役職を持った天才が奇行を犯していただけなのだ。俺が深く考えている時、携帯の着信音が鳴った。
「もしもし、私だけれど」
「なんだ、詐欺か?」
「生徒会長の、奥出早紀よ」
「名乗るなんて珍しい、何の用だ」
もう今週は終わりではなかったのか、まだ言ってから一日しか経ってないぞ。
「明日、予定はあるかしら」
「特にないけど、それがどうした」
「よければショッピングに行きましょう。あなたに頼みたいことがあるのよ」
なんだろう、俺は夢を見ているのだろうか。奥出が俺なんかにそんなこと言うはずがないのに。
「お前、変なものでも食べたのか」
「失敬ね、うちの食事はいつでも安心安全よ」
「そういう意味じゃない。急にどうしたんだ、というかなんでわざわざ電話なんだよ。そんなこと、昨日直接言えばよかったじゃないか」
「い、言えなかったのよ……」
急に奥出の声が小さくなる。あの奥出が、本当に珍しい。
「え、聞こえなかった。もう一回言ってくれ」
「言えなかったのよ。なんだか言葉が詰まってしまって、こんな感情、初めてだわ」
おお、女の子らしいじゃないか、俺は凄くそそられるよ。
「で、返事はどうなのかしら」
「もちろん行くよ」
「じゃあ、〇時に〇〇駅前に集合ね。よろしく」
「あ、ちょっと、頼みって一体……」
切られてしまった。ああ、俺は拷問でも受けるのだろうか。
翌日、約束通りに待ち合わせ場所に着くと、爽やかな風を浴び、なんだかそわそわしている、白いワンピースにリボン付き麦わら帽子を被った奥出が、そこにはいた。
「時間ぴったりね。さあ、行きましょう」
「あ、ああ……」
俺もなんだかそわそわしている。女子とデートだぞ、こんなの、想像の範囲を超えている!
「後輩の誕生日プレゼントを選びたいの、男であるあなたの意見を聞かせてちょうだい」
「その後輩は男なのか?」
「いいえ、女よ」
いや、お前のほうがよく知っているだろう。奥出、俺に女子へのプレゼント選びができるようにみえるのか。
「何故俺なんだ」
「他に男の知り合いがいないから、かしら」
「いや、そうじゃなくてさ、相手が女子ならお前だけで十分だろ」
「私、女の気持ち分からないのよ。とりあえず可愛いものをあげたらいい、くらいに思っているわ。男の気持ちは手に取るように分かるのだけれど」
逆になんでなんだ。俺だって女子には可愛いものを、という認識でしかない。
「はあ。じゃあ、その後輩の趣味とか、好きなものとか分からないのか?」
「そういえば、スクールバッグに『もちもち餅巾着ちゃん』のキーホルダーがついていたかしら。携帯の待ち受け画面もそのキャラだったわ」
なんだ、その明らか可愛いに振り切っているような名前のキャラは。知らんぞ俺は。
「趣味は分からないけれど、部活は確かテニス部って言っていたかしら」
「よし、とりあえず可愛い雑貨屋に行こう」
俺たちはショッピングモールにある雑貨屋を片っ端から訪ね、『もちもち餅巾着ちゃんVer.テニスボールカラー』という意味不明なぬいぐるみを手に入れたのだった。
「目的に沿ったものが丁度あって良かったわ。今日はありがとう」
「まあ、役に立ったなら何よりだ」
結局俺は何のために呼ばれたのだろう。絶対に俺じゃなくてもよかったはずだ。まさか、怪文書以外の接点を作ってしまうとは、なんと恐ろしい女子だ。