テラーノベル
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指先を包む感覚は過剰なほどに熱く、湿潤としたそこは不安定にうねる。こうして男の深淵に触れたのも、オメガの身体に触れたのも、生まれて初めてのことだった。知識だけが積み重なっていた思考が、リアルな感覚に溶け込んでいく。
阿「凄っ、もうとろとろ……」
舘「っオメガと、っん、したこと、っないのかよ」
阿「うん。アルファかベータとしかやったことない」
舘「あー、頭いいもんな……んっぁ、っはぁ」
前立腺に当たる位置で指先を軽く折り曲げると彼は腰を震わせて甘い嬌声を上げた。素直な反応が可愛すぎて、こっちがおかしくなりそうになる。同時に、中の熱い液体がぐちょぐちょと淫猥な音を立てながら増えていくのを指先で感じて、自身の熱が体内で燻った。
舘「ねぇ、も、いいから……」
阿「わかった。ゴム、どこ?」
舘「……生がいい」
紅潮した滑らかな肌は汗で湿っていて、俺を見つめる黒く丸い瞳はとろりと綻んでいる。その姿が酷く艶やかで、どこか切なげなその表情がそれに拍車をかけて俺を惑わそうとしてくるのを、必死に拒むように頭を振った。そんなことをしたらどうなるのか、いくら熱に浮ついた頭でも理解しているだろうに、本能がそれを求めてしまっているのだろうか。
阿「そのお願いは、叶えられないな」
舘「……中に出して、種付けして。腹、寂しい」
阿「そんなことしたら赤ちゃんできちゃうでしょ」
舘「っできない。俺オメガだけど、生殖機能もってないから……」
そんなあからさまな嘘を吐いてでも、ゴム無しでしたいのか。必死に俺に訴えかける彼の健気さに少し切なくなって、俺は優しく抱き寄せて彼の黒い髪を撫でた。耳元で弱々しく彼が俺の名前を呟く。裸になった俺の首元に一滴の雫がこぼれ落ちて胸元を伝っていくのを感じた。
胸がぎゅっと締め付けられて、俺は嵐のやってきた暗い夜に一人取り残されたような気分になった。彼を宥める手を止めずに考えた。どうすればいいのか、どうするのが彼にとって一番いいのか。考えても、分からなかった。頼りない自分に嫌気が差す。
アルファとして何不自由なく生きてきた。そのおかげで、彼の痛みが分からない。
阿「……ごめん。ごめんね、舘さん」
舘「なんで、謝るんだよ。『そんなこと軽々しく望むな』って、怒れよ」
阿「俺は、いままでオメガの人たちと関わってこなかった。大学の知人も同僚も、もしかしたらいたのかもしれないけど、基本的には皆ベータやアルファだった。だから、俺の中には平面的な知識しかない。それに伴う感情も痛みも感覚も、俺は分かってない」
彼の赤く染まった瞳を指先で優しく拭う。輪郭に手を沿わせるように肌に触れると、彼の体温の心地よさに目眩がした。
阿「だから教えてほしい。形だけじゃなくて、ちゃんと涼太の傍にいたいから」
舘「……阿部」
くだらない言い訳だった。今までオメガのことなんて、詳しく知ろうともしてこなかったくせに。彼がアルファじゃないなんて、今日まで知らなかったくせに。
突然唇をなにかに塞がれて、吐き出しかけた謝罪の言葉は元いた場所に戻っていった。柔らかく熱を含んだ彼の唇が何度も何度も角度を変えては俺を慰めるように触れ合った。ほんと、舘さんは優しすぎる。
舘「阿部は阿部のこと、嫌いにならなくていいんだよ」
阿「……え?」
舘「好きなやつのこと悪く思われると、ちょっと腹立つし」
儚げにそっと笑った彼が澄んだ瞳で俺を見つめた。その瞳が物語る全てを大切に受け止めて、丁寧に心に置いておく。穏やかな沈黙が二人を包みこんで、毛繕い合うように緩やかなキスを何度もした。
阿「お腹満たすのはまた今度にしよっか。色々準備しなきゃだから、ね」
舘「流石に信じないか……まぁいいよ。亮平と繋がれるだけで十分だから」
遠い昔に交わした言葉を、ぼんやりと思い出した。まだ今よりも大切なものが少なくて、色んなことに必死で何度も傷つけ合っていた幼いあの頃。珍しく弱々しい雰囲気をまとって小雨を降らせている彼に、声をかけたあの日のことを。
色褪せた記憶から漂う甘酸っぱい未熟さが懐かしくて、思わず吹き出してしまった。あぁ、真正面からブーメラン喰らわされたわけだ。
