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「これ、どうかな? 好みじゃなかったら後日、別の物を用意するけど、今日着る物としてサイズは合う?」
涼さんが出したのはアイボリーカラーのシンプルなスウェット上下だ。
「あ……、どうも。多分サイズは合うと思います」
ウエストゴムの物なら問題ないと思うし、バストサイズも関係ない。
「俺も愛用してるルームウエアなんだ」
そう言って涼さんはウォークインクローゼットの引き出しから、同じデザインの黒を出す。
「……ペ、ペアルックですか……」
うろたえると、涼さんはニカッと笑う。
「うん、まぁそんな感じ。これ、リカバリーウェアって言うんだ。着ていると血行促進してくれて、体が温まるし疲労回復にも繋がる」
「へぇ! 効果あるんですか?」
興味津々で尋ねると、彼はクスッと笑って言う。
「一晩でピンピンに元気になる訳じゃないけどね。最低限、直に着て二十日過ごしたら、『朝起きた時に体が軽いかな』って感じるぐらい。一応、一般医療機器として販売されているんだ」
「へええ……」
未知の世界を知った私は、手にした何の変哲もないスウェットをスリスリと触ってみる。
「念のため、色違いにラベンダーとピンクも選んだけど、好みじゃなかったらごめんね」
「い、いえ! 用意してもらえただけで、充分です」
「あと、さっき下着をフィッティングしたと思うけど、上下セットの他にもう少し気軽に着けられる物も見繕ってもらった。とりあえず今夜穿く下着も用意してもらったから、……どうぞ」
最後に涼さんは照れくさそうに笑って、袋に入った商品を渡してくる。
「わ、わ……。す、すみません」
こんな格好いい人に下着の面倒まで見てもらうなんて、恥ずかしくて堪らない。
「こっちもウォークインクローゼットになってるんだ。スペースを空けるから、恵ちゃんの物も入れておこうね」
今いた場所の向かい側にも細長いウォークインクローゼットがあり、そこにもある程度涼さんの服が置かれてある。
「や、私の服はそんな多くないので! 家主の領域を侵犯したら申し訳ないです」
「侵犯って!」
涼さんは私の言葉に笑い、お腹を抱えてプルプル震える。
笑いが収まったあと、彼は私の顎を摘まんで顔を覗き込んできた。
「一応、奥の部屋を恵ちゃんの私室にしようと思っていて、そこにもウォークインクローゼットがあるから安心して。それにまだ当分は二人暮らしだと思うし、普通のクローゼットもあるから全然大丈夫」
「はぁ……」
すっかり同居する事になってしまったようで、私は生返事をする。
嫌な訳じゃないけど、「本当にいいのかな……」とまだ半信半疑だ。
「今すぐじゃなくていいけど、お風呂の準備もしておこうか。バスルームと洗面所の案内をするね」
ルンルンの涼さんは、引き戸を開けて奥に行く。
すると玄関から入ってすぐの空間につながり、その横手にホテルみたいに落ち着いた雰囲気の洗面所に手洗い、奥に広いバスルームがあった。
洗面所は高級感のある黒大理石でできていて、チョコレート色の木目調の引き出しや、間接照明も相まって、とてもゴージャスだ。
(……普通の家には洗面所に胡蝶蘭ないよな……)
私は洗面台の横に飾られてある白い胡蝶蘭を見て、「あはは……」と笑う。
大きな鏡はピカピカで一点の曇りもなく、二つあるボウルは広くて使いやすそうだ。
涼さんは後ろの収納棚を開け、中からブラウンのバスタオルを出す。
「バスタオルはここに置いておくね。あとは歯ブラシと歯磨き粉と……」
そう言って彼は引き出しから未使用の物を出すけれど、私が知っているドラッグストアで売っている物と違う……。
そしてさらに彼は収納の中を見せて、少し困った表情で尋ねてきた。
「この通り、使ってないボディソープが沢山あるんだけど、どれがいい? 好きなの使っていいよ」
ズラリと並んでいるのは、朱里が好きそうな奴だ。
彼女からプレゼントされた事もあって知っているのは、ジョー・マローンやスリー、イソップ、他にもシャネルやディオール、エルメスなど、そうそうたるブランドのボトルが箱のまま並んでいた。
「えええ……」
こんなの選べない。
ドン引きした私の表情を見て、涼さんはまた横を向いて笑っている。
そのあと、「髪、触るよ」と言ってサラッと触り、「直毛で毛量が多いタイプかな」と言い、やはりズラリと並んでいるシャンプー類を見繕う。サロンか。