阿「ねぇ、涼太。俺のこと、いつから好きだった?」
そんな昔の些細な言葉を覚えているなんて、好きじゃなきゃできないでしょ。
◇
もっと、もっと奥に俺の印を。どこか焦るような思いで、逃げようとする彼の体を掴んでは何度も腰を打ち付けた。誘うように再びフェロモンを振り撒かれてしまい、今まで溜め込んでいた分の感情が暴発してしまったのだ。苦しそうに恍惚とした笑みを浮かべる彼の華やか過ぎる色気に、思わず見惚れてしまう。
舘「っ、あぁっあ゛っん、ん゛ふっ……あべ、あべぇっ」
阿「ん、なぁに舘さん」
舘「んぁっ、もっと、おくっ、おくきてっ、っく、んっんぁ゛〜〜っっ」
阿「かわいっ……気持ちいいね、舘さん」
舘「あ゛へぁっっ、イったばっか゛ぁっ、やら゛ぁっ、っあっあぅぅ゛」
無意識か意図的か、俺の腰に足を巻き付けて抱き寄せるように力を入れてくる彼に煽られるがまま、俺は本能に身を任せるように腰を振り続けた。痙攣する身体を丸めるようにして果てる彼の肌に張り付いた前髪を丁寧に払い除ける。すると、熱に呑まれた黒い瞳と目があって途端に中の収縮が激しくなり俺は思わず顔を歪めた。
阿「目、合っただけでイっちゃった?」
舘「っあっん、っく、っだぁ゛んう゛っうぅ゛〜〜っ」
阿「あー、もうイクの止まんないね。……っぁ、気持ちいい」
必死に頭を振っている彼の頭を優しく撫でると、彼はそれだけで身体を震わせて悦んでくれた。気がつけば彼のものからは殆ど何も出てこなくなっていて、果てたとしても弱々しく項垂れたままのそれから微量の透明な熱が吐き出されるだけだった。
高頻度で収縮する彼の内側が快楽に化けて俺のソレを包みこんでいく。迫りくる限界に駆られて、更にスパンを速めていくと彼は必死に俺に抱きついてきた。耳元で一心不乱に鳴いている彼の声が脳に甘い毒を回していく。
阿「もう俺の舘さんなんだよね、ね、そうだよね……俺だけの舘さん、好き、大好きっ、もう離さないから」
舘「っあっんぁん゛っおれもっ、しゅきっ、りょーへっ、すき、すきっぃ゛あ゛〜〜っっ」
どろりと吐き出した熱が薄い膜の中に渦巻いていく。それと同時に心の中に溜まった粘着質な感情の正体が、今はまだ分からなかった。
◇
真っ白なシーツの海の中で規則的に揺らぐ彼の背中をぼんやりと見つめた。咲いた花の鮮やかさは時間とともに褪せていって、それでも彼の首元……というより、ほぼ肩に近い位置に残された歯型はくっきりと肌に浮いていて、何度も見る度に口角が緩む。オメガのフェロモンを全身で浴びていても、首筋に歯型が残ることによる影響は考えられた、なんて不思議な話だ。それだけ、彼のことが大切で愛おしくて離したくない存在だということなんだろう。
正式に舘さんと、番になってしまった。爪先から込み上げてくるのは繋がりあえた幸福か、それともそれによる面映さか。
時刻を確認しようと手に取ったスマホの光に目を劈かれる。浮ついた心を叱られたような気分になった。ちゃんとオメガについて勉強し直そう。薬のこととかヒートのこととか。バラエティ番組や朝の情報番組、音楽番組に雑誌の撮影と有り難いことに俺の日々は非常に充実している。それに比例するようにやらなければならないことも日に日に増えているのは事実だけれど、そんな忙しさなんてどうでもいい。削れる時間であるのなら、いくらだって彼に捧げたい。
阿「……好きだなぁ」
心の器では抱えきれなくなった想いが口から言葉となって溢れ出ていく。もう、この感情も隠さなくていいのか。もちろん、表では今まで通り隠さないといけないけれど。それでも、この身体中に満ちた幸福に変わりはない。
彼の肩に柔らかいシーツを掛け直して、後ろから抱きしめるように身体を寄せた。布の中で木霊したふたりの体温が心地よくて、目蓋を閉じればそのまま意識は遠くへと浮遊していった。
喜びも痛みも苦しみも、俺に全部頂戴。もう、涼太は俺のものなんだから。
コメント
2件
ほんとにストーリーも面白いし、天才すぎます!!!!! いつも素晴らしい作品をありがとうございます😭
うわぁぁ~~っ😭😭ありがとうございますありがとうございます😭😭😭 え、もう、、天才、最高、感謝、(語彙力皆無) もうこれだけでお腹いっぱいなのにDomSubも書いてくださるとかどこぞの女神様ですか?